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勇者、魔物退治を勝手に引き受ける。

拝啓、天国のお父様、お母様。


私は今海の上におります。


海は予想よりも波が激しく、加えて魔物も襲ってきます。

仲間の2人はおろおろと吐きながら敵と戦っております。


私ですが、意外と三半規管がしっかりしているようで、1人だけピンピンです。


この揺れでもお金とアイテムの回収は完璧です。

船員の方から、是非魔王を討伐した後は漁師に!とスカウトされてしまいました。


そちらはどうですか?


いずれ私も行く事になるとは思いますが、それまでは2人の生活を楽しんでください。


私もなんとか魔王を倒せるように頑張りますね。

もし駄目でも変態2人が何とかしてくれるでしょう。


それでは。


                               



「おええええ・・・。ぎぼちわるい・・・」


リリックは涙目で、ベッドに臥しています。

ゼイファーに至っては白目をむいて意識がないようです。


船員によれば、もう少しで着くとのことでしたが、船酔いに加え魔物退治もして二人の体力も限界のようで。

変態とはいえ私の仲間ですから、仕方なし看病をしています。


「大丈夫ですか?・・・あなた達にも弱いところがあったんですね・・・」


「・・・うう・・せっかくグリモアに看病してもらっているのに・・・その余韻に浸れないほど気持ちが悪いのが悔やまれるところ・・・」


「大人しく寝ていてください」