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とほかみえみため  作者: FRIDAY
壱:神宮
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06 説明開始

「――さて」

 いいでしょうか、と天照大御神は品よく笑んだ。

「早速本題に入らせてもらいます。あなたにここへ来てもらったのは、ただ参拝してもらうためだけではありません。あなたには私の方からお話しなければならないことがいくつかあります。……とはいえ困りました」

 ふう、と天照大御神は頬に手を当てて吐息した。

「どれからお話したものか、と悩んでおります。正直、どれも大切なお話ですが、順番はどこからお話しても相違ありませんし……何より、こうして人とお話するのも久し振りですので、わたくしいささか緊張しております」

 うふふ、と笑う。へえ……天照大御神でも緊張するものなのか。いや、でも。

「……楽しそうに見えますけれど」

 恐る恐る言ってみた。けれど天照大御神は「そんなことありませんよ」と言いながらもうふふふふと笑みをもらしている。やっぱり楽しそうだ。

「まあ、そういうわけでして。私から一方的に説明し続けるというのもなんですから、いつきさん、貴方からよろず御質問なさってください。私がお答えします」

 どうぞ、と手のひらを俺の方に向けてくれた。な、なかなかこれはこれで唐突だ。

 しかし……うーん、質問か。いきなり訊かれるとかえって何も出てこないな……。

「いや、お前、あるだろ。まず何よりも最初に訊くべき恒例の質問が」

 は? と隣の少女を見ると、少女は俺の目をまっすぐ見据えながらまず自分の頭を指さし、次にその手をくるくると回すとパーに開いた。……おい。

「どういう意味だコラ」

「これは夢ですか? という意味に決まってるだろ」

「そうだったか? いや、確かにそれは言われてみれば最初に訊くべきことかもしれないけど、今のアクションは違うだろ」

「そんなことないぞ」

「そうなのか? ――で、本当のところは?」

「“俺の頭、駄目になりましたか”?」

「よっし喧嘩だ!」

 じゃなくて。

「夢……夢かどうかは、多分わかってるんだよ」

 俺は自分の手を見る。握って、開く。

 怪訝そうな顔になる少女に、俺は自分の手のひらを見せながら言った。

「多分、これは夢じゃない。そりゃあ、天照大御神に逢えるとか、普通に考えれば夢だけど……でも、何と言うか」

 手を握った感じ。肌に感じる空気。目に入る光。

 この感覚は、夢のそれではない。だから、これは夢ですか、だなんてありきたりな問いかけは、するまでもない。――けれど、それはそれとして、別に訊きたいことは、ある。それは、

「……俺は、死んだんですか?」

 ここに来たきっかけ。それは十中八九、あの転倒だ。

 盛大な転倒。頭を派手に打った。つまり、

「転んで頭を打って死んだのかなって。だからここは、あの世なのかなって」

 思うんですけど。

 言う言葉は、尻すぼみに消えた。消えた理由は、面白そうに笑っている天照大御神ではない。

「……何だよ」

 隣で口を横に開いている少女だ。

「別におかしいことは訊いてないだろ」

「確かにな。確かに引っ繰り返って頭打って死んだ、とか間抜けな死に方は、ありえない話じゃあないけどな。でもお前、それ以前に、ちょっと考えればわかるだろ」

 ぴ、と少女は天照大御神を指さす。いや、指をさすな不敬だろ。

 しかしそんなことは構わず、少女は言う。

「何であの世に天照大御神がいるんだよ」

「…………」

 ああ、それも、そうか。

 これはむしろ、俺の方が不敬だったかもしれない。

「天照大御神があの世にいるわけない、か……」

 天照大御神がましますのは、高天原。黄泉の国にいるわけがない――あれ。

「え、なに。それじゃあここって、高天原なの?」

「いや、それも違うんだけどな」

「違うのか……?」

 それじゃあここはどこなんだ。そう思ったところで、ふふ、と笑ったのは天照大御神だった。

「そうですね、ではまずそこからお話しましょう。ここがどこなのか、あなたがどうなったのか」

 ゆったりと両手を膝の上にそろえて、天照大御神はそう言った。


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