境 1
「ふむ、敵国に捕まっているというのに、ここまでの好待遇とはね」
ガタガタと揺れる馬車の中で気水は可笑しそうに笑って紅茶を飲む。馬車の中はふかふかの絨毯やソファー、ベットが並べられており、貴族の屋敷の一室のようになっている。
気水は煌びやかなドレスに身を包みながらクッションを抱いて絨毯の上に散らばった無数の資料の中から無造作に一枚取り出して机に置く。
「まぁ、一つ不満があるとすれば、むさ苦しい男が立っていることかな」
「申し訳ございません。フール様から監視の命令を受けておりますので」
馬車の扉の横に大柄の男が立っている。
額に傷を持ち、馬車の中であることを感じさせないほど揺らぐことなく立っている。
「はは、構わないさ。
それよりここはいったい何処なんだい?窓もないから場所がわからないんだけど」
「お答えできかねます」
「ふむ、まぁいいさ。どうせパプアルだろうしね」
窓も中外界の情報を一切遮断している空間のなかで見事言い当てた気水に男はピクリと反応してしまう。
「あらら、嘘が下手だね。君は」
気水はニコニコと笑みを浮かべて机の上の資料に目を落とす。
「さてさて、遊んでないで仕事をしなくちゃね。
あんまり遊んでると殺させちゃうよ」
「はい、そうして貰えるのならば幸いです」
「さてさて『神獣の一角』は失敗だね。高出力の魔力エネルギー、魔力密度に重きを置いた発想は面白かったけど魔力を馬鹿喰いするんじゃあつまらない、ロマンはあるけどね」
気水はニコニコ笑みを浮かべながら程帝国の軍事兵器の資料を眺めながら思考を巡らす。
パプアルか。仲間が助けに来るとしたらこの街かな。
でも、そもそも仲間が助けに来る確率は極めて低い。物資も人手も足りないアスタンに僕を奪還するような余裕も実力者もいない。
全ては絶望的、それでも足跡は残さなければならない。
さてさて、王国は僕を救えるかな。