P1.出会いと出会い
記念すべき第一話となります!!
読者の皆様が楽しんで頂ければ幸いですm(__)m
※第一話なので字数がかなり多くなっています。
一気に読む方は留意くださいm(__)m
ジリリリリリリリr……………
いつものように、聞きなれた音が室内に響き渡る。
「ちょっと之春~?
早く起きないと学校遅れるわよ?
あんた今日始業式なんでしょ~?」
………そうだった、今日は始業式だ。
ベッドから飛び起き、完全に閉まっているカーテンを一気に開けてやる。
「っあ、眩しい………」
思わず目を閉じてしまった。
仕方ない、無条件反射ってやつだ。
「之春~?まだ起きてないの?」
「起きてるよ、すぐ降りるから~」
「早くしてね~」
時計を見ると短針が8、長針が2を指していた。
………まあ、間に合うだろ。
10日ぶりに着る制服にさっさと着替えて、母の待つリビングに向かった。
──────────────────────────
俺の名前は荒井之春、今日から高校2年生だ。
自分で言うのもあれだが勉強はそこそこ出来るし、運動音痴でもない。
やろうと思えば大抵の事は出来るがまぁ、やろうと思わないタイプの人間だ。
そのため今までも、そしてこれからも部活には入らない。
趣味があるわけでもなく、これと言った特技もない。
強いて挙げるなら『どんな時でも落ち着いて見える』って事ぐらいだろう、多分。
さて、こんな自己紹介を聞いてくれた人なら分かってくれると思うんだけど、俺の人生は超つまらない。圧倒的なまでに退廃的だ。
そんな俺でも一応は学校に通っている。
と言うか通わされている。
その原因となっているのは主に2つ。
1つは母親だ、まぁこれは当たり前だろう。
しかし厄介なのがもう1つだ。
そのもう1つの原因となっているのが、只今通学途中の俺の横を歩いている女、雨だ。
「ん?どうしたのハル?」
「あぁ、いや何でもない………」
紹介しよう、俺の幼馴染である逆撫雨だ。
容姿端麗、黒髪ロングがとても良く似合い、背もそこそこな高さで声も透き通ったような美声、運動も得意で勉強も苦手ではない。
感情的で裏表のない性格なため人間関係は良好、ほぼ完璧人間である。
そんな彼女と全く釣り合いの取れない俺がこうして肩を並べて歩けるのも、2度言うが幼馴染だからである。
「ハルも高校2年生かぁ。
何だか時の流れの速さを感じるよ~」
「何だよそれ。
そういう雨も受験生だろ、志望校は決まったのか?」
「いやーそれがさー、2つまでは絞ったんだけど中々絞り切れなくてねー。
絶賛お悩み中ですっ」
いやいや、そんな笑顔で敬礼されても………
「雨姉は女子大でいい」
「そうなんだよね~。
女子大も候補に入れるのも────って秋香!?」
「うおわっ!?って秋香驚かすなよ…………」
今のは本気で驚いた。
まさか俺と雨の間に秋香が居たなんて。
驚きついでに紹介しておくと、この少女の名前は中嶋秋香。
雨と俺の幼馴染で、俺の家のお隣さんだ。
雨と違って昔から大人しい性格で、何かあるとすぐに俺や雨、それと周りの大人に頼りがちである。
影が薄い訳では無いのだがいつの間にか俺のすぐ傍にいるので、本当に心臓に悪い。
「ハル兄、今酷い事考えなかった?」
「いや、そんなこと考えて無いぞ?」
「ちょっと秋香?
いい加減な事言ってハルを困らせないの!」
秋香はかなり勘が良いタイプで、今みたくいつもヒヤッとさせられる。
それと何故か雨は秋香とは仲良く出来ないでいるのだ。幼馴染なのに。
「こら雨、あんまり秋香を責めるなよ。
別に俺は困ってないから」
「ま、まあハルがいいならいいけど……」
「ったく相変わらず過保護だっての。
………そういえば、秋香は今年から中3だっけ?」
「うん」
「じゃあ高校受験の時期だな。
志望校はやっぱりうちの高校か?」
「うん。そこそこ偏差値高くて近いから」
「ま、そうなるよな。
秋香なら余裕だと思うけど、この一年間頑張れよ?」
「もちろん、努力する」
「そっかそっか、なら来年からは先輩後輩の関係だな」
「ちょっとハル?
始業式の日に来年の入学後の話をするのは気が早すぎでしょ!
────ってやばっ、そろそろ急がないと予鈴の時間に間に合わない!」
「えっマジで?あー遅刻かぁ」
「何遅刻確定な発言してるのよっ!?
走ったら間に合うから!!走れ!!」
は、走るのかよ…………
って思いっきり手引っ張るのやめて痛いから!!
「て訳で俺らは急ぐわ、またな秋香っ」
「あ、うん行ってらっしゃい。
……………あ」
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「な、何とか5分前には着いた………」
「何言ってるのよ!
