第1話 ヘラクレス
四人は秋葉大地の敷いたレールの上を走る列車の如く、『GARDEN』にやって来た。終着駅に辿り着いた四人は今、正に禁断の扉を開けた所だった。大地が仕掛けたトラップが待ち受けている事など、この時点でエマ達は知る由も無い。
明かりが灯された空間で四人が見た『奇怪な物』とは一体何なのか?......それは想像だにしない実に奇怪な集団だった。
「これ......すごい良く出来てる。何だか今にも動き出しそう」
春子は今にも目が飛び出しそうな表情を浮かべながら呟いた。彼女は興奮するとよくそんな表情を浮かべる。
「確かに良く出来てるな。昔東京タワーで見たけど、それより全然リアルだな。ちょっと気持ち悪い位だ」
山本の目もそれに釘付けとなっている。
「お姉ちゃん。これってお人形さんなの?」
玲奈はさっきから大きな目をパチクリさせていた。
「蝋人形......」
エマが重い口を開く。
「蝋人形は分かるけど......なんでこんな所に?」
四人が『GARDEN』で見た奇怪な物......それは迎賓館の入口とも思える正面玄関の内側に扇状に広がっていた。その数、数十体。それぞれが異様な空気を醸し出している。
前中後に三列。扇状に置かれたその蝋人形達は、全て銅製の四角い台座の上に固定されていた。立ってポーズをとっているもの、跪いているもの、しゃがんで物思いに更けているもの......その形態、表情は十人十色、様々であった。
床はその全面が赤い絨毯で隙間なく覆われ、内装はまるで、中世の宮殿のごとく飾り付けされている。よくよく見れば、天井からぶら下がるシャンデリアを始め、その全てがビクトリア王朝を意識した装飾で統一されていた。個人が趣味で作ったのであれば、相当な凝りようだ。狂気とも言える。
「ここは博物館なのか?」
「こんな所に博物館? 一体誰が見に来るっていうの?」
「それもそうだ。よく分からん」
「......」
一体誰が何の為に?......考えれば考える程理解に苦しむ。
「この台座......何か文字が書かれてる。何て書いてあるんだろう?」
それら蝋人形を固定している台座には、全て何やら文字が書かれていた。正確に言うと、書かれているのではなく彫られている。その表現が正しい。日本の『墓』に刻まれた文字を想像して貰えばそれに近い。
「こいつはHERCULES......ヘラスレスって書かれてるみたいだな。確かにこの蝋人形......着ている服を見るとヘラクレスって感じがするけど......でも顔が全然イメージ違うな。これどう見ても日本人の顔だぞ」
白い布を僅かに纏ったほぼ裸体に近いようなその姿......筋肉質な体と言う事に関しては、ヘラクレスそのものとも言える。しかしカラスのような黒い頭髪に、掘りの浅い顔。これに関しては誰がどう見ても日本人。ヘラクレスとは程遠い。
「ここまで精巧に作るんなら、顔もそれらしく作ればいいのにね」
春子は『ヘラクレス』の正面で腕を組み、何か物足りなさそうな表情で呟いた。
「お姉ちゃん。蝋人形ってプニュプニュしてるんだね。ほら......」
玲奈は『ヘラクレス』の露出した腿を指で押していた。押す度に影が動き、腿が浮き沈みしている様子は遠目で見ても分かる。
「ちょっとそれ変。蝋人形って蝋で出来てるから蝋人形なんでしょう? 蝋ってプニュプニュしたっけ?」
春子も玲奈に続いてヘラクレスの腿を押してみた。確かに凹む。
「これ......蝋人形なんかじゃ無い。まさか......」
春子の顔は見る見るうちに蒼ざめていった。




