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4.写真

日がすっかり落ちた午後。

日中勤務の乗組員は夜勤チームに仕事を引き継ぎ、フリータイムに入る頃。

艦の一角で数名の男女がひっそりと集まっていた。

彼らの輪の中央に広げられたたくさんの写真の数々。

それが次々と消えていくと同時に紙幣が飛び交う。


時間にしてほんの数十分の出来事であった。

写真が少なくなると同時に人の姿も消え、唯一残った一人の青年の手には十数枚の紙幣が握られていた。


「まいどありー」


ホクホクとお札を数えだす彼の背後から忍び寄る黒い影。

気配を感じたヴァレンが勢いよく振り向く。

が、相手の顔を確認して安堵のため息をこぼした。


「なんだ、ローウェか…」

「何してる?」

「ま、かるーい小遣い稼ぎってやつ?」


軽い笑いを見せたヴァレンは、グイとローウェの首に腕を回して引き寄せる。


「お前にも1枚やるよ。貴重なロズウェル様のお写真だよん」


手渡された写真をしげしげと見つめていたローウェはやがて興味をなくしたようにホイと投げ捨てる。


「馬鹿お前!捨てんな!!」


ヴァレンは慌ててそれを拾い上げ、大事そうに懐にしまう。


「ロズウェル様はお好みじゃないってか。じゃぁこれはどうだ?」


続いて取り出した写真をローウェオの目の前にかざす。

先ほどの写真といい、被写体と視線が合わないところを見るに隠し撮りなのだろう。


「『萌え系・白魔術師、ミヴィアちゃん』これ結構売れすじ」


しかしそれはローウェからしてみればよく見知った相手であった。

それもそのはず、同じスカイコードのメンバーである。


「年上好きならこっちだな。『綺麗なお姉さん系・整備班のジルハーツさん』」


反応の無しローウェをよそにヴァレンは次の写真を出してくる。

また見知った顔だった。


「じゃぁ『癒し系・通信士、ルーティ』はどうだよ。巨乳好きにはたまらんだろ」


懲りずに次の写真を持ち出してくるが、ローウェは首をかしげている。

1枚目はまだしも、次の3枚はスカイコードのメンバーである。

わざわざ写真で見なくとも、ほぼ毎日顔を合わせる面々だ。


「こんなの買ってどうする」


との疑問もローウェにしてみれば当然であったが。


「せつない男心を慰めるのにはこういうのが必要なのだよ」


ま、男に限ったもんじゃないけどね、とヴァレン。

だが恋愛感情というものに興味のなさそうなローウェはやはり首をかしげるだけである。


「お前いくつだっけ?」

「15だ」


ヴァレンの問いかけには即答が返ってきたが、今度はヴァレンが首をかしげ


「前も言ったかもしれんが、サバ読んでねぇ?お前」

「サバ?サバは食べるが読まない」


何を言っている、とばかりに返されて、ヴァレンはガックリとうなだれた。


スカイコードのメンバーとしては、一番の新人にあたるこの青魔術師は、幼い。

そもそも20代が多いメンバーの中で、10代であること自体が珍しく、ローウェを含めても現在3名のみ。

年上に囲まれているせいなのか、本人申告の年齢よりもだいぶ幼く見えるのはヴァレンの気のせいだろうか。


(東方の民族は実年齢よりだいぶ若く見えるって言うけど…)


当のローウェが東方地区の出なのかは知らないが。


(ま、需要はどこにあるかわからんしな)


