第4話 ターニングポイント
「はい。では早速準備に取り掛かります。失礼します!」
厳七は胸を躍らせながら院長室を走り去って行った。大地は誰も居なくなった部屋で、不敵な笑いを浮かべながら一人呟く。
クレオパトラが蘇る日も近し......
フッ、フッ、フッ......
時刻はすでに夜の十時半を回っていた。これから佐久間厳七の指揮下において、大規模な『キツネ狩り』が始まろうとしている。
一方その頃キツネ達はというと......
「ちょっと春子さん。頭下げて!」
牢獄で囚われの身となっていた山本順、斉藤春子、玲奈、そしてエマの四人は、牢獄の建物から北へ凡そ三百メートル程進んだ茂みの中で身を潜めていた。
長期に渡り牢獄に幽閉されていた山本、春子にとっては、久方ぶりの外気......外の空気はこんなにも美味しいものだったのだろうか。
いつ出れるやも知れぬ狭い牢獄の中に何日も押し込められていた訳だから、今そこから解放された二人にとってはこの茂みの中も天国と言えた。
しかしそんな二人にゆとりの時間を与えてくれる程、神は甘く無かった。四方から自分らを捕まえようとする狩人達が、湧水の如く現われ、その数は時間と共に増え続けていく。
近代的な港の周りに、等間隔で作られた監視塔の頂上から弧を描くように発せられるスポットライトの光が、春子の頭を危うく霞める所だった。進退窮まるとは、正にこういう時の事を言うのだろう。
「おい春子さん。頭上げたらだめだって。見付かっちまうじゃないか!」
山本はカメのように頭を引っ込めながら、小声で叫び声を上げた。胴体は見事に草に埋まっている為、春子の位置から見るとまるで生首のように見える。
「だってやだここ......今変な虫が足に乗っかったのよ。気持ち悪いったらありゃしない。まあ、あなたの生首よりは虫の方がましだけど」
「生首? 俺がか?」
山本は全く意味を理解していない。
西に広がる近代的な大きな港......ここは本当に極神島なのか? エマがそれまで見て来た極神島とは、長閑な海岸、木造の古民家、手付かずの自然。所謂『田舎』そのものの風景ばかりであり、近代的と名の付くものは何一つ無かった。
しかし今エマの目の前に広がる港、そしてそれを扇状に囲む建物群は正に『近代都市』そのものだった。極神島のほぼ九割以上を占める田舎の風景は、もしかしたらこの眼前に広がる近代都市をカモフラージュする為の造作に過ぎないのでは無いか? そんな気持ちにさえなってくる。
このままただやみくもに逃げていても、いつかは必ず捕まる......臓器を抜かれて『神の僕』にされるのが関の山だ。それを回避する為の進むべき道......それを考えねばならなかった。どう行動すべきか? この先の運命を大きく分けるターニングポイントに差し掛かっていた。




