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堕落者の憂鬱軍師思考  作者: 淀水 敗生
気水奪還篇
15/27

国境壁3


▼▼▼


〜06:00〜


アスタン城塞都市を出発した気水奪還班、通称A班は森の中を進行していた。

アスタン城塞都市東門から出て大きく迂回する形で北上中である。


「何故帝国はこの時期に戦争をしてくるのでしょうか?もちろん王国と帝国の仲の悪さは知っていますが、過去の報復と言っても数百年は前の話です。それを今更掘り返すのはどうも納得がいきません」


「むむ、確かにそうですね。でも帝国はずっと王国と戦争するきっかけを作ろうとしていたじゃないですか。それがたまたまこの時期になっただけでは?」


「いや、帝国も馬鹿じゃない。もしかしたらそれなりの理由があって戦争をしているのかもしれん。人材確保、領土の確保、資源の確保、他国の牽制、色々あるがここら辺が妥当だろうな」


「じゃあ何故条約を無視するような事をするのですか?そんなの損するだけなのに」


「ふむ……」


そう言って騎士達、リアン、ニーシャ、ボルンは今回の戦争のことについて話し合う。

何故帝国は戦争を続けるのか。


「簡単な事さ。

アイツらが掲げる目的はただ一つ、天下統一だ」


馬車の上であくび混じりに答えた栄水の言葉に誰もが唖然とする。天下統一、そんなものが本気で信じられていたのは今や何千年も前の話しだ。まだ王国も帝国も建国されていない暗黒時代。


「アイツらは本気でやろうとしている。元々帝国は皇帝の強い権力の下に成り立った国だ。それに昔から帝国の掲げる旗には『肉を断つ銀剣』『王家の秘宝グリア鉱石』『世界の始まりパーリコリア平原』が描かれている。

平原に剣が突き立てられ、件にはグリア鉱石の首飾りが掛けられている絵だな。

これは明らかに世界を武力と王の権力で支配するという意味が込められている。

更にいえば今現在帝国を引っ張りあげようとしている奴がいるんだよ」


栄水は青い水晶を思い浮かべながらスコルトと呼ばれる煙草を吹かす。


「ジルドレ、シーシスト学園を主席で卒業した天才戦術家だ。一時期は透水軍師の下で勉強していたこともあるらしい。

あとこれは噂程度だが国家直属のメンバーにも目をつけられていたらしいな」


「なっ!」


栄水の言葉は誰もが驚くことだ。シーシスト学園は名門であり、レベルが高く競走が激しい。その中で主席を取るには並外れた力が必要である。


主席卒業者は例えば王騎士一番隊隊長、平塚流星(ひらつかりゅうせい)、『轟雷』のギルドマスター、豪馬極炎(ごうばごくえん)などなど今や知らない人など存在しないビックネームだらけである。


「うーん、でもそんな人いましたかねぇ。それにシーシスト学園が出身なんですよね?なんで帝国にいるんですか?」


ニーシャの言う事も最もである。シーシスト学園主席卒業者は嫌でも目に付くし名が広まる。それなのに名前が全く広まっていないのだ。


「そりゃあそうだろう。ジルドレは主席で卒業した後、ある事件を起こして卒業発表前に王国から逃亡したからな」


「ある事件、ですか」


「バリア家殺人事件」


「……バリア家殺人事件。……ああ!!

お、思い出しました!!

そうだ。確かバリア家に何者かが侵入して一家を皆殺しにした事件です!」


「ふむ、確かにあの時は卒業者発表前だったような気がするな」


リアンとボルンが昔の記憶を思い出しながら語る。


「当然、貴族を殺したんだから国家反逆者だ。そんな奴を卒業者として発表したらシーシスト学園の面子は丸潰れ、だからあの時学園は…」


「卒業発表を遅らせた」


「そういう事だ」


栄水は話が終わらせるように煙草を捨てて目を瞑る。


「でも何故バリア家を殺したんでしょうか?バリア家は当時凄い人気を誇る領民思いの貴族だったはずです」


リアンの言葉に三人が考え込む。


(何故殺したのか。

まぁそりゃあ殺したくなるだろうさ)




バリア家はジルドレの全てを奪ったんだからな。






▼▼▼


「見えてきたぞ。プープカ村だ。

当初の予定通り、プープカ村で休憩を取る。翌日に朝から出発だ。必要なものがあれば買い込んでおけ」


リシアが部下にテキパキと支持を飛ばし、プープカ村に到着して宿に馬車を止めたあと騎士達はスグに買い物に出かける。


千春と栄水は宿屋で同室となり休む。


「千春は何か買わなくていいのか?」


「ふっ、安心するでごにゃるよ。準備は万端でごにゃる」


そう言って千春は服の間や袖の隙間から短刀やクナイ、煙幕に使う小さなボールを取り出して一つ一つ点検していく。


「そう言えば、お主が今回のA班に加わった理由をなんでごにゃる?お主は頭を動かす人間でごにゃろう」


「んー?

まぁ、な。帝国に気になることがあるだけだよ。この目で確かめたいことがな」


そう言って栄水はベットの上でゴロゴロと寝返りをする。


「ん、そう言えば【千本鼠(ピグモット)】を連れてきたでごにゃるよ」


千春は懐から小さなハリネズミを取り出して栄水が寝ているベットに放る。


ベットに転がったハリネズミはチラチラと周りを見渡したあと栄水を見つけ、全速力で栄水に近づきぺろりと舐めた後に頰擦りをする。


「久しぶりだな、チク」


栄水が手のひらでコロコロとチクを転がすとチクも楽しそうにしている。


栄水は片手でチクを転がしながら気水奪還の段取りをシュミレーションする。

帝国国内については千春が十分に把握しているらしく任せてもいいだろう。しかし王城内部となるとそうはいかない。


(帝国内に留まり情報収集する時間も視野に入れておこう)


「あぁ、すべて放りだして寝たい」


今や宿屋で爆睡して翌日には二日酔いでフラフラになりながらカジノへと向かう日々が懐かしい。


「栄水殿!村でこのような食べ物を見付けたのだ!食べてみてくれ!」


突然リシアが部屋に入り、部下には絶対見せないようなキラキラした笑顔でコチラに袋を寄越してくる。


相変わらず綺麗な顔立ちだ。

この笑顔が見れるならもう少し頑張ってみようかと思ってしまう自分が腹立たしい。


栄水はリシアの頭にチョップをかましてから袋を受け取り、中に入っていたものを取り出す。

それは肉を串に刺してタレを付けて焼いたものだった。


「あ、美味ぇ」


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