そう結論づけて、ヴァレンは首から下げていたカメラを掲げた。

もともとは彼の仕事用にと組織から買い与えられたものだが、最近は副業の小遣い稼ぎに大いに役立っている品である。


「お前の写真もとってやるよ」


そのカメラを向ければローウェもまんざらではなさそうな顔となり、


「いいぞ」


と、ドヤ顔―かどうかは表情が乏しいので不明だが雰囲気として―を見せる。

だが、ヴァレンがカメラを構えてシャッターを切る、と

ファインダーに収まっていた顔がいつの間にか消えていた。


「ローウェ!?」


慌ててヴァレンがかけよると、ローウェはその場にひっくり返っていた。

手を引き、起こしてやると、ローウェは驚いたように2、3度またたきを繰り返し、


「…びっくりした」


と、一言。

どうやらフラッシュのまぶしさに驚いてのけぞった勢いで後方に倒れたらしいと知る。


「どっか打ったか?頭は?」


との問いにはふるふると首を横に振る。

念のため、とヴァレンはローウェの頭を確認したが、瘤などもできていないようだ。

個人的には男なんだからキズの1つや2つ、とは思っているが、何かと上の連中から気に入られているローウェである。

何かあったときの叱責が怖い、とヴァレン思うのも仕方がない。

内心安堵しながら、ローウェの背中についているほこりを払ってやっていると、背後に人気を感じてギクリとする。


「ヴァレン」


しかし、呼ばれたその声は恐れていたものとは異なった。


「帰ってきてたならちょっと手伝ってくれよ」


振り返ってみてみれば、ヴァレンと同年代と思われる青年がこちらを手招いている。


「わかった」


うなずいてヴァレンはローウェの頭をポンと叩き、


「じゃぁまたな」


ローウェに背を向け、名を呼んだ青年と並んで歩き出した。


「いつ戻ってたんだよ」

「昨日」

「今回はどこ行ってたんだ?」

「そんなん秘密に決まってんだろー」


2人軽口を叩きつつ、足を進める。


「あ、そうだ。お前も買うか?ロズウェル様の写真」

「え、マジ?新しいのあんの?」


相手の食いつきのよさに


(そうそう、この反応だよなー)


気分よく懐に手を入れたヴァレンは、そこでようやく違和感に気が付いた。


「あれ?」


続いて、胸ポケット、ズボンのポケットの探していくが、目当ての物は見つからない。

…どころか。


「うそだろ、あと十何枚かは残ってたはず」


すべての写真が跡形もなく消えていた。

慌てて引き返したヴァレンであったが、落とした形跡は無い。盗られた形成も無い。

元いた場所にまで戻ると、いつの間にかローウェの姿も消えていた。


証拠はない。

…無い、が、犯人は1人しか考えられなかった。


「くっそー!アイツやりやがったなぁぁぁあああ」


ヴァレンはその場にしゃがみ込み、床に向かって叫んだ。


そして一方、そのころのローウェはというと。

てん、てん、てん。

廊下を跳ねるように足取り軽く歩いていた。

スキップでもしだしそうな機嫌の良さが伺えるが、相変わらず表情の変化はない。

とある部屋の前までくると、足を止め、そっと中に入る。

部屋の中には1人の男がいた。

頑丈そうな机の前に腰かけ、山のように積まれた書類に目を通しているようだ。

そっとローウェが近づくと、気配を察したのか、彼―フィルフォードが顔を上げた。


「とってきたぞ」


そういうとローウェは机の上に十数枚の写真を広げた。

そのうちの1枚を拾い上げたフィルフォードは、やれやれとばかりにため息をついた。


「またこんなに撮りためていたのか…」


数枚を確認すると、フィルフォードはそれらをまとめて全部ゴミ箱へと投下した。

代わりに引き出しから取り出したのは10センチ四方ほどの箱がひとつ。

それをローウェの前に差し出した。


「任務ごくろうさま。報酬を受け取ってください」


その言葉を受けて、ローウェはその箱を大事そうに胸に抱えた。

そして、くるりと方向転換すると

てん、てん、てん。

また足取り軽く去っていった。


『軽転移』…青魔術の一つ。補助魔法。物質をA地点からB地点へ転移させる。「軽」という言葉から察せられる通り、質量制限あり。重いものや大きいものは転移不可。また、長距離も不可。

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