第7話 親鳥
「おやっ? 窓が開いている......」
閉じられた裏口の扉のすぐ右脇。そこには腰高程度の高さに小窓があり、十センチ程度開いたその隙間からは、内部の様子が容易にうかがえた。ここは建物の裏側なのであろう。エマは窓の隙間から静かに中の様子を伺った。
二メートル程度の折り畳み式横長テーブルが二個並べて置かれており、その下にはいくつかの段ボール箱が無造作に投げ置かれていた。
広さは十二畳程度。控室か休憩室なのか?
そのたぐいの用途として使用されている事は間違いなさそうだ。静かに扉を押してみると、意外にも施錠はされておらず、エマは難なくその部屋内へと足を踏み入れる事が出来た。
施錠されていない......即ちそれはこの建物の関係者にとって、他の誰かが侵入しても支障は無い。そう考えるのが自然であろう。
段ボールの中には、水、スナック菓子などが満タンに詰め込まれていた。この状況は実に不可思議に思える。
何? この段ボール内の水と食料は?
追われ人への救いの手なのか? まさかそんな事は無かろう......
エマはミネラルウォーターのキャップを外し、一口だけ口に含んだ。無味無臭だ。結果論になるが、毒入りで無くて良かったと言えよう。
まずはこの水を三人に!
エマは巣で親鳥の帰りを待つ小鳥のような三人に、水を与えるべく、急ピッチで走り戻った。
まさか襲われたりしてないだろうな? 三本のペットボトルを抱えながら走るエマは、正に親鳥そのものだった。
「エマさんが帰ってきたわよ!」
エマの帰還に最初に気付いたのは春子だった。
「おお、何か持ってるぞ!」
山本は思わず身を乗り出した。
「お姉ちゃんだ! やっぱ戻って来たじゃん」
玲奈は得意満面。玲奈のその発言の裏にはエマの留守中に「どうせ戻って来ないよ」的な会話が行われていた事を意味していた。
同じ境遇だからとは言え、ちょっと前に会ったばかりの関係。三人を置き去りにして、一人逃げたとしてもおかしくはない。しかしエマはそんな事に気を留める様子は無かった。
「はいっ、水」
皆にペットボトルを渡した。
「おおっ、水だ!」
山本は我先にエマから水を奪い取ると、その水を一気に飲み干した。
「ああ......生き返る」
春子も水の恩恵に感謝。
「お姉ちゃん有り難う」
玲奈も春子に同じ。
相変わらず、周囲に人の気配は無い。風が草木を揺らす音のみの世界......その中で四人は束の間の休息を楽しんだ。
「この先に無人の建物があります。この水はそこで誂えたものです。水以外に食料もありました。この島を脱出する手段が眠っているかも知れません。一旦その建物に移動します。追手が来る前に出発しましょう」
「食べ物もあるのか! 天はまだ俺達を見離していなかったな。さあ行こう!」
「私達すごく運がいいわね。行きましょう!」
「玲奈今度はお腹すいた。早く食べに行こう!」




