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亡霊

作者: 武田道子

亡霊      


墓地は見晴らしの良い高い丘の崖の上にあった。防寒、防風のために北側には松の林があった。西南の方角に見える景色は、目の保養には最適だった。私は恋人に振られて、かなり落ち込んでいた。もちろん自殺することなどは考えてもいなかったが、そのような考えが一瞬頭を掠めたことは認める。けれどもこんなに美しい崖の上に立ったとき、死ぬことなど本当に無駄なことだと感じる。冬こそこのような場所に立つことは気違い沙汰だ。しかし春も夏も秋さえも、こんなに美しい場所はそんなに多くはない。昨日仕事の帰りに、街の占い師のところに寄った。私の恋人運を見てもらうためだ。占い師によると、私の次回の恋運は、七月七日、見晴らしの良い高い丘、松林、星空、暴食と出た。見晴らしの良い丘、松林、星空は納得が行くが、暴食が何で恋人探しや恋運に関係があるのか分からない。墓地に夜に行くのは、どんなに景色のいい場所でも、あまり気持ちのいいものではない。けれども恋のためにはそんなことは言ってられない。今夜は本当に星がきれいだ。この丘から見る星は、手で触れそうだ。今日は七月七日、七夕祭りの日。その日は織姫と牽牛が出会える一年に一度の日。そしてどういうわけか、私の恋もこの場所で、この時にかなうと占いに出ている。私はたくさんのお弁当を作って、日が沈む前から待機している。太陽が水平線に吸い込まれ、星が一つ、二つ、三つと藍色の空に明かりをつけ始めた。墓地は急にシーンと静まり返った。私は怖くなり、持ってきたお弁当を次から次へと暴食した。西南の空がぼんやりと明るくなった。私はそこに若い男が立っているのを見た。

まぶしい朝の光で目が覚めた。私は墓地での出来事を思い出した。でもあれは夢だったんだ。占いを信じるなんてどうかしている。でも夢でよかった。私はシャワーを浴び、コーヒーとトーストで朝食を済ませ、家を出た。私は駅のホームに入った。そしてその場で凍り付いてしまった。ベンチでは夕べ墓地で見た若い男が朝の光を浴びて、私を見て微笑んでいるのだった。


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