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堕落者の憂鬱軍師思考  作者: 淀水 敗生
悪魔の嘲笑篇
6/27

キルラビットのお肉が希望でした



堕落した人間が好きだ。


人間とは曖昧なものだ。

曖昧、分かりにくいな。


中途半端なのだ。まぁ、それが人間だ。完璧な人間など憧れはするが実際いたらつまらないものだ。


じゃあ逆に不完全な人間がいたら、、まぁ、不完全なのだからいてもいなくてもどうでもいい。害になるならば殺される。

そんな程度だろう。


で、そんな話はともかく、人間は中途半端な生き物だ。


だからこそ、真に堕落できるものはいない。

何故かって?捨て切れないのだ。

願ってしまうのだ。『何でもできる自分』という奴を。


だから中途半端。あれやこれやに手を出して直ぐにやめてしまう。

堕落しているはずなのに余計な心配をして勉学に励む。努力しようとしてしまう。


当たり前だ。そういう奴は真の堕落者じゃない。


義士や聖女も堕落する。勇者も魔王も堕落する。奴隷も王様も堕落する。


しかし、中途半端。

はやく落ちればいいものを。


そう思っていたら、本当に落ちてきた。

ボロボロになって、泣いて喚いて、苦しみもがきながら落ちてきた。


全てを投げ捨てた。全てを投げ出して助けを求めに来た。


だから手を貸してやった。

全てを捨てた純粋者。


堕落するために全てを捨てた者こそ本当の堕落者であり、純粋者。


それが俺の堕落論。


「ようこそ、ぬるま湯の甘々沼へ。

歓迎するよ」







▼▼▼


「うん、絶望しかねぇや」


アスタン砦に戻ってきた二人は早速この状況を打開するために机に散らばった資料を読んでいた。


王都からの増援無し、精神的にも肉体的にも追い詰められた兵士達、足りない物資や魔力。


「まぁ、圧倒的に不利な状況での戦争ではあるけど、…恐らく兵量が同じでも負けてたね」


「むっ、どういう事だ」


「先ず、相手の兵の並びに型がある。

名前は『ウヤヅナの壁』だ。前衛に盾を置いて後ろに槍を置く。守りに特化した陣形だな。

更に、盾と槍の後ろに機動力のある兵を配置し、魔術師に補助魔法を掛けさせ突撃させる制圧力も兼ね備えている。

そうそう突破できるような物じゃない」


「くっ、しかし、まだ負けた訳では無いのだ」


背後で頭を垂れるリシアに視線をやると必死に資料を読み、何か変えられるものが無いのかと探している。


現状リシアは騎士団を辞め、キューリー家から縁を切った身だ。もちろん彼女の部下などは認めていない。よって今は俺の秘書として仕事をしている。

ちなみに俺の特別軍師家として軍の中に入っている。


砦に来る前に紀伊長家に向かい軍師として参加する事を伝えた結果、この役職を貰った。


まぁ、ぽっとでの浮浪者がいきなり現れて彼の指示に従えと言われて従う兵士などいない。

ある程度、紀伊長家のほうから説明をしたが納得のいっていない者が殆どだろう。


「さて、どうしたものかね」


資料をどれだけ読んだって現状を変えるような情報は載っていない。


「騎士ちゃん、図書館ってある?」


「図書館は無いが軍事関係のものだったら数冊置いてあるな。他にも魔物に関しての書物なども置いてあるが有用なものは無かったはずだ……」


「有用かそうじゃないかは俺が決めるよ」


「分かった。案内しよう」


書物が集まる部屋へと向かう際、すれ違うリシアの部下からは冷たい目で睨まれるが、それら全てを無視しながら目的地へと到着する。

部屋は小さな個室で数個の本棚があるだけだった。


「本当に何もねぇな」


とりあえず片っ端から読み漁り、使えそうなものがあればメモをとっていく作業だ。


「わ、私は必要だろうか」


ソワソワと落ち着かないリシア。どうやら、自分では力になれないと思ったらしい。


「騎士ちゃんにはやってもらいたい事があってねぇ」


現状を変えるにしても、先ずは身内をどうにかしなきゃ動けない。


「別に俺に従えと言わなくていいよ。作戦を実行してくれるような信頼は、俺には無いからな。

でも騎士ちゃんだったら皆に言う事聞くでしょ?

任せたよ」


「あぁ、絶対にみんなを説得してみせる!!」


そう言って部屋を出ていくリシア。


「説得はしなくていいんだけどなぁ。良い意味でも悪い意味でも純粋なんだよねぇ。

だから好きなんだけど…」


ニヤニヤと不気味に笑う口を片手で抑えながら本のページをめくっていく。

どれもこれも現状を変えるには弱すぎる情報ばかりだ。


「はぁ、無理かなぁ。もう疲れた」


敵軍と圧倒的兵量の差で負けてる時点で負け戦である。


「戦争は数だよ」


軍師透水もそのような事を言っていたはずである。


「お腹減ったねぇ。何か出してくれないかなぁ」


こんな切羽詰った戦時中に飯を持ってくる人間なんていないだろうがね。


「部下達の協力は得た!私の命令であれば動いてくれるそうだ!

それと栄水殿!腹が減っただろう!少ないが持ってきたぞ!」


「うん、やっぱり君のことは好きだよ」


「な、なんだ!急にやめろ!」


顔を真っ赤にして照れるリシア。

最初に出会った時とかなり性格が違う。まぁ、トゲが無くなれば普段はあのような性格なのかもしれないな。


リシアからパンに肉を挟んだサンドイッチが渡される。

一口食べると肉汁が溢れ出る。


「うーん、キルラビットの肉だね」


キルラビット、ここら一体の森に生息する。肉が上質であるのに加え安価で手に入ることから有名な食材である。


「ふむ、キルラビットか…」


ふと、ある事に気づいてサンドイッチを食べながら、魔物図鑑をペラペラとめくる。

すると、目的のものを見つける。


「……騎士ちゃん、今すぐ戦闘準備だ。魔道水晶の準備をお願い」


俺の声音から察したのか直ぐに準備をして水晶を起動させる。


「やぁ、数十分前に参謀を任された者だ。名前は栄水、よろしく頼むよ。

さて、急に人が変わり、困惑するのも仕方が無いが話を聞いてくれ」


栄水はニヤリと笑って宣言する。


「この戦争、勝つぞ」


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