‘P4.初戦闘が……
※注意書き
サブタイトルのP~の一番前に『‘』がついている場合、視点が三人称に変わります。
之春が居なくなってからすぐの頃、草原に放り出された高校生集団では大きな動きが見られた。
「と、とりあえずどこかに移動した方がいいんじゃないか?」
誰が言ったのかは分からない、だがその一声のおかげで皆が各々の行動を取り始めるようになった。
ある者は知り合いと固まって移動を始め、ある者は自身の異能を確かめることに没頭し、またある者はモンスターと一戦交えようと待ち構えていた。
之春の友人である翔は知り合い数名と、森とは逆の方角に歩を進めようとしていた。
そして、神・ギューイの告げた5分が経過したその時だった。
「うおっ!?
な、何が起こ─────豚?いや、猪か?」
草原の所々で強烈な光が放たれ、その場にいた者の視界を奪う。
次に目を開けた時には光は消えていたが、入れ替わるようにしてそれは居た。
─────ブモォッ。
シルエットはまさしく豚そっくりなのだが、豚と大きく異なるのは口元から反りかえっている巨大な牙。
その見た感じの重厚さからは、古代に生きていたというマンモスの類を連想させる。
そんな厳つい猪もどきは草原にいる人間を確認するや否や、一番近くの人間目掛けて突進し始めた。
「うわっ!?こっちに来る─────がはぁっ!?」
「正則!?
だ、誰か回復魔法とか使えないのかっ!?」
「…………死んでる?
、、、きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
「早くそのモンスターを倒せ!!
じゃないとまた犠牲者が────」
ざっと5~6体のモンスターに襲撃された高校生たちは、その予想外の強さ、目の前で人が無惨にも殺されていく現実を見せつけられ、パニック状態に陥ってしまう。
まだ一人二人がパニックになるだけならいい、しかし集団において負の感情と言うものは恐ろしい速度で伝達されていくのだ、最早この恐怖から逃れられる術はない。
「誰か、誰か助けてくれぇっ!!?!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!?う、腕が!?」
────────────────────────
それから15分が経過した。
モンスター達は正気を保っている人達の中で攻撃系の異能を持つ者達によって辛うじて倒す事が出来た。
ただ、全ての敵を倒し終わった時点では既に5人もの死者を出し、その他にも数十人単位で負傷者が出た。
そんな彼らには既に元の世界に帰るなんて話をしている余裕は無くなってしまっていた。
数百人いる中で死者が5人だけだったのは数字的に見ればかなり幸運に見える、しかし彼らに付けた傷は予想以上に深かった。
「………………………………」
大抵の者、いや、ほぼ全ての者がその場にへたり込むか、あまりの惨状に意識を失いかけるかしていた。
しかし、そんな状況にもかかわらず行動していた者がいた。
「……………ねぇ、結子ちゃん」
「な、何ですか逆撫先輩…………」
「ハル…………荒井君、見なかった?」
「…………いえ、見てないです、すいません」
「いや、変な質問してごめんね?
…………大丈夫、じゃないよね」
「いえ、あと少ししたら立ち直れそうなので…………
荒井君見かけたら『逆撫先輩が探していた』って伝えておきます」
「ありがとう。………無理だけはしないでね?」
「先輩も、動かれるならお気をつけて……」
雨は、今はへたり込んでいるが、上級生の集団と行動をしていた。
だが戦闘が始まった途端に之春の事が気になってしまい、戦闘終了と同時にあちこち歩き回って彼を探していたのだ。
しかし、当然ながら見つかるわけもなく、不安が高まる一方。
「どこに行ったのよ之春………」
そんな彼女に、一つの影が近付く。
一歩、また一歩と確実に距離を詰めていき、ついに手が届く距離まで接近してしまう。
その事にまるで気付いていない雨に対して、その影は彼女の肩に手を伸ばし────
「────逆撫先輩っ!!!」
「うひゃぁおうっ!?!?
──────って相田君じゃない!
もうっ、脅かさないでよ!!」
肩をつかまれた雨は反射で振り向く。
すると目の前に現れたのは相田翔、荒井之春の友人だった。
「先輩、そんな声出してたら之春に笑われますよ………」
「い、今のは相田君が悪いんじゃないっ!!
─────相田君!ハルがどこに行ったか知らない?
さっきから全く見「もういませんよ」さぁ。
…………え?いない?ど、どういう事!?」
「モンスターが襲ってくる前、之春が俺に言ったんですよ。
『先輩を頼む』って。
その後、多分ですけど異能を使って消えました」
「………そう。そんな事を。
でもハルならきっと無事よね」
雨は之春が戦闘に巻き込まれていなかった安堵と既にどこかに消え去ってしまったという不安が混ざり、ぎこちない笑顔を翔に向ける。
流石にこんな顔をさせ続けるのは心が痛い。
翔は話題転換も兼ねて、ある話を切り出す。
「先輩」
「な、何かな?急に改まって………」
「俺と一緒に、行動しませんか?」
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