オカメがうちにやってくる
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32歳、独身、ITベンチャー勤務、彼氏なし歴3日
そんな私の元へ鳥がやってくる。親戚のきみこおばさんが飼っているオカメインコとやらを旅行中預かってほしいとのことだ。寂しがり屋なので、ペットホテルには預けたくないのだと。どこぞで私が長期の有休を取ったと聞きつけたらしく、半ば無理矢理押し付けられた。母がぺらっと話してしまったらしい。おばさんと母の間で勝手に話が進んでいた。母に文句を言うと、あんたのマンションの頭金を補助したんだから、それくらい引き受けなさいと言われた。ああ
私が有休を取ったのは、彼氏に振られたからだ。5年も付き合っていたので結婚するもんだと思っていた。そうした安心感もあり、仕事に没頭していて彼のことをおざなりにしていた。最近デートもしていなかったし、当然それ以上のこともなかった。お互い社会人だから仕方ないよねぐらいに考えていた。
ことは一週間前に起こった。彼が付き合って5年目の記念日にデートを企画したのだ。忙しい私のために、彼の家で美味しいものをたくさん買ってのんびりする予定だった。ただ私はちょうど大きな仕事を任されていた。社会人になって10年目のビックプロジェクトに抜擢されたのだ。その仕事がしたいがためにベンチャー企業に入ったといっても過言ではないくらいの。私は嬉しくてつい彼との約束を忘れてしまったのだ。プロジェクトチームとの話し合いに熱中し、気が付いた時には夜の11時だった。着信が何件か入っていて我に返った。急いで彼の家に飛んで行った。互いの家の合い鍵はもっているので、そっと中に入る。彼はもう寝ていて、テーブルの上にはラップされた料理が並んでいた。出来合いのものではない、彼の手料理ばかりだった。おしゃれに盛り付けてあって、とても手が込んでいた。冷蔵庫の中にはシャンパンとケーキが用意してあった。
私は真っ青になってしまって、どうしようかと思っていると彼が起きてきた。
「ごめんなさい!遅くなっちゃって!」
「...うん、いいよ。仕事だったんでしょ」
「うん...」
「料理、よかったら食べちゃって。それとももう済ました?」
「ううん、食べます!いただきます」
ほんとは夕方、プロジェクトチームでご飯を食べに行ったのでお腹は空いていなかった。
「ゆうきも食べる...?」
「いや、僕は明日早いからもう寝るよ。おやすみ」
そう言って寝室へと戻ってしまった。
わたしは冷えたアヒージョを食べた。辛いのが苦手な私のために唐辛子は入っていない。代わりに大好きなエビが沢山入っていた。
シャワーを簡単に済ませ、寝室に向かった
「ねぇ、ゆうき、起きてる?」
「うん」
「今日はほんとごめんなさい。仕事が長引いてしまって」
「うん、いいよ。大丈夫」
「ごめんなさい」
私はゆうきの肩に手を伸ばしたが、明日早いからと手を払われた。
翌日起きるとゆうきはいなかった。
昨日の料理はすべて片づけられ、テーブルの上にはおにぎりが置いてあった。
私は問題を先送りにする癖がある。ゆうきへ昨日はごめんなさいとメールしたあとは、話し合いたいというゆうきからのメールに返信しなかった。いや、ほんとは返信しようと思ったのだが、なんて送ったらいいのか分からなかったのだ。
そして三日前、ポストに封筒が入っていた。切手の貼られていない、きよみへとだけ書かれた封筒。中身は私の部屋の鍵と、先が見えないので別れたいと書かれた手紙。急いで電話したが、「もう無理だよ」とだけ言われて切られた。全部私が悪い
憔悴する私を見て社長がしばらく休めといってきた。私は食い下がったが、仕事に全然集中できていないと言われ、無理矢理休暇を取らされた。プロジェクトも他の人がリーダーになることになったと昨日連絡がきた。
そんな私の元へ鳥がくる。期間は一週間。ちょうど私の休暇と同じだ。いっそ沖縄にでも行こうかなんて考えていたのに。おばさんは子供が全員独り立ちした記念に台湾にいくらしい。なんてことだ。しかも鳥はオスとメスのペアらしい。なんてことだ。
ああ、仕事も恋愛もうまくできない私に鳥の世話なんてできるのだろうか。憂鬱だ。