2年前の悲劇
ひどいもんです。
許して下さい。
────2年前────
あの日、僕達は剣道の稽古を終え、家に帰ろうとしていた。
「あ、叶!母さんからメッセージきたんだけどさ、今日は家で爆と美羽と一緒にご飯食べるってさ!」
兄さんの発したその言葉に僕と爆くんは いぇーい! と心の底から嬉しがった。
だけど僕達よりも歓喜の声を挙げた女の子がいた。
「やったぁー!
カナとソーとご飯食べれるぅぅぅ!!!!
うぁい!
カナ!美羽嬉しいぃ!!」
「あはは!美羽嬉しがり過ぎだって!」
彼女の名前は桐ケ谷美羽(当時7歳)。
爆くんの妹だ。
何でもできる天才、爆くんの妹だけど、僕と似てあまり光るものが無い、普通の子だ。
爆くんの様に怖い外見じゃなく、可愛い丸っとした顔に2つ結びがよく似合う。
「それでさ、母さんが買い出しして来いって言うんだけど1人じゃ持てそうになくてさ。
すまないけど爆も一緒に来てくれないか?」
「ん?
ああ、分かった!
叶ー、美羽の事頼んだぞ」
「うん、分かったよ」
爆くんは兄さんと一緒に買い出しに行く事になり、僕と美羽は2人で先に帰る事になった。
だけど、これが間違いだった────。
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美羽と僕は一軒家が立ち並ぶ人通りの少ない住宅街を通り、家に向かっていた。
僕は美羽になんとなく、こう質問した。
「ねぇ、美羽?
爆兄ちゃんと奏兄ちゃんって凄いよね!
2人共なんでも出来てさー!」
すると、美羽は パァァ と目を輝かせて爆の事を語りだした。
「うん!兄ちゃんはすごーーく、すごいの!
昨日ね、算数ね!教えてくれたの!
美羽が同い年の男の子にいじわるされてるとね!いつも来て助けてくれるの!カッコいいの!でね!でね!あとね────」
「わ、分かった分かった!
爆くんはすごい...でも、何も無い僕も...頑張って爆くんや兄さんの様になりたいんだ...いや、なるんだよ!」
僕の言葉に美羽は ほぇ? といった顔をして、
「...カナはもうすごいよ???
笑顔で困ってるおばぁちゃんのこと助けてるしー、
笑顔で泣いてる子に優しくしてあげてるしー、
それに!いつも笑って、゛頑張ってる ゛し!!!」
その言葉に僕は唖然とした。
だって、7歳の子がこんなにいい所を挙げてくれるし、それに頑張ってるって...嬉しいな。
「...そうか!
そうだね!ありがとう美羽!
でも僕は2人を超えるよ?」
僕は笑顔で美羽に堂々宣言した。
それに美羽が、
「うん!がんばれ!
でもね!ソーに勝てても兄ちゃんには勝てないよ!兄ちゃんすごいもん!!」
普通、兄さんに勝てたら爆くんにも勝ってるんだけどなぁ...あはは! まぁ、いいか!
美羽は爆くんの事をとても好いている。
逆もまた然り、爆くんも普段言葉にはしないものの美羽を最大限に気遣った行動をとっている。
そんな、いい兄妹だ。
僕と兄さんも、仲はいいけれど、あそこまでじゃないしね!
僕は幸せな気持ちに浸っていた。
もう少しで悲劇が訪れるというのに。
悲劇が起きるのは本当に、本当に突然だった────。
「きゃぁぁぁあああ!!!
...やめ、やめてぇぇええ!!」
突如、後ろ側の曲がり角付近で誰かが叫んだ。
それっきり、叫び声は上がらなかった...。
僕達は怖くなった。
そっちをずっと凝視していると美羽が僕の手を握ってきた。とても震えていた。
「......」
そんな美羽は今にも泣きそうだ...。
僕は 大丈夫 としか声をかけてあげられなかった。
そんな時、曲がり角から1人、男の姿が現れた。
一見、ただの怖い顔の人だ。
が、その手には────
──血の付いたナイフがあった────。
それを見た僕達の行動は素直だった...逃げようとした──が、
僕は立ち止まった。
「カナ!!?!!?!?
早く!?逃げようよ!?ねえ!!」
ついに泣き出す美羽。
僕は顔を見ず、言った。
「...早く逃げて...!」
早く逃げて欲しかった。でも美羽は逃げなかった。
「いやだよ!!カナと逃げるもん!
...うっ...うう...うわぁーん!!」
号泣する美羽。
僕は美羽の言葉を思い出した。
──笑顔───
次は、美羽に体を向け、こぼれ落ちる涙を拭いながら笑顔で。
「...大丈夫!」
とだけ言った。
美羽は強かった。
すぐに泣き止んだ。
そして、
「...後で会おうね!
ぜーったい!」
と言い、逃げてった。
「...へぇー。君、カッコイイね...」
ナイフを持った男が言った。
「...通さない」
「通る」
男は不敵な笑みを浮かべた。
そして次の瞬間、距離を詰めてナイフを大きく振りかぶってきた。
その軌道は楽によけれるものだった。
(...武道の心得はないみたいだ...よし、竹刀で十分対応できる)
男の攻撃を避けながら僕は竹刀を装備した。
「...んのぉぉお...クソガキ!!!」
そう言いながら、男はやけになりながら初めのよりも醜くい斬撃を力任せに大きく振りかぶってきた。
僕は相手の手を竹刀で打った。
「はぁぁあああ!!!!」
「...っ痛ぇぇ!!」
ナイフを落として手を抑える男。
諦めたか?と僕は思ったが、そうではないらしかった。
「...せめて...!!!!
せめてあっちのチビだけでも!!!!!!!!」
そう言うと男は何かを小声で言い、一直線に僕に向かってきた。
勝てる────そう思った時、男は竹刀が届くか届かないか、ギリギリの所でアクロバティックな動きで僕の上を飛び越した。
僕は何が起こったのか分からなかった。
(.........え?!)
僕が後ろを振り向いた時にはもう、遅かった。
男の足はとても速く、僕には追いつけなかった。
僕はただ、美羽に追いついた男が、隠し持っていた予備のナイフで後ろから美羽を刺したのを見る事しか出来なかった。
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葬式にて。
「...爆く──」
「...うるせぇんだよ...クソが...」
「...っ!!!!」
「...クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが!!!!」
僕は何も言えなかった。ただ、聞いていた。
「なんで守れなかった!!!!
お前なら守れただろうが!!!!」
「...ごめ────」
「俺は、お前を許さねぇぞ...絶てぇに!!!!」
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これっきり、僕と爆くんの仲は現在のようなものになった。
性格も変わった。周りにも強く接するようになった。
兄さんもだ。
2年前の兄さんは少しやんちゃな事をしていたし、言葉遣いも今程丁寧じゃなかった。
そして、兄さんは他人に弱さを見せなくなった。
僕は、1人の命を守れず、多くの人の人生を狂わせた。
...頑張ろうと意味が無いと思うようになった。
それっきり、僕は何にもやる気が出なくなった。
これが2年前の悲劇だ────
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そして現在に至る。
「...勝負だ、叶」
カナエは悪夢を思い返し、震えていた。
そっと言葉を絞り出す。
「......うん」
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