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6.遭難

しまったと思った時にはもう遅かった。

バランスの崩れた身体。抗うすべも無く傾いていく。

何度か体験したことのある感覚ではあったけれど、その時は焦っていたのだろう。


「リーレイ!」


名を呼ばれて差し出された手をとっさにつかんでしまったのだから。

よくよく冷静に考えてみれば、この手の主にリーレイの体重が支えきれるわけは無かったのに…。

気づいて手を離そうとしたときはもう遅かった。

相手の身体はリーレイに習うかのようにバランスを崩して傾き、


「ローウェのあほー!!」


叫びながら、リーレイの身体はローウェと共に崖の下へと吸い込まれていった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


リーレイが次に意識を取り戻した時、あたりはすっかり暗くなっていた。


(少なくとも4,5時間は経ってるってことか…)


落下する際に、反射的に衝撃を和らげるような魔術を発動したものの、すべての衝撃を吸収できたわけではなく気を失ってしまったらしい。


(そうだ! ローウェ!!)


慌てて辺りを見回したリーレイの瞳に映ったのは、異様にこんもりと盛り上がった草むらで…、


(何だこれ…)


よくよく見ると、近くの木の枝やら雑草やら、つるが伸びて集まって、山を作っている。

ローウェが原因なのだろうとすぐに予想がついた。

青魔術師が異様に好かれるのは動物のみならず植物も同様なのだ。


「無事か、ローウェ」


声をかければガサガサとその山が動き出す。

続いてそこから、ズボッと手が現れた。


(うわー、ホラーだ…)


のそのそと起きだす体。

やがて山の中から現れた姿は、目立つところに外相は見当たらなかった。


「怪我は?」


それでも確認のために聞いてみる。


「ない」


即答。


「あぁ、そうかよ。っつか、支えられねぇんなら手ぇ出すなよ」

「……、あぁ、つい…」


(つい、かよ…)


