第7話 脱獄
その時だ。
「バタン!」
突如ICUの扉が開いた。
「なっ、何?」
今にも取っ組み合いを始めそうになっていた看守達の動きが止まる。
するとICUから出て来たのは、白衣を纏った医師だった。医師は慌てふためいた様子で乱雑に扉を閉めると、急ぎ足で薬品庫の方へと小走りに向かって行った。ICUの中での慌ただしい様子が垣間見れる。
「何かまずい事になってるような気がするんだけど」
「もしあの女が死んじまったら......俺達どうなるんだ?」
「さあな......」
「......」
「......」
その後は誰も口を開かなかった。皆沈痛な表情を浮かべている。
五分、十分、二十分......時間はどんどん経過していった。でぶっちょは、徐に腕時計に目をやった。
二十一時三十分......
「そう言えば、薬剤庫の方に走って行った医師だけど、全然戻って来ないな。どこ行ったんだ?」
「ああ確かに......それはそうと、何かICUの中随分静かじゃないか?」
「いや、実は俺もちょっと気になってたんだ。あの医師が出て行くまではかなり騒々しかったぞ」
三人は同時に顔を見合わせた。
まさか......
マッチ棒は立ち上がると、ICUのドアノブに手を掛けた。
「失礼します」
キー......僅かな音を立て、扉が開く。
恐る恐る三人は開いた扉の隙間から顔を覗かせた。その隙間から見る限り人の姿は無い。しかも水を打ったような静けさだ。
誰もいない? そんな訳は無いだろう!
看守達は慌ててICUの中に飛び込んでいく。
三人の目に映った光景......それは全く想像だにしなかった光景だった。五人の医師が皆倒れ、気絶しているでは無いか!
何てことだ!
一人は頭に大きな瘤が出来ていて、もう一人は鼻が潰れて顔が歪んでいる。またもう一人はゴミ箱に頭を突っ込んだまま動かなくなっており、もう一人は前歯が全部折れて、口の周りが血まみれになっていた。最後の一人に限っては、ベッドに寝かされたまま意識を失い、まるで眠っているかのようだ。
「ところであの女はどこに居るんだ?」
「あの女の仕業か!」
どこを見渡しても隠れるような場所は無い。窓も無ければ人が抜け出せるような通気口も無い。
「さっき出て行った医師......あれがそうなのか!」
三人はお互い顔を見合わせた。見る見る顔から血の気が引いていく。
「こうしちゃいられんぞ。おいマッチ棒。お前はこの寝っ転がったヤブ医者達を介抱してろ。酔っ払い! 女を捕まえに行くぞ。ついて来い」
でぶっちょとマッチ棒は血相を変えてICUを飛び出して行った。エレベーターを待っている暇は無い。
ハッ、ハッ、ハッ......
でぶっちょは壁に肩を何度もぶつけながら階段を駆け下りた。そして地下一階......そこには更に目を覆うような惨劇の跡が広がっていた。
「何てこった!」
ざっと数えてただけでも五人の看守が廊下一面にあちこちから血を流して倒れているではないか。しかも牢獄の扉は開いている。案の定、中はもぬけの殻だった。
「一体あの女は何者なんだ? 医者はまあ仕方ないとしても、この屈強な看守達はちょっと違うだろ。もう無理だ。大将に報告しよう」
「う~ん......でも大将に知れたら俺達ただじゃ済まねえだろうな」
マッチ棒は悲痛の表情で訴えた。
「仕方ないよ。俺らの力じゃあの女は抑えられん。レベル違いだ。連絡するぞ」
「......」
辺りはひっそりと静まり返っている。二人は四方に倒れ込んでいる看守達を避けながら、重い足取りで監視室へと向かっていた。
まだこの日の長い夜は始まったばかりであった......




