P6.意外すぎる再会
暖かい。意識が薄っすらと戻り始めてすぐに感じたのがそれだ。
それに何か柔らかい物に全身を包まれていて、右手も何か柔らかい物を握って………いや、握られている?
「………………ここは?」
ゆっりと目を開けると、見慣れない天井と光の点いていない蛍光灯の様な物が目に映った。
それと、自分はベッドの上に寝かされていたらしく、体の上に布団が掛けられていた。
「目、ちゃんと見えてる?」
「ああ、とりあえずは大丈夫そうだ」
隣で右手を握っていてくれていた秋香に顔だけ向け、俺は頷いた。
……………………あれ?秋香?
「って秋香!?
—————痛っ!!」
「落ち着いて。とりあえず安静にしてて、まだ完治してないから」
思いっきり体を起こした俺はあまりの激痛にうずくまってしまう。
秋香に促されてもう一度寝る体制に戻る、その間に自分の体に目を向けると制服ではなくて白シャツに短パンを着ていた。
「なぁ秋香、色々と聞き「待って」
…………どうかしたのか?」
「言いたい事があるのは分かる。
でも先に会ってほしい人がいるの」
「ちょっと待ってて」と言って俺達のいた部屋から出て行ってしまった。
取り合えず秋香が戻ってくる前に俺は首だけを動かして自分のいる部屋を細かく見てみる。
どうやらここは寝室か何かで、俺の使っているベッドの右手側にもう一つのベッドが存在していた。
ベッドは2つとも壁に引っ付けられていて、窓は1つ、ベッドの間にある。
足元側の奥には円形で小さめのテーブルが1つ、さっき秋香が使っていたのを含めて椅子は2つ。
あとはクローゼットが1つあるだけだ。
木板の床はなにも敷かれていない所から外国の様に部屋でも靴を脱がない習慣なのかもしれない。
と、そんな所で秋香が戻ってくる。
「ハル兄、紹介するね」
秋香の後ろからやって来たのは、銀髪の女性。
背は高くモデルの様なスタイルで胸もある、そして何より特徴的なのはその耳。
「え、エルフ………?」
「あら、貴方も私達の種族を知っているんですか。
最近の日本人は物知りな方が多いのですね?」
「エリル先生、自己紹介を」
……………先生?
俺の疑問はすぐに解決された。
秋香にエリル先生と呼ばれたエルフの女性は、俺の横まで来ると自己紹介を始めた。
「初めまして、之春くん。
私の名前はエリアル・シンシア。
ここの孤児院で先生をしています」
「空から降って来て死にかけたハル兄を助けてくれたのがこの人。
2時間つきっきりで看病してくれてた」
「そうだったのか。
………………2時間?案外軽傷だったのか」
「そんなわけない、瀕死の重傷だったんだから」
突然涙目になる秋香。
俺、そんなに重傷だったのかよ………
「ま、こうして生きてるわけだし結果オーライってな。
だから泣くなよ、な?」
「ハル兄はもう少し自分の体を大事にしてよ………」
「ふふっ、2人は仲がいいのね」
俺と秋香のやり取りを見てたエリアルさんは優しく微笑んだ。
綺麗だ、ものすごく美しい笑顔がそこにはあった。
「っと見とれてる場合じゃなかったな。
俺の名前は荒井之春。
看病してくれてありがとうございます、エリアルさん」
「秋香と同じ様にエリルって呼んで下さい。
それでどうですか、体の調子は」
「ああ、まだ少し痛むけど動く分には何とかなりそうかな」
「それは良かったです。
もうすぐお昼ですし、そろそろ昼食にしませんか?」
「そういえばお腹空きましたね………。
秋香、今何時ぐらいか分かるか?」
「もうすぐ正午。私もお腹空いた」
「じゃあ食堂に移動しましょう。
ご飯もそろそろ出来てるだろうし、皆も待ってると思うから」
エリル先生はそう告げると部屋から出て行った。
歩く姿勢も綺麗だなぁ。
「…………鼻の下伸ばしてる余裕あるなら大丈夫だね。
私も行くから1人で頑張ってね」
「あっちょっと待って……………」
ぷいっ、と首を別方向に向けた秋香が部屋を出て行ってしまった。
俺、何か悪いことしたかなぁ。
………………待って、まだ怪我治ってないからまともに歩けないんですけど。
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