第1話 監視室
コツ、コツ、コツ......
コツ、コツ、コツ......
牢獄に面した通路に足音が響く。
コツ、コツ、コツ......
コツ、コツ、コツ......
看守の巡察は三十分に一回。この牢獄に最初の一人がやって来てからというもの、一度たりとも欠かされた事は無い。昼夜を問わず、一日四十八回それは確実に行われていた。
コツ、コツ、コツ......
コツ、コツ、コツ......
今日も踵が床を打つ音が響き渡る。
時刻は夜の八時半に差し掛かろうとしていたその頃、不気味に響き渡る足音は、錆び付いた鉄格子の前で止まった。
看守は肩から滑り落ちかけたライフルを再び肩に掛け直す。どれどれ......日常の如く、目を細めて牢獄内を見渡した。四人の男女が芋虫の様に丸くなり眠っている。
全くよくこんな所で眠れるもんだ......やる事無いから寝るしかないってとこか......
「一、二、三、四人。異常なし」
汚れた壁、ざらついた地面、錆び付いた鉄格子、そして生きる希望を失った人間達......毎度見る変わり映えの無い景色だ。
痛たたた......重いライフルをぶら下げたストラップが肩に食い込む。全く......こんなもん必要無いだろう。
「異常なし!」
看守は確認を終えると、足早に来た方向へと戻って行った。
コツ、コツ、コツ......
コツ、コツ、コツ......
やがて足音は、牢獄から遠退いていく。静寂しきった廊下に足音以外の音は存在しない。
看守は天上に固定された監視カメラの前で立ち止まると、カメラに向かってひょいと親指を立てた。『異常なし』監視室への毎度変わらない合図だ。
監視室から牢獄までは凡そ三十メートル。決して長いとは言えないその距離も、職務に対してモチベーションの低い人間にとっては、苦痛この上も無い。
一方......監視室では二人の男が椅子にもたれ掛り、魚の様にポカンと口を開け、モニターを見上げていた。巡察に行った人間同様、緊張感は微塵にも感じられない。
横二列に並べられたモニターは全部で十二個。建物内外を問わず、各所を監視している。どれも動きの無い映像ばかりで、一分も見ていれば自然とあくびが出てくる。
やがてその内の一個は、看守の姿を映し出し始めた。親指をこちらに向けて立てている。
「また異常無しか。何度見に行ったって異常なし。全くつまらん連中だ。一度くらい脱獄でも企ててみろっていうんだ!」
フワァ~ 大きなあくびだ。余った首の肉がブルブル揺れている。さぞかし暇な仕事なのであろう。
運動不足は余分な脂肪を蓄えさせるようだ。脂肪の塊を乗せた椅子はキーキーと悲鳴を上げていた。椅子が壊れそうだ。




