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堕落者の憂鬱軍師思考  作者: 淀水 敗生
気水奪還篇
18/27

国境壁6



▼▼▼


「そ、そんな事が可能なのですか!?」


「あぁ、可能だ。ワイバーンの習性を把握していれば難しい事じゃない」


栄水殿の話を聞いて皆は半信半疑の様だ。

実際私も戸惑っている。

本当に『ワイバーンを帝国兵に差し向ける』ことなどできるのだろうか?


「いいか?

ワイバーンは餌を求めてここまで飛んできた。そして、仕方なくここの作物を食べたがそれでもエネルギーを得るのには足りていないはずだ。

更にワイバーンはここまで飛んできた疲労で近くに巣を作り、休んでいる。


アイツらは眼がいいからな。

ここからでも帝国兵の姿が見えるだろう。

後は餌を求めて勝手に襲ってくれるはずだ」


「……わかった。お前にどんな作戦があるのかは知らないがアスタンが窮地に立たされていることは事実。

打てる手があるならば打たなければならない」


ボルンは頑強な腕を組んで頷く。それに皆も同意しているようだ。

確かに、どんなに危険にせよ、危険を承知で戦わなければアスタンは勝てない。

第一、私達が気水様を取り戻すまで持ちこたえられるかどうかも分からないのだ。

打てる手は打たなければならない。


「先ず、作戦に必要な人数は少ない程がいい。よって、メンバーは俺とリシアと正純で行く」


「おいおい、待て待て!!

現状俺達が出せるオールジョーカーじゃねぇか!」


「だからだ。

現状、1人でも死ねば大きな損失になる。ならば死ぬ確率を考えて選出すべきだ」


「栄水さんはどうなんですか?」


「俺はいいんだよ。指示も出さねぇといけねぇしな」


そう言って直ぐに準備に取り掛かり、私達はワイバーンの巣へと向かう。

巣の場所は栄水殿の知識と正純の経験である程度範囲を絞り、辺りを探し回ると簡単に見つかることが出来た。

場所はプープカ村から少し離れた渓谷。緑が多く石には苔がビッシリと張り付き、流れの穏やかな川がある渓谷だ。


遠目から見えるワイバーンの数は二十匹。即席の巣はボロボロでワイバーン達は窮屈そうに休んでいる。


「それで、どうするのだ」


「うーん、アイツらに帝国兵をみつけてもらわにゃならねぇ。てぇなると高く飛び上がらせなきゃなぁ」


「リシア、『グリフィンの翼』は持ってきているな」


「あぁ、しかし消耗品だぞ?いいのか?」


「あぁ、直ぐに始める」


ワイバーンに自分達の存在を気づかせ、戦闘中一匹でも高く上空へと舞い上がったら勝利だ。後はワイバーンが勝手に帝国兵を見つけて襲ってくれる。

彼らだって種を繁栄させるために必死だ。どちらを狙えば多くエネルギーを手に入るかわかるだろう。

人間は肉の量は少ないが魔力は結構持っているため、ワイバーンにとってご馳走だ。


「よし、ここでいいだろう。

正純、頼んだぞ」


「はいよ」


リシアと栄水から離れ、正純はワイバーンの群れに近寄り、あらかじめ決めておいたポイントにつく。



▼▼▼


「気ぃ乗らねぇや」


配置についた正純は苦々しい顔で小石を握っている。当たり前だ。相手は世界最速とも呼べる竜種。

こんな森の中で最速は出せないが、人間が付いていけない速度で迫ってくる。


「さぁ!あっしはここですぜ!!

精一杯追いかけ回しやがれい!」


正純は全力で投石し、ワイバーンの群れの中に小石が入った瞬間、全速力で逃げる。

背後で空気が押しのけられるほどの暴風が巻き起こるのを感じながらひたすら走る。


「ひぃーー!!生きた心地が皆無!!」


目尻に涙を溜めながら走る正純だが、元ハンターとしての経験により森の中を速度を一切緩めずに走り抜ける。

木の根を軽やかに躱しながら一瞬だけ背後を見ると一匹のワイバーンが後ろに迫ってきていた。

その恐怖に失神寸前のところまでいくがなんとか持ちこたえる。


(悪魔の旦那の予想通り……ッ!)


ワイバーンの習性として群れで獲物を狩る時は先頭にボスを配置して三角形状に飛んでくる。この作戦はこの先頭のボスが重要なのだ。


今、ワイバーンは森の上を飛んでいる。

降下してくるのは森を抜けた平原地帯。


「獲物を追い込んでると思っているだろうが追い込んでるのはあっしらだ」


森を抜け、平原に出る。

ワイバーンが降下し始めた瞬間、正純は走る速度を上げてポイントに誘い込む。


(よっしゃ!!完璧だぜ!!)


正純は心の中で三秒数えた瞬間、草むらにダイブする。

ワイバーンは獲物を狙うため、地上ギリギリまで降下していたが獲物が突然草むらに消えたため、獲物の上を通り過ぎる。


『グリフィンの翼』


その瞬間、ワイバーンは真下から巨大な暴風に打ち付けられ、バランスを崩したまま上空へと打ち上げられる。


『グリフィンの翼』中級魔法の中でも上位の威力を誇る風の魔法だ。その魔法陣を組み込んだ指輪は魔力を流す事によって発動される。一度きりの使い捨て、それでもワイバーンを仕留められはしないが上空へと押し出すことはできる。


作戦は、先ず森の移動に慣れている元ハンターの正純が全速力で平原のポイントまでワイバーンを誘い込む。『グリフィンの翼』は一度きりしか使うことができない。だからこそ、至近距離で確実に当てなければならない。そうなるとワイバーンが安全に低空飛行できる平原まで誘い込む必要があったのだ。

栄水とリシアは丈の高い草に隠れ、正純が飛び込んできた瞬間に栄水がワイバーンを目視してタイミングを見計らってからリシアに合図を送る。

そうすることによって完璧にワイバーンに魔法を撃ち当てる事ができるのだ。


しかしこの作戦には大きな欠陥が有る。


「さ、こっからが本番だぞ」


ボスを上空に上げて、帝国兵を発見させるまでの数分間。栄水達三人はワイバーンの群れに囲まれる事になる。

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