国境壁7
「悪なる者よ、汝の魂は悪魔なり。
我、善なる者を救済する盾となり、未来永劫へと続く平和を願おう。
『白亜の城』」
呪文を唱えると俺を中心に半透明な水色の膜がドーム状に広がり、俺達を守る。
「魔法が使えたのですか?!」
「うるせぇ!中級魔法だ!すぐ破られる」
魔力をダバダバと魔法に流していくが、高速で突撃してくるワイバーンによって魔力がゴリゴリ減っていく。
体力を考えると十秒、ワイバーンのボスが上空へと打ち上げられて帝国兵を発見するまで一分程度。
俺は頭の中で大雑把な計算をしながら、緑色の結晶が付いた指輪を嵌めて魔力を流す。
『魔力風』
高速で迫り来るワイバーンを風の魔法によって軌道を変える。しかし、直ぐに指輪は魔力量に耐えきれず砕け散るが、その寸前に同じ指輪を嵌めて魔法を持続させる。
アスタンから出来るだけ指輪は持ってきたが此処で使い過ぎるのも危ない。俺は残りの指輪を確認して、最後の指輪を嵌める。
『魔力風』を発動しながらの並列行使。
「神よ。炎神よ。
我が鼓動を聞きたまえ、我が情熱を感じたまえ。
そして我が意志に答えたまえ。
目の前をうるさく飛び回る飛龍出来損ないを捕らえよ!!
『マカロン』」
俺の周りから数十本もの炎の柱が伸びて、炎の空間を作り上げる。下手に動けば炎の柱に当たると察したワイバーンは動きを止める。
その一瞬のうちに、二人の生存を確認する。
どうやら多少の傷を負っているようだがワイバーンの群れをどうにか対処したのだろう。
そして……。
「時間だ」
━━━━━━━━━━━━━━!!!!!
上空から耳を劈く様な爆音が響き、ワイバーンはその声を聞いてボスの方へと集まり出す。
そして、先程以上のスピードで空を飛び、アスタンの方へと向かう。
暫く空を見ていたがワイバーンの戻ってくる気配が無いことに気づいた瞬間、二人は草原に倒れ込んだ。
死と隣り合わせ、そんな事はこれからも続いていくのだからこれくらいで倒れて欲しくは無い。しかし今回は博打のようなものだ。
十中八九成功すると分かっていたが、それでも博打に過ぎない。彼らからしたら相当な緊張感だったはずだ。
「お疲れ、動けるか?」
「なんとか、ですね」
リシアはノロノロと起き上がるが、正純の方は草原に倒れたままピクリともしない。
森の中を全力ダッシュし、ワイバーンの群れをいなし続ける。そんな事をすれば披露で動けなくなる事は当然だ。
俺は正純を背負う……なんて事はせずにリシアに任せて村に戻る。
「さて、これでどれだけ帝国兵に被害を出せたか…」
出来れば一時撤退して欲しいところだ。
▼▼▼
「ははっ、相変わらずエグい事するなぁ」
ジルドレは戦況は見ながら撤退の指示を出す。
これ以上攻めても被害を受けるしかないと判断したからかだ。
戦場はワイバーンの出現によって大混乱を起こしている。アスタン兵達は一斉に魔除けの煙を炊いてワイバーンの侵入を防いでいるため、被害はコチラにしか起きていない。
「はぁ、これも栄水の仕業だね。
どうやったかは知らないけど…」
ただ、どうも違和感を感じる。
アスタン砦にいながらどうやって此処にワイバーンを引き寄せたのだろうか。
「恐ろしい男ですな。ジルドレ殿」
「あぁ、また魔物をけしかけて来るかと思って対策はしていたんだが、まさかワイバーンを使うとはね」
「おかげでコチラはかなりの被害を受けましたな」
ジルドレは水晶から送られてくる声に逐一返事や指示をして、ようやく一息つく。
「お疲れですね」
「あぁ、相手が相手だからね」
「しかし、栄水とはそれほど厄介な男なのですか?」
「さぁ、どうだろ。策を巡らす事に長けているのは事実だけどね。いつも成績は僕より下だったし、会話をしていても僕より勝っているとは思えなかった。
それに、自分の実力を隠しているわけでもないんだ」
そう。だから不気味だし、恐ろしく、怖い。
僕は僕達を裏切ったバリア家を絶対に許さないし、王国を許すつもりもない。
だから僕は帝国に来た。
でも…帝国に来た理由はそれだけじゃない。
彼の目が、彼の声が、彼の存在が。
あまりにも恐ろしくて、怖かった。
今でも頭にこびりつくあの日の記憶。
『勝つために自分の恋人を壊した男』
まだ僕はあの日のトラウマを超えられずにいる。
「さぁ来い、栄水。
王国を従えて、僕を潰しに来い。君を超えて復讐を成し遂げた時、僕は自分の全てを持って帝国を天上へと押し上げる。
行くぞ、ガヴァルタ」
「御意に」