第2話 逃亡
「ほう、お前の顎に一撃か。それは大したもんだ。ハッ、ハッ、ハッ」
大地は肩を震わせながら、皮肉混じりの笑いを浮かべる。
「この娘、職は探偵です。名前は柊恵摩。例のカメラマンの件で、何者かに雇われたものと思われます。現在依頼した人間を調べております。それと、これは申し上げにくいのですが、そのカメラマンに情報を提供していた人間が島内に居たようです。内通者の存在が明らかになりました。そちらの割り出しについても、現在捜査を進めています」
「何? 内通者だと。間違い無いのか? そんな者が居るとしたら、よっぽど命が惜しくないのかただのバカだ。まあ良い。すぐに見付け出して消せ。いいな!」
大地は一瞬動揺した表情を浮かべたが、すぐに皮肉混じりの薄笑いで打ち消した。
「はい。今、そちらの捜査に多数人員を当てています。見付け出すのは時間の問題です」
「宜しい」
大地は一度テーブルに置いたワイングラスを再び手に持った。背後にはまだそこに仁王立ちしている厳七の姿が残っている。
「何だ。まだ何か用か?」
「悪い話しの方がまだです」
「内通者の話が悪い話じゃ無かったのか?」
「 違います」
「宜しい。話したまえ」
「実は......カメラマンの婚約者である桜田美緒殺害の為に送り込んだ刺客ですが......残念ながらしくじりました。送り込んだ五人の内、二人がすでに死亡。残りの三人も離散し、事件の重要参考人として現在警察に追われています」
「何? 警察に追われてるだと! お前ん所の傭兵達は一体何をやってるんだ! 傭兵を作り上げるのに幾ら予算を注ぎ込んでると思ってんだ? 警察に余計な事話される前に消せ。すぐに始末しろ!」
大地は手に持っていたワイングラスを床に投げつけた。ガシャン! ガラスの破片とワインが四方に飛び散り、その破片の一部が厳七の頬をかすめた。厳七の頬から一筋の血が流れる。それでも厳七は表情一つ変えない。
「お怒りはごもっともです。申し訳ございません。ご指示を頂くまでも無く、すでに手を打っております。私の命に掛けて、警察に捕まる前に口を封じます。ご安心下さい」
全く使えん奴らだ!......そんな内面の気持ちが、大地の表情に現れている。厳七は構わず続けた。
「カメラマンの婚約者である桜田美緒を守っている人間が居ます。素人ではありません。送り込んだ我々の精鋭もその連中にやられました」
「何? 支援者が居るとでも言うのか」
「はい。例の柊恵摩の部下達と思われます。EMA探偵事務所の人間です」
「......」
大地は突如言葉を発するのを止めた。探偵......そして柊という名。まさか?
「何か思い当たる節でも?」
厳七は少し訝しい顔で問い掛けた。