途中でハルが疲れて歩かなかったらもっと早く来れたわよ!」
「す、すまん………」
「ったくもう本当に………
あ、そう言えば靴箱の位置替わるんだった、私あっちだから」
「おう、またな」
手を振って遠ざかっていく雨。
………何だか今のやり取りカップルっぽかったよなぁ。
っと俺も自分の新しい靴箱探さないとな。
………ん、見知った顔がこっち見て手を振っている。
「おーす之春っ!
春休みは楽しかったかー?」
「おはよう、朝から元気だな。
春休みはずっと家でゴロゴロしてたよ」
「相変わらずつまんない生き方だね~。
俺なんてずっと部活だったのに、そのゴロゴロしてた時間分けてくれよ~」
「うるさい、お前にやる時間なんてねぇよ」
「えー、ケチな野郎だぜ」
こいつの名前は相田翔。
俺の数少ない友人の1人で、こないだサッカー部の新しい部長になった。
サッカーに関しては高校生とは思えない様な技量なのだがそれ以外のスポーツは全然ダメで勉強もダメ、生粋のサッカーバカである。
ただ自由気ままで明るい性格なので先輩や同期の部員からはけっこう慕われている。
マネージャーにはよく怒られている所を目撃しているが。
「で、お前がここにいるって事は」
「ああ、今年もよろしくな!」
「ああよろしく。
また前後席からのスタートだな」
「そうだな、三学期は隣だったのにな~。
授業中とか喋りにくくなったのが残念だわ~」
「俺としては勉強に専念出来て好都合だけど」
「そりゃあひでぇよ!!
────ってこんな所で喋ってないで早く教室上がろうぜ?」
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教室に入ったらもうほとんどの生徒が着席して近くの奴と談話していた。
翔の奴も同じサッカー部員を見つけたみたいで、そいつと会話している。
窓側の列の前2つの机があるから、そこが俺と翔の机なんだろう、先に着席しておくか。
「いやー、担任誰になるだろうなぁ」
窓の外を見てボーっとしてたら翔が戻って来たみたいで、話しかけてきた。
「さあな。
ああそう言えば讃井も今年から担任候補になるらしいぞ?」
「げ、マジかよ………
うちの顧問が担任とかになったら俺マジでヤバいわ………」
担任としてしごかれた後部活でもしごかれる、確かに地獄だな。
そんな犠牲は翔だけでいいだろう。
「筒美先生とかなら大歓迎なのになぁ」
「相変わらず巨乳好きだな」
「当り前よ!!
あれには男のロマンってもんがな──────」ガラガラッ
「ほらお前ら席に着けー」
教室の入り口が開いたかと思うと、そこそこ体格のいい男が入ってくる。
残念だったな翔、お前の1年は既に終わりだ。
「さて知っている者も多いだろうが一応お決まりの自己紹介するぞ。
2-2を持つことになった讃井だ、1年間よろしくな」
目の前で翔が固まってるけど、まあほっておいて大丈夫だろう。
「とりあえず今からクラス全員で新体育館の方に向かうぞ。
そこで始業式があるから、お前らちゃんと校長先生の話聞いてやれよ?
毎年半分以上聞いてなくて泣いてるんだからな、あの人」
いやいやさらっと何暴露してるんだこの担任は!?
てか校長が惨めすぎる……………
「よし、じゃあ早速移動始めるぞー。
っとその前に、おい荒井!」
「え、は、はい」
「ほれ、鍵が届けられてたぞ」
そう言って讃井が俺に何かを投げつけてきた。
丁度俺の手元い落ちてきたそれを見ると、間違いなく俺の家の鍵だった。
「先生、誰が届けてくれたんですか?」
「ああ、確か大人しそうな女の子だったぞ。
制服からして多分そこの近くの中学だと思うが」
秋香だ。それ以外に思い当たる人物がいない。
後でお礼言っておかないとな。
そんな事を考えていると、突然教室の校内放送用スピーカーの電源が入る。
『はーいどうも朝山高校の皆さんおはようございまーす!
今からものすごーく大事な話を一回しかしないから、全員早く教室に戻ってね~』
…………は?なんだ今の?
始業式にこんなサプライズがあるなんて聞いてないぞ?
「先生、今のは?」
「俺にもわからん。
今すぐ職員室に行ってくるから全員教室で待機してろ!!」
讃井の言う事を聞いて、俺を含む全員が着席した。
讃井が教室の前ドアに手を掛けると同時にスピーカーから声がまた響いた。
『ちょっと担任の先生方~。
大人が真っ先に言う事聞かないってどういう了見なのさー。
おしおきだね、これはっ』
「くっそ、何で開かないんだよっ!?」
声のした讃井の方を見ると、真っ赤な顔でドアに手を引っ掛けていた。
あの体格の良い讃井が開けられないなんて、本当に何が起きているんだ?
