第6話 なすり合い
医師達は目まぐるしく動き回る。点滴、注射、酸素吸入......ありとあらゆる手立てが施された。
やがてでぶっちょが恐る恐る問い掛ける。
「あのう......大丈夫そうですか?」
一人の医師が物凄い形相で素早く反応した。その顔を見れば、その後どんな返事が返って来るかは凡そ想像がつくと言うものだ。
「お前達まだ居たのか。邪魔なんだよ! 外へ出てろ!」
「はっ、はい」
看守達は頭を抱えて廊下へと退散していく。そんな落ち込みきった看守達に目をくれる事も無く、医師達は淡々と処置を続けた。上がってくるデータに基づき、的確な判断が下される。動きに無駄が無い。彼らにはそんじょそこらの町医者とは一線を画した雰囲気が漂っていた。
今ここに居合わせている医師達......実は皆、選りすぐりのエリート達ばかりだった。
たまたまここに集まったのか? そんな訳が無い。彼らもまた、選ばれし者達なのであった。
臓器移植......二流、三流の医師で務まるものでは無い。彼らは皆、一流に超が付くレベルの知識とテクニックを持ち合わせていた。そんな医師達が五人掛かりでエマに処置を施す。実に贅沢な話と言えよう。その理由はもはや言うまでも無い。エマの身体にそれだけの価値があるという事だ。
時間は刻々と過ぎて行った......一進一退の状況が続く。廊下の時計の針はすでに二十一時をまわっていた。看守達が廊下に追い出されてからすでに三十分が過ぎている。
「血圧が戻ってきました。脈も安定し始めています」
医師の一人が、幾分緊張が和らいだ表情で叫んだ。しかしエマは目を瞑ったまま。意識はまだ戻っていないが、ICU内に若干の安堵感が漂った。
一方、外の廊下では......エマが回復に向かっている状況など知る由も無い。行く場の無い看守達は、廊下の長椅子にじっと腰掛けていた。
「お前、見回りに行った時、何か気が付かなかったのか?」
でぶっちょはマッチ棒に問い掛けた。
「いや別に......四人仲良く寝てただけだ」
マッチ棒が答える。
「そんな訳無いだろう。あんなに苦しんでるんだから。お前がちゃんと見て無かったからこんな事になったんだ」
「おいおいおい、俺一人に罪を被せようってのか? だいたいモニターの一番近くに居たのはあんただろ? もっと早く異変に気付いてればこんな事にならなかったんじゃないか? 違うか?」
「何だと!」
でぶっちょは突如立ち上がった。
「おう、やるか!」
マッチ棒もつられて立ち上がる。
「おいおいおい。お前らいい加減にしろよ。座れって!」
すっかり酔いの醒めたのんべえが二人を宥めた。喧嘩などしている場合ではない。




