第3話 生け捕り
「いや、何でも無い。ちょっと昔の事が過っただけだ。そんな事より柊恵摩という娘......地下に捕えてると言ってたが、念には念を入れて警備を強化しておけ。すぐにだ」
「はい。分かりました。仰せの通りに致します」
その時だ。プルルルル......プルルルル......突然院長室に電子音が響き渡った。秘書室からの内線だ。大地は乱れた前髪を手で整えながら、机の右端に置かれている受話器を手に取った。
「なんだ?」
「監視室から内線が入っています。佐久間様宛てですが如何致しましょうか?」
つんつんとした甲高い女の声。受話器を耳に当てなくても十分聞こえる。
「佐久間君。君の優秀な部下から電話だよ」
皮肉たっぷりな言い方は、この男の癖なのだろ。厳七は特に気に留める様子も無く、手渡された受話器を受け取った。
「何の用だ? 院長室には電話するなと言っただろう!......それで要件は?......なっ、何だと!......それで!......なんて事だ。わっ、分かった。お前達はその場で待機。すぐに指示を出す。いいな!」
それまで何を言われても表情一つ変えず、冷静沈着であった厳七も、この電話を受けてからは一変した。
「監視室からと言っていたようだが......まさか?」
「そのまさかです。申し訳ございません。あの娘が......柊恵摩が逃げ出しました。しかも牢獄で捕えていた三人も居なくなりました。この不覚......お詫びのしようもございません。すぐに捕まえます!」
厳七は大地に会釈すると同時に、院長室の出口へと駆け出して行った。
「待ちたまえ!」
突如大地は走り去ろうとする厳七を呼び止める。
「なっ、何でしょうか?」
「あの娘、絶対に傷つけたらいかんぞ」
「解っています。臓器を傷つけるような捕え方はしません。撃つ時も胴体は避けます。それは心得ていますからご安心を」
「違う! 一切体に傷を付けないで捕えろと言ってるんだ!」
「それってどういう事ですか? あの娘の力は先程申し上げた通りです。
すでに何人もやられています。全く傷を付けないで捕えるなんて無理です。
殺す事だって難しいというのに」
「GARDEN」
大地はポツリと言った。
「良く聞こえませんでしたが今何と?」
「GARDENだよ。GARDENに追い詰めろと言ってるんだ!」
「GARDENって......あのGARDENの事ですか? 一体何で?」
厳七は全く大地の話が見えていない様子だ。
自称短気の大地は、明らかにイラついた表情を浮かべた。
「君は本当に鈍いな。良く考えてみろ。あそこにあるものは何だ? 思わぬ味方がいると思わんか?」
「思わぬ味方ですか......果て?......もしかして」
「そうだよ。そのもしかしてだよ。彼らを味方につけろと言ってるんだ」
「彼らですか? なっ、なるほど!」
「その通りだよ。気付くのに時間が掛かり過ぎだ。
とにかく使えるものは何でも使うのが私の主義だ。まあ一網打尽にして来い。
それと......分かっているとは思うが、今度しくじったっら後は無いぞ。いいな!」
「分かりました。それにしても院長の発想にはいつも驚かされます。これは正に奇策です。必ずや柊恵摩を無傷で捕えて見せましょう。楽しみにしていて下さい」
「いいな、キツネ狩りの要領だぞ。周りを囲んで徐々に徐々にGARDENに追い詰めていけ。あとは分かるな?」
大地は不吉な笑いを浮かべながら言った。




