第4話 担架
「よし。運ぶぞ!」
二人の看守は額の汗を拭い、せっせとエマを運び去って行く。牢獄の中は一人の看守と三人が残された。皆ただ茫然と立ち尽くしているだけ。余りの突然な出来事に呆気にとられたままだ。
さっきまで皿の上に手つかずで残っていた料理......それが今は、全て無くなっている事に気付く者はいなかった。エビフライも尻尾の部分を残し、きれいにたいらげられている。
アナフィラキシーショック(※1)......それはエマが命を掛けて作り上げた『きっかけ』である事は今更言うまでも無い。
(※1 アレルギーの一種で、以前に曝されたことにある抗原に対して生じる重度の免疫反応の事。抗原抗体反応による激しいショック症状を引き起こし、死に至る場合もある。蜂、蛇毒に刺された時などに引き起こされ、食物や薬物でも引き起こされる)
タッ、タッ、タッ......
担架に乗せられて運ばれるエマの身体は、まるで元気に走る小学生が背負うランドセルのように揺れていた。
エマは虚ろな瞳を僅かに開けた。天上のライトが眩しい。手足は麻痺が始まり、感覚が無くなりつつある。朦朧とした意識の中、エマは自分を乗せた担架の進む道筋を必死で覚えようとしていた。
このまま監視の薄れる病室まで辿り着けば、必ずチャンスが訪れる......抜け出したら、まずあの三人を助け出さねば。
助け出す?......自らも生死を彷徨っているこのような状況で、そのような事が出来るのか?
運良くこの看守達の呪縛から逃れる事が出来たとしても、彼女らの待つあの牢獄まで辿り着けるのか?
仮に辿り着けたとして、どうやってこの島から脱出するのか?
いや、忘れてはいけない......自分がこの島に潜入したそもそもの目的。それは斉田雄二を殺害した犯人を探し出し、この世から抹殺する事。
斉田雄二を殺害した人間。即ち佐久間厳七は今もなお、この極神島で生を長らえている。あの男をこの世から消し去る事無くして、この島から逃げ出す事などあり得ない。
ここが正念場!
エマは薄れゆく意識の中で、闘志に再び火を灯した。しかしそんな前向きな気持ちとは裏腹に、呼吸は時間を追うごとに苦しさを増していった。
もしかしたらこれ、ほんとに死んじゃうのかも。やっぱエビフライ全部食べたのは失敗だったか?......『策士策に溺れる』こんなことわざが頭を過る。
エマは重度のアレルギー体質。以前にも食物に混入していたエビを気付かずに食して、アナフィラキシーショックを起こした事があったが、その時はすぐに病院に搬送され、素早い処置が功を奏し、大事には至らなかった。しかし今はその時と比べ物にならない程、症状は重い。
まぁ、今私の身体に何かあったら、この連中もただでは済むまい。ここは連中の頑張りに期待しよう......
実に楽観的な考えではあるが、難しく考えた所で結果が変わる訳でも無い。エマは正にまな板の鯉と化していた。