「しっかし、どのくらい落ちたんだ?」


そう言ってリーレイは上を見上げた。

目はだいぶ暗闇に慣れてはきていたけれど、それでももといた場所を確認することはできなかった。

そうとう落下したのだろうと知れる。


「作戦はうまくいったんだろうな…」


今回の依頼遂行のため、リーレイとローウェはおとりの役割をしていた。

2人で派手に戦闘している間に、他のメンバーが今回の目的である宝玉を取り戻す役割であった。

こちらを襲ってきた連中はあらかた倒した後で、リーレイの中で油断があったのだろう。

足場の悪い立地に加え、昨日の雨でぬかるんだ地面に足を取られて現在の状況に至る。


「それなりに時間稼ぎできたし、大丈夫じゃないか?」


ローウェの回答は楽観的だ。

だがリーレイもおおむね同感だった。

ただ、作戦が終了したにもかかわらず艦に戻らない2人に乗組員たちはさぞ大騒ぎしていることだろう。


「さっさと帰ろうぜ」


現在位置はいまいち把握しきれないが、とりあえず上に向かえば見慣れた風景が現れるかもしれない。

すぐにでも行動に移そうと、落ちてきた崖の岩肌を確認していたリーレイだったが、ローウェは上方を見つめたまま、ピクリとも動こうとしない。


「夜明けを待とう」


一言いって、その場に腰を落ち着かせようという様子を見せるローウェにリーレイが焦った。


「さらに夜が更ければ魔物が出てくるぞ」

「だから夜明けを待ったほうがいい。夜は魔物の攻撃力が上がる」


言いながらローウェは手近にある木の枝を集めだした。

何をするのかと問えば、火を焚くのだという。


「魔物も野生動物も、火のあるところにはあまり近づこうとしないから…」


説明しつつもローウェの手はとまることはない。

リーレイが呆然としている間に器用な手つきで火をおこしてしまった。

悔しいが、魔物に関する知識はローウェが上だ。

仕方なくリーレイも彼の行動に従うことにする。


「お前、そんなこと誰に習ったんだよ」


隣に腰を下ろしたリーレイに、ローウェは不思議そうな視線を向けてきた。


「こんなの誰にでもできる」


当たり前のように言うローウェに、リーレイがグっと押し黙る。

たしかに、空賊たるもの火をおこすくらいできて当たり前、かもしれないが…。


「フツー出来ねぇよ」

「ふぅん、そうなんだ…」


対して興味も無いようなローウェの返答。


「お前、買い物もまともにできなかったくせに、こういうことは出来るのか」

せめてもの負け惜しみでそんなことを言ってみるが、ローウェが逆に悔しがるそぶりは無い。


「俺が生まれたとこは実り豊かで食料には困らなかったし、買い物する必要が無かった」

「へぇ、今どきどこも不作だってのに。いいとこに生まれたもんだ」

「いいとこ…」


納得し兼ねる様子で首をかしげつつローウェはポツリ呟く。

その間も黙々と火の中に枝を投げ入れていった。

火はどんどんと大きくなり、やがてゆったりと暖をとれるほどにまでなり…。

すると、ローウェがその場にごろりと寝転がりだした。


「お前っ! 寝るつもりじゃないだろうな!」

「え? 寝るよ。疲れたもん」

「魔物に襲われるぞ!」

「大丈夫だ。森の中だし…」


さらにはリーレイも寝なよ、と誘ってくる始末。

いやいや、森の中だからこそ危険だろう。

だが、リーレイの反論を待たずして、ローウェはさっさと寝息を立て始めた。


(マジかよ…)


信じられない、とリーレイは頭を抱える。


(外だぞ? 野外だぞ? 野生動物だってうろうろしてんじゃねぇか! 年間何百人が野生動物の被害にあってんのか、知らねぇのか!?)

(俺は絶対、寝ないぞ! でもって、野生動物でも魔物でも、襲ってきたって俺は自分の身しか守らないからな!)


心の中で散々と文句を言ってみたけれど、聞こえていないローウェが反応することは無く、


「お前、どんだけ平和脳なんだよ…」


もう呆れるほかない。

外敵の心配がもし無かったとしても、野外で寝るようなまねはリーレイにはできないだろう。

ローウェの図太い神経は時にうらやましくも思うけれど、まわりの人間の神経は日に日に磨り減っていくに違いない。

もう気にしてなんかやらないぞ、と心に決めて、リーレイは火を絶やさないように時折枝を投げ入れる。

それを何度も繰り返して、さすがに睡魔で意識がもうろうとしてくる頃、ようやく日が昇り始めた。

木々の間からこぼれてくる朝日は美しかったけれど、そんなものに目を奪われている余裕はない。

1日中起きていたせいで疲労も溜まっている。

だからこそ早いところ仲間と合流しようと、意気込んで立ち上がったところで近くの草むらが微かに動いた。


(何か来る!)


条件反射的にすばやく体制を整え、いつでも術を発動できるよう身構える。

だが徐々に近づいてくる慣れた気配に、すぐさま肩の力を抜いた。

ガサリ。

ひときわ大きく、草むらが揺れた。


「無事か?」


1言だけ、短くたずねられてしっかりと頷く。

それに頷き返したジェイクは、まだ寝ているローウェをそのまま肩に担ぎ上げた。

ぐっすりと眠っているローウェは起きる気配が全く無い。


「お前も抱いてってやろうか?」

「1人で歩けるわっ!!」


ザクザクと歩き出したジェイクの後を、リーレイはしっかりとした足取りでついていく。

その道中、


「遭難も2人ならまだ心強かっただろう」


笑いながら、ジェイクが言う。


「冗談。1人で遭難したほうがまだなんぼかマシだったよ」


不思議そうな顔でこちらを振り返ったジェイクを、リーレイは不機嫌そうな顔で無視をした。

【青魔術師の特性】

動物のみならず植物にもたいへん好かれる。

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