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堕落者の憂鬱軍師思考  作者: 淀水 敗生
悪魔の嘲笑篇
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悪魔の嘲笑



高く積み上がったキルラビットの死体は血を流し、鉄臭い臭いを充満させている。


「……兵士の食料か。いや、違うな」


戦時中、貴重な食料を無駄にするような行為はしないはずだ。となればこんな事をした理由があるはず。


「ガ、ガルファ将軍!!罠です!!」


「何?!」


部下の一人が叫ぶようにコチラに走りよってきた。


「自分は元冒険者だから分かります!この時期、もうすぐ寒気がやってきます。そうなると冬を越すため食料を求めて魔物がやって来る」


「それは私もわかっている。だがここは森から離れた平原、魔物が寄ってくることも無かろう」


「違います!確かに血の匂いは森の方へは届きにくいでしょう。

しかし、気づいてしまう魔物もいるのです。

チャペル森林の向こう、リトベリア山脈から現れる厄災。

この時期は、【フェアルウルフの大移動】なんです!!」


寒気が来るのと同時に始まる魔物達の食料争奪戦。その中で上位に入ると言われている魔物の戦いがある。

それが【フェアルウルフの大移動】だ。


フェアルウルフは群れとなって冒険者を襲う。ランクはCからBで熟練の冒険者ならば簡単に討伐できる魔物だ。

しかしフェアルウルフは空腹になると見境なく獲物に飛びつく習性があり、【フェアルウルフの大移動】はその空腹になったフェアルウルフが寒気を乗り越えるため、群れ同士が統合し一匹残らず森に住む魔物を食い散らかすというものだ。


「キルラビットはフェアルウルフの好物!!

直ぐにでも嗅ぎつけて襲ってくるでしょう!!」


「チッ!

全軍!直ぐにアスタン砦に向かうぞ!!休んでいる暇などない!!」


フェアルウルフはキルラビットの臭いを嗅ぎつけてここに来るはず、一刻もここから離れなければフェアルウルフの群れに飲み込まれる事になる。


部下の機転で拠点を脱したガルファ達はそのまま真っ直ぐ進み、アスタン砦が見えるまでに来た。


背後を振り返れば、姿は見えないものの狼の遠吠えが聞こえてくる。


「間一髪と言ったところか。まさか魔物を利用するとはな」


このままフェアルウルフはチャペル森林に戻るか進むかして移動を開始することだろう。


そうして正面に向き直ったガルファの耳に不自然な狼の遠吠えが聞こえてくる。

さっきまでは全体に響かせるように鳴いていたが、今のはコチラに向けて鳴いているように聞こえた。


ガルファが咄嗟に背後に振り返えるとフェアルウルフはコチラに向けて大地を駆けていた。


「な、何故だ!?何故フェアルウルフが!!」


大地をかける銀色の波。


ガルファは停止した頭をフル稼働させて部下に指令を飛ばす。

疑問はあるが考えている暇はない。

扇型に展開していた軍を集め、前衛に盾を配置し隙間から槍を突き出してフェアルウルフの突進を受ける陣形へと変える。







▼▼▼


「ハハハ……」


笑うしかなかった。


リシアは数時間前に語られた栄水の作戦に反対していたのだ。キルラビットを拠点に配置し、近くを通る【フェアルウルフの大移動】を巻き込む作戦。


先ずキルラビットを捕まえる時にフェアルウルフに遭遇したらコチラにまで被害が及ぶ可能性だってあるのだ。

栄水はその事について、「俺は元冒険者だからある程度知識はあるから大丈夫。血を流さず捕まえれば問題無い」と語っていたがやはり心配である。


配置し終えたって【フェアルウルフの大移動】に帝国兵側が気づかないわけない。直ぐに罠だと気づき、その場を離れるだろう。


だが、栄水はこう言った。

「安心しなよ。必ずフェアルウルフはキルラビットを捕食した後に帝国兵を狙う」と。


そうして、それと全く同じことが目の前で起きている。


「何故だ。帝国兵は直ぐに拠点から離れたはず」


「フハハハハ、イヒヒヒヒヒ、グフっ、うっ、ンフフフフハハハ!!!」


砦の上から迫ってくる帝国兵を見ていた栄水はフェアルウルフに襲われている軍隊にゴロゴロと転がりながら爆笑していた。

ひとしきり笑うと目元の涙を吹きながらゆっくりと立ち上がる。


「いやー、傑作だね。うん。

えーと、何故フェアルウルフが帝国兵を襲ったのかだよね?

簡単な話、戦時中に配られる飯って不味いんだよ」


「は?」


「何の魔物で作ったのか、肉の干物はゴムみたいな食感がするし、パンは棍棒に出来るんじゃないかってくらい硬い。

それに加えて持参できる食事も少なく、スープを作るにしても味がない」


「ふむ、まぁ王国兵や我々騎士団も長期遠征時にはそのような飯を食べるが、それが何なのだ?」


「そんな不味い飯を食ってばっかだった連中の前にキルラビットの肉が現れるんだぞ?キルラビットはここらでしか捕ることの出来ない安価で上手い肉だ。誰だって食べたくなる。

そうなれば、一つくらい持っていっても大丈夫だろうと高を括る奴が現れる」


栄水はベッタリと気味の悪いゲス顔を顔に貼り付けながら笑う。


「馬鹿だよなぁ。特に冒険者でも無い兵士達ならそこら辺の知識が浅い。フェアルウルフの空腹時には嗅覚が数倍鋭くなるのになぁ」


見れば数に押されて軍がバラバラに崩壊していく。


「ヒヒヒヒ、人間との戦争は得意だが魔物はそうじゃないみたいだなぁ。

愉快愉快、そのまま叫んでろよ。虫けらのようにね」


軍に所属する者、騎士団に所属する者達全員が水晶から聞こえる不気味な笑い声に恐怖を覚えていた。


その日、帝国兵は半数以上が魔物に食われ、他は撤退した。命からがら逃げ出した兵士達は補給地であった拠点が潰されている事を思い出し絶望する。

助けが来るまで数週間、何とか助かったものはガルファ将軍とその部下数十名だけとなった。


その後、誰もが考えもしなかった魔物をおびき寄せる作戦を見事成功させた栄水は、皆から恐れられるように【悪魔の嘲笑(パスカル)】と呼ばれるようになる。


しかし、これは物語が動き出す一ページ目である。

ここから彼は更なる、後の【魔上の紛争(クルトガ)】と呼ばれる大戦争へと巻き込まれていく事となる。



桜田栄水


年齢不明、恐らく26.7

身長182cm


趣味。昼寝、酒飲み、賭博。


どのような人物か。『駄目人間、堕落者、人間失格、まるでダメなオッサン、底辺に限界突破した男』などなど。


対戦相手の顔

好きな顔。『今まで培ってきたもの全てを奪われた時の表情』

嫌いな顔『ドヤ顔』


現在の異名。

【堕落家】【虚偽王(シュパイトス)】【悪魔の嘲笑(パスカル)




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