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2.特性

『全乗組員に告ぐ。スカイコードはこれより依頼遂行のため、メルディリカへと向かいます。整備班は各自持ち場へ戻り、最終調整を行ってください』


艦内放送が流れるとともに、急激に周囲が人の移動する気配で騒がしくなった。


「メルディリカか…」


そんな人の流れから離れ、リーレイはポツリとつぶやく。


「また、魔物退治かよ。あそこは異様に繁殖してるからなー…」


やだやだ、となおも独り言は続く。

スカイコードは報酬を受けて依頼を遂行する空族と呼ばれる組織である。

特別な種族の集団、というわけではない。

移動手段に飛空艦を主に使うところからきている。

スカイコードの実績は、今のところ同業者の中でも群を抜いていると自負している。

よって依頼は後を絶たないし、休む暇なくあちこちへと飛空艦で移動しているというわけだ。


「残念ながら、正解だ」


背後からかかる声がある。


「げー、やっぱり…」


リーレイは振り返らずに不満をこぼした。

視線を向けずともそれが誰かはわかったからだ。

背後から現れた男はゆっくりとリーレイの隣までやってくる。

男の名はフィルフォード。肩書きは司令官補佐。スカイコードの頭であるグレンの片腕だ。

漆黒に近い黒い髪を後ろに撫でつけ、フレームのない細身の眼鏡をかけている。

その、いかにもインテリ系で、頭がよさそうに見えるその外見を裏切ることなく、とても頭の切れる人物である。

組織の実権を裏で握っているとかいないとか。


「到着までしばらくあるから、体を休めておけ」


それだけを言って遠ざかろうとする足音。

どうやら単に通りがかっただけのようだが、その足が数歩も行かないうちに止まった。


「そういえば、ローウェを見なかったか? 朝から見えないんだが…」


問われたリーレイは階下のデッキを指差す。

フィルフォードは再度リーレイの隣に並び、下を見下ろした。


「何、やらせてるんだ?」


彼の視線の先には、モップで床を磨いているローウェの姿があった。


「勝手に行動した罰」


リーレイの回答に、フィルフォードは呆れを含んだため息をこぼす。

以前に立ち寄った街でうっかりはぐれたローウェを探し回った記憶はまだ新しい。


「結果、無事だったんだからよかっただろう。あまり苛めるなよ」


それでも一番心配していたのは直前まで共に行動していたリーレイであるのはフィルフォードも承知していたため、強くは言わない。


「あいつ、マジ危なっかしい。世間知らずだし…」


なかなか歳の近いものもいない環境だから、兄のような気分でいるのだろうか。


「まぁ、それは同感だな」


しばらく2人でローウェの姿を眺めていると、しばらくして彼はモップを放り出した。


「あいつはぁ~…!!」


リーレイの声が聞こえた様子もなく、近くの段差に腰を下ろしている。

船でいうサンデッキにあたるそこには、数羽の鳥が羽を休めていた。

ローウェの動きが止まり、遊んでもらえるとでも思ったのか、1匹がローウェの肩にとまると、また1匹は頭に止まる。

他の鳥たちもローウェの周りに集まりだして、餌も撒いていないのに、はたから見れば異様な光景である。

叱りに行こうとしたリーレイだったが、続けて聞こえてきた歌声に動きを止めた。

歌っているのは他でもない、ローウェだ。

少年らしい、澄んだ歌声は聞くものを穏やかな気分にさせる。

のはいいのだけれど、働く乗組員の手を止めてしまうのは若干いただけない。

足を止めて歌に聴き入る乗組員の姿があちらこちらに見え始める。


「青魔術師っていうのは、奇妙な生き物だな」


そのフィルフォードの意見にはリーレイも同感だ

動物に異様に好かれるのも、どうやら青魔術師の特性らしい。歌を得意とするのも。


「そういえば、ロズウェルもよく歌ってたな」


ふと、思い出したようにフィルフォードが言う。ローウェのほかに、二人が共通で知る唯一の青魔術師の名だ。

それほどまでに、今や青は希少な存在である。

リーレイからは同意も否定もなく、ただ嫌なものを思い出したように眉をひそめている。


「今も彼女の人気は絶大らしいぞ」

「知るか」


興味の無い風を装って、リーレイが吐き捨てる。

取りつく島の無い反応に呆れつつ、フィルフォードが肩をすくめたところで、新たに1人の男が姿を現した。


「どうも、乗組員たちの動きが鈍いと思ったらこういうことか…」


フィルフォードの隣に並び、階下を見下ろしたのはこの艦のトップ・グレンである。


「叱ってやれよ、艦長」


言ってはみるが、実際にそれが実行されることはないだろうとリーレイはわかったいた。


「まぁいいさ。急ぐ旅路じゃなし…」


実際、グレンはそういって動く気配も無い。

フィルフォードの隣、同じように手すりにもたれかかり歌声に聞き入っている。

無限に広がっているようにも思われる、広々とした空を仰ぎ見て、


「しかし、いい天気だなぁ…」


と一言。

リーレイも習って空を見上げるが、見えてくるのは澄み切った青い色ばかりで雲のひとつも見えやしない。


ところが。


バサバサバサ!!

突如激しい音を立てて鳥たちが飛び去ってゆく。

階下を見下ろすと、歌を止めたローウェまでもがじっと空を見上げていた。

数分間とも思える時間の間、ピクリとも動かない。


「何やってんだ、あいつ」


呟いたリーレイの言葉に反応したかのように、突如こちらに向けられた瞳。


「グレン」


だがローウェはリーレイではなく、まっすぐにグレンを見つめ、彼の名を呼ぶ。

グレンは返事をしなかったが、その瞳が言葉の先を促していることはわかったのだろう。


「嵐が来る」


と、ローウェは言った。

その言葉の意味をすぐに理解できたものはきっとこの場にはいなかったに違いない。

なおもローウェは続けた。


「出発は明日に延期したほうがいい」


その場にいたものの気持ちを代弁するとしたら『何言っちゃってんの、こいつ』ってところだろうか。

悪いがリーレイも同感だ。

フィルフォードは静かにグレンを見る。どうするのかと無言で問いかけているのだ。

しばしの沈黙。しかしグレンの判断は早かった。


「操縦室に通達しろ、出発は延期。スカイコードはこれより上昇。雲の上に出る」

「御意」


軽い一礼をして、フィルフォードは背を向けた。


「いいのかよ。一介の乗組員の意見に左右されて」


リーレイはグレンに苦言を呈したが、相手がそれに応える様子はない。


「仕方がない。なにしろ前歴があるからな」


肩をすくめ、苦笑して終わりだ。



そして、時刻はこれより2時間後…。



「なんでだよ…」


リーレイは自室の窓から外を眺めていた。

わずか下方に漂っている、薄暗い雲の固まりは時折光を帯びては雷鳴を轟かせている。

おそらく雲の下はひどい大嵐なのだろう。

予定通りの行路をたどっていたら、今頃は艦内を駆けずり回っていただろうことを思えば、確かに喜ぶべき事態なのかもしれないけれど…。


「んんー…むぐごむむ」


隣ではローウェが意味不明な寝言を言いながらごろりと寝返りをうっていた。


「だめ…、もう食えない」

「なら食うな!」


寝言には答えていけない、と誰かが言ってた気がするけれどそんなこと知ったことか。


「ったく、青魔術師ってやつは…」

つくづく不思議な生き物だ。



天候の変化に敏感。

どうやらこれも青魔術師の特性らしい。

【青魔術師の特性】

歌を好み、動物にたいへん好かれる。

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