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3.ローウェの1日

毛布に包まった身体がもぞもぞと動く。

もぞもぞ。

もぞもぞ。

しばらくして身じろぎにも飽きたのか、寝ぼけ顔のローウェが顔を出した。


「ご飯…………」


一言呟いて、起き上がる。

部屋を出ると、窓から覗く太陽は思いのほか高い位置にあった。

トテトテトテ。

力のない足取りで食堂へと向かう。

開け放たれた食堂のドアから中を覗いて見るが数えるほどしか人はいなかった。

それもそのはず、今の時間は午前10時。

皆すでに朝食はとうに終えているし、昼食にはまだまだ早い時間帯だ。

トテトテトテ。

カウンターまで歩いていって、さらに中を覗く。


「キルシュ。ご飯……」


厨房の中では、朝食時の繁忙を乗り越えた調理班の面々が椅子に座り休んでいるところだった。

その中の1人がローウェに気づいて歩み寄ってくる。


「またずいぶんと寝坊だな。ローウェ」


調理班の1人・キルシュは呆れたようにローウェを見下ろす。


「もう、あんま残ってないぞ。トーストでいいな?」


問われてローウェはこっくりうなずく。


「とろとろ卵をのせてくれ……」

「はいはい」


それから朝食が出来上がるまでほんの10分ほど。

ローウェはそれを受け取って、誰もいないのをイイコトに真ん中の大きなテーブルを独り占め。

ゆうゆうと1時間ほどかけてゆっくりと朝食を済ませた。


「ごちそーさま」


トレイをカウンターに返して食堂を出た。

トテトテトテ。

飛空艦の移動中、戦闘班は基本的にオフである。

ローウェが戦闘員としてカウントされているかどうかはまた別の話だが。

特に目的もなく廊下を歩いていると、

むんず。

と、突然襟首をつかまれた。


「ようやく起きたな、ローウェ」


低く、唸るような声はリーレイだ。


「てめぇはぐうたらすぎる!! 働け!!」


ぐいぐいと手を引かれるままにサンデッキに連れて行かれる。

押し付けられたのはモップ。


「…………」


ローウェはしばらくそのモップを眺めて、次にリーレイの顔を覗う。

ギロリと睨まれてまたモップを見る。

はふ。

一息つくと、コシコシと床を磨きだした。


コシコシ。

コシコシ。


気が付くとリーレイの姿はすでにない。

リーレイもオフだというのにいつも何かしらの用事で艦内を走り回っている。

忙しいヤツだ。

早く終わらせて昼寝でもしようとローウェが考えていると、


ふいに。

頭に軽い衝撃が。


「ぴよぴよぴよ」


続いて鳴き声が。

どこかからやってきた小さな鳥が、ローウェの頭の上でなにやら楽しげな様子である。


「ぴよぴよぴよ」


なおも鳴く。


「ぴよぴよぴよ」

「……………………」


動じず、掃除を続けるローウェ。


「ぴよぴよぴよ」

「…………ダメだってば」

「ぴよぴよぴよ」

「…………だって、リーレイに怒られる」

「ぴよぴよぴよ」

「痛い。髪をひっぱるな」


なおもうるさく鳴いていた鳥だったが、突然大きく羽ばたいて飛び去ってしまった。

近づく人影。


「お前、間違っても街中でそれやるなよ」


同じ戦闘班のアウォースだ。同じと言っても術師と剣士の違いはあるが…。


「なに?」

「鳥と会話すんなっての」

「ダメか?」

「ダメっつか。病院に連れ込まれるぞ」

「…………そうか……」


わかっているのか怪しい返答である。


「まぁいい。これからリーレイに少し剣を教えるんだが、お前も来るか?」


アウォースに問われてローウェは首を振った。


「青魔術師は攻撃しない」

「はあ? お前の護法壁応用編はどうなんだよ」

「護法壁は防御魔法だ」


ふん、とドヤ顔で言われ、アウォースはやれやれとばかりに首を振る。


「青魔術はよくわからん」


早々にアウォースは去った。

ローウェはその背中をぼんやりと見送り、


コシコシコシ。


掃除を再開するのであった。

しかし元々の動作がのろいのか、サンデッキすべてを掃除し終える頃には日もすっかり沈んでおり、


「は!? お前まだ掃除してたの?」


あきれ返ったリーレイに連れられて食堂で夕飯を食べた。

しかし思いのほか疲れていたらしいローウェは、スープを一匙すくったところで固まってしまう。


「…………おい?」


異変を感じて声をかけたリーレイに対しての反応もなし。


「くぅ―――――…………」


かっくりと項垂れたローウェの口からもれるは寝息。


「寝るのかよっ!!」


思わずつっこんだリーレイの声もローウェには届かなかった。



次にローウェが意識を取り戻した時にはすでに自室のベッドの上だ。

どうやら誰かが運んでくれたらしい。

が。


「…………さむぃ」


もぞもぞ。

もぞもぞ。


少しでも体温を逃すまいと小さく縮こまってみるがさほど効果はない。

もぞもぞ。

毛布をまとった塊がベッドから落ちて床を這い部屋を出て行く。

途中誰かとすれ違ったようだがローウェには何も見えなかった。


「…………」


まぁ毛布がごそごそ動いていれば何事かと思いますわな。

もぞもぞと動く奇妙な物体に興味をそそられしばらく眺めていたようだが、

そのうち物体の正体に思い当たったのか、単にかかわりたくなかったのか、去っていった。


もぞもぞ。


なおも物体は移動を続けとある部屋の前へ。

躊躇することなく部屋の中へと入っていくと、そのままベッドに乗り上げた。


「ぅわっ!なんだ!」


そこでうとうとと眠りにつこうとしていたグレンは哀れにもすっかりと起こされてしまった。


「ぬくい…………」


他人様のベッドを占領したローウェは早々に眠りにつこうとしている様子だ。

いろいろと文句を言ってやりたいグレンであったが、すぐに無駄だと諦めてローウェの隣に横たわった。


「お前、間違っても女性陣の部屋には潜り込むなよ」


せめて忠告をと言い聞かせるが、ローウェは寝ぼけ顔で。


「………病院に連れ込まれるか?」

「病院? ……そうだな、殴られて病院行きかもな」


何故病院がでてくるのかいまいち理解できないままに言葉を返す。


「…………わかった。気をつける」

「是非、そうしてくれ」


納得したのかしないのか。

ローウェの意識は沈んでいく寸前のようだ。

ふと気が付き、グレンは完全に寝入る前のローウェに声をかける。


「ちょっと待て、ローウェ」


ん~? と寝ぼけた返事。


「部屋の鍵をどうやって開けてきた?」


その質問に返ってきた答えは。


すうすうすう。

なんとも幼く可愛らしい寝息だけであった。

【青魔術師の特性】

歌を好み、動植物にたいへん好かれる。動物と意思疎通可たぶん

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