P7.食堂にて
「ハル兄、遅いよ」
壁を伝って何とか2階のあの部屋から食堂の入り口までやって来た俺に浴びせられた第一声がこれである。
「……………秋香、お前は鬼か。
せめて支えに出来そうな物を置いて行ってくれよ」
「そんな甘い考えじゃ生きていけないよ?」
手厳しいっ!!!
秋香に論破されて割とへこんでいると、エリル先生にクスクスと笑われてしまった。
「ふふっ、ごめんなさいね?
お2人は本当に仲が良いんですね」
「まぁ、自分で言うのも何だけど仲は良い方だと思いますよ。
…………やっぱり口に出して言うのは照れるな」
そういうものですよ、と微笑んでくれるエリル先生。美しい。
「さて、立ち話も何ですから中に入りましょう」
ギィ、と音を立てて開く扉の向こうから、複数の声と共に光が差し込んで来る。
「あっエリちゃんせんせ~!!」
扉が開き切るとほぼ同時に、1人の少女がエリル先生のお腹あたりを目掛けて飛び込んで来る。
お腹にグリグリと顔を擦り付ける少女の頭を先生が左手で撫でると、少女は顔を上げてニパァと満面の笑みを浮かべる。
俺はその子の笑顔———ではなく、尖った耳に目がいってしまっていた。
「この子もエルフなのか………」
その少女が飛び込んで来た扉の先には、ざっと20人程いるだろうか、円形の大テーブルを囲んで座っている体格の様々な子供達の姿だ———全員エルフだが。
「ねぇせんせー、この人達だぁれ?」
「お客さんですよ。
後で紹介するから、今は席に戻って頂戴ね?」
「はーい」という返事と共にその少女は開いている自分の席に戻っていった。
「秋香と之春さんはこちらにどうぞ。
会わせたい人もその内出てくると思いますから」
エリル先生は円形テーブルから少し離れた所にある、4人掛けの四角いテーブルへと足を運んだ。
俺と秋香もそれについて行って、2人で対面に着席する。
…………………何だか三者面談をしている気分だ。
よく見ると自分達のテーブルには食事は出ておらず、子供達の前には全員分の料理が用意されている。
しかし助けて貰った身である自分が「俺の料理がない」なんて事を言えるはずもなく、ただただ座っている事しか出来なかった。秋香は目を瞑ってるし。
すると、目の前の先生がスッと立ち上がった。
「じゃあ皆さん、お昼ご飯を食べて下さいねー」
その掛け声と同時に子供達が一斉に食事を始め、食堂内に子供達の話し声や笑い声が響き渡り始めた。
しかしある事をふと疑問に思ったので、先生に質問してみる。
「エリス先生、この世界では食事前に『いただきます』って言わないんですか?」
どうやら同じ事を思っていたようで、秋香もコクコクと頷いていた。
「そうですね、特に食事の時の習慣というのは無いです。
ただ私達の種族は年に一度、大地の恵みに感謝する『豊穣祭』というのはありますが────」
──────バンッ!!!
「うおっ!?」「きゃぁっ!?」
入り口とは反対側にある片開きドアが勢いよく開け放たれたかと思うと、そこから男の俺より体格の良い女性が出てきた。
「エリー、待ったかい?
すぐに料理を運ぶからね!」
パチンッ、と指を鳴らすとその女性が出てきた扉の奥から料理の盛られた皿が飛んで来た。
「ま、マジかよすげぇ……………」
「まるで手品みたい、これも魔法なんですか?」
「ええそうね、彼女の魔法はとても特殊なのよ。
多分、この世界の人であの魔法を使えるのは10人とあと少しぐらいかしらね」
この世界にどれだけの人がいるのかは分からないが、エルフなんて種族がいるぐらいだ、地球と変わらないかそれより少ない規模の人がいるに違いない。
その中で10人ちょっとのうちの1人って考えると、恐ろしく凄い人だ。
そんな事を考えている内に料理が全て運ばれたようで、先程の大きな女性がエリル先生の横の空席に腰を下ろした。
「2人に紹介しますね、ここの孤児院で調理や家事を担当してくれているボウラ先生です」
「ボウラだ、好きなように呼んでくれていいぞ。
お2人さんよろしくなっ」
「中島秋香です、よろしくお願いします」
「俺は荒井之春、よろしく」
「秋香と之春だな。
まあとりあえず話の前にご飯食べてしまおう、冷めたら勿体無いからな!」
<残:571>
色々とキャラが出て来ましたね〜
次話では初ラッキース〇べ!?笑
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(_ _)m