虚偽王4
勝敗は決した。
「いやぁ、いい勝負だったじゃないか。
それじゃあ、約束は果たしてくれよ?」
そう言って栄水は席を立つ。
「ま、待て!」
しかしそれをピスコが止める。
「俺は敗者だ!お前の約束は果たす!しかし何故だ!何故お前が勝てたんだ!
運か?!しかし最後のお前のクロトカゲ。
あれはとても運とは思えない!」
普通、相手に手を内なんてのは教えない。
当たり前だ、それは手品を明かす様なもの。一度バレてしまえば二度と使えなくなるのだ。
そんな情報を教えるわけがない。
実際ピスコもそんなことは分かっていた。
そんなピスコの思いを知ってか知らずか、栄水はにやりと笑う。
「簡単な事さ。俺はアンタに嘘を信じ込ませた」
「な、何?」
「いいか?一から説明しようじゃないか」
一度目の勝負。これは簡単な布石だ。
『勝てる相手っていう思考を植え付けること』
俺には【虚偽王】などという異名がある。これがあることによって多かれ少なかれ警戒するのだ。先ずはその思考を取り除く事が必要だった。
だから俺は一度お前に負けた。様子見も兼ねて負けたが、クロトカゲの興奮状態を見て、レース場の仕掛けを使ったのは一発でわかったな。
まぁ、そうして俺はお前の頭に『勝てる相手』っていう思考を植え付けることに成功した。
次の勝負。賭け事として勝負始め、相手の不正を利用する勝ち方をした。
そうすることによって相手の不正を潰す。
そしたら相手はどう思うだろうか?
そう、やはりコイツは【虚偽王】だと再確認する。
よって相手は頭を冷やして冷静に考える。考えれば自ずと『ある答え』が出てくる。
「『クロトカゲ』は不正がしにくいゲームだ。
卓上での不正は暴かれやすく、レース場の興奮剤散布も相手に利用された。
〝そしてそれは相手も同じこと、ならば真剣勝負しかない〟ってね。
あとはスタッフに金を渡して興奮剤を散布させるボタンを受け取るだけだ。俺が一番のクロトカゲを選んだのは、真剣勝負と思い込んだ君が賭け事で一番勝率の高い九番を選ぶと思ったからだ。となれば先にクロトカゲを先行させて確実に興奮剤を吸わせる。初めに引き離しておけば興奮剤の残り香を吸われないしね」
改めて考えてみる。
まず〝相手が不正をしないだろう〟
そんなこと、思うわけがない。なぜならここは裏賭博場だからだ。不正なんてものは当たり前の世界で『真剣勝負』なんて考える方がどうかしている。
そう、ピスコはどうかしていたんだ。
〝どうかされていたんだ〟
『真剣勝負がまかり通る賭け事』なんて嘘を本気で信じてしまっていた。
〝嘘が真実へと捻じ曲げられていた〟
「……こ、これが」
用は済んだと去っていく栄水。
これが
【虚偽王】
▼▼▼
「ヒヒヒヒ、いいねぇ、僥倖僥倖。
駒は手に入った。後は貴族娘の奪還かぁ」
本当に無茶な要求をしてくるものだ。
「……虚しいよなぁ」
ふと、戦争という荒波を想像する。
「最初は小さな水滴が流れ落ちていくようなものだ。それが食って食って膨れ上がって、大きくなって川みてぇになる。
そこまで来たら止められねぇだ。次の勝負に勝とうとしている博打師みてぇにな。感情に逆らえねぇんだ」
栄水は気怠い思考で街をフラフラと歩く。
「虚しいよなぁ。
ババ抜きで最後の2枚のどちらを引くか真剣に考えるくらい虚しい」
栄水の声には悲しみが含まれていた。
「……〝どっちを引いてもジョーカーなんだからな〟」