突然の事態に色々と驚いていると、讃井の頭上に何か黒いもやの様な何かがいつの間にか浮遊していた。
そして────
バチッ、バチッ────ズドオオオォォォン………
「ぅおわっ!!」
讃井のいた辺りに雷のような発光が生じ、それによりその場にいた者全員が目を眩まされた。
どこからともなく臭う焦げ臭ささの中、之春が目を開くと讃井のいた場所には白煙を上げる黒い塊しかなかった。
「う、嘘だろ………」
次第に目を開け始めた女子達が、変わり果てた讃井らしき物体を見て悲鳴を上げ始めた。
女子だけでない、男子の中でも数人は叫び声を上げていた。
さらには窓の外からも悲鳴が聞こえてきたので、恐らく同じ状況が他のクラスでも起こっているのだろう。
「お、おい之春………
一体、何が起きてるんだよ………」
「お、俺が分かるわけないだろ。
てか、誰にも分らねぇよ」
訳が分からず唖然としていると、スピーカーからまた声が聞こえてきた。
『さて、いう事を聞かないとどうなるかは分かったかな?
じゃあ今からボクのホログラムを各クラスに登場させるから、それから説明は聞いてね~』
「………は?今ホログラムって─────」
「じゃじゃーん!!
もう登場しちゃったよ~!!」
「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」
全員がぱっと後ろを振り向いた。
…………何もいない?
「みんなどこ見てるのさ~。
ほら、ちゃんと教卓に注目~」
…………まさか。
声が聞こえてきた教卓の方に目を向けると、顔の整った白髪赤目の少年らしき人物がそこにはいた。
ただ何かぼやけて見えるのは、さっきの放送で言ってたようにホログラムなのだろう。
「やあみんなはじめまして。
ボクの名前はギューイ、ちょっとした創造神さ。
ま信じるかどうかは君達次第だけどね~」
さすがにあんなことがあった手前、誰も異を唱えようとはしない。
「………うん!素直でよろしいね!
さてじゃあ大切な話を一回しかしないからよく聞いてね?
まず、君達は厳正なるボクの抽選によって選ばれました!
これから君達にはいわゆる異世界と言う所に飛ばされてもらいまーす。
それからの事は着いてからまた説明するね~。
………ここまでで質問ある人は手を挙げよっか?」
───異世界。
その言葉に俺は引っかかった。
というより、なぜだかわくわくしていた。
とりあえず聞きたい事があったので手を挙げてみる。
「うーんと、じゃあそこのメガネのっぽ君」
どうやら別の奴も手を挙げていたみたいで、俺が待たされる形になった。
「俺たちは帰れるんですか?」
「まー普通な質問だね。
その答えは向こうに行ってから答えるよ、じゃあ次君!」
あ、俺が指名された。
とりあえず呼吸を整えてから、はっきりと言葉にする。
「目的は、何だ?」
「目的?何だかありきたりな質問ばっかりだなぁ
そうだね、ボクの実力を見せるためかな~」
「違う。アンタの目的と俺たちの目的を聞いてるんだ」
「………………ぷっ、あははははははははっ!!!!!!」
笑った?
なぜ、俺の質問は変だったのか?
「はっはっはっ………ごめんごめん。
いやー参ったよ、まさかこんなにきれいに一本取られるとは思ってもみなかったよ~。
まさか『目的』の言葉に2つの意味を持たせるなんて。
君、名前は?」
「……荒井之春だ」
「之春!!
そうか、そうなんだね!!」
…………何を喜んでいるんだ?
俺はとびっきりの笑顔でこちらを見つめて来る自称・神から視線を逸らす。
「あら冷たいなっ。
でもとっても面白い質問をしてくれた之春にはご褒美をあげよう!」
そう言ってギューイは俺の元までやって来て、どこから取り出したのかカードの束を扇子上に広げて差し出してくる。
「さあ之春!!
好きなカードを1枚取って見てよ!!」
「あ、ああ」
とりあえず言われた通りに真ん中の方のカードを1枚引いてみる。
そのカードを裏返してみると、黒い太字で『死神』とだけ書かれていた。
「………で、どうするんだ?」
「じゃあそれを自分の額に押し付けてみて」
「こう、か?」
俺は指示通りにカードを額に当てた。
すると額が少し暖かく感じた後に、カードが文字通り額に吸い込まれていったのだ。
「ど、どうなったんだ………?」
「そうだね、詳しい説明は向こうの世界に行ってからね~。
────他のクラスも準備出来てるし、じゃあ異世界にレッツゴー!!」
「ちょ、待てって─────おわっ」
ギューイの掛け声で視界が暗闇に覆われたかと思うと、目の前には草原が広がっていた。
この時、俺達には知る手立てなんて無かった。
この後待ち受けている地獄なんて。
<残:576>
次回投稿についてですが、作者の一作目「ひねくれ者の異世界攻略」を主に更新していきますのでこちらの更新は不定期でかなりゆっくりとなります。
ですのでこの第1話を読んで続きが気になった方はブクマして頂ければ更新に気付きやすいかと思われます。
ご配慮の程何卒宜しくお願い致しますm(__)m
また、この第一話を読んで一言感想や意見がありましたら何でもお申し出ください、作者の活動意欲がどんどん上がります(笑)