P5.行きつく先は
前回のあらすじ:自身の異能がバレるのを恐れた之春は森に逃げ込みました。
『インビジブル』の効果が消えた後も、俺は前に進み続けた。
ギューイとかいう神の言葉では既にモンスターが出現しているはずなのだが、そんな気配が全くない。
森の中では「ザワワッ」という葉の擦れた音が心地よく感じられ、木々の間から差し込む光が何とも幻想的である。
聞けばほぼ全員が「美しい」だとか「神秘的だ」だとかの褒め言葉を言う、そう確信させるような光景が目の前に広がっていたのだ。
「~♪~~♪──────っ!?」
追い風に吹かれながら気分よく歩いていると突然、強烈な視線を背中に感じる。
「………………」
下手に動くと不味い事になる、そう直感した俺は足を止め、すぐさま『インビジブル』を発動する。
すると俺の姿を見失ったからか、視線の主が正体を現した。
「グルルルルゥ……………」
狼だ。テレビとか画像とかでしか見た事は無いが、確かに狼と同じフォルムをしていた。
しかし爪や腕は予想よりも明らかに太く、あんなもので引っ掻かれでもしたら間違いなく重傷を負う事になるのが目に浮かぶ。絶対に食らいたくない。
こんな時に『死神』の異能に感謝するとは思いもしなかった。
…………………あれ、何故だろう。
ずっとこちらを見てる気がするんだけど。
そんな事は無いと思いながらも音を立てない様に一歩、また一歩と後ずさりすると、それに合わせて狼も一歩一歩と近寄ってくる。
──────うん、完全に存在がバレてる。
「な、なんでだよっ!?」
こうなってしまっては先手必勝。
俺は襲い掛かられるギリギリまで狼から目を離さずに、その場から右手の方に全力で逃げ出した。
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結論からまず言おう、野生の狼相手に逃げ切るなど生身の人間、ましてやただの男子高校生には不可能だ。
そしてそんなただの男子高校生の俺は今、究極の選択を迫られている。
目の前には────
「グルルルルゥ」
今にも襲い掛かろう、食いちぎってやろうという意思が目に見て取れる狼一匹。
そして俺の背後一面に広がるのは高さにしてマンション5階分に相当する崖である。
走った先にこんな崖があるなんて誰が予想出来るのか。
テンプレ過ぎる展開だがいざ自分の身に降りかかってくるとこれほどまでに凶悪だとは。
しかし、そんな事を考えている場合ではない。
俺はかつてない程に脳をフル回転させ、死なずに済む、この危機を回避できる方法を考えた。
目の前は狼、隙を見て別の方向に逃げるか?
────無理だろ、次こそ確実に殺される。
だとしたら方法は1つ。
というより、一番最初に思い付いた案な訳だが勝手にボツにしていた。
あまりにもリスクが大き過ぎる、正直これで生きていられる保証もない。
………でも、狼に食われて死ぬよりかはずっとマシだ。
「や、やってやるぞチクショーォォォォォッ!!!?」
俺は意を決して崖を飛び降りた。飛び降りてやった。
こうでもしなければ生きれない、仕方ない事だ。
ただ一つだけ、誤算があったとすれば俺の予想以上に崖は高く、重力による速度超過に俺が耐えられなかった事だ。
はっきりとしない意識の中で、ほんのかすかに下の方から声が聞こえた気がした。
だけどそれを確かめる間もなく俺の意識は飛んで行った。
<残:571>
話の都合上、今話は短くなっています。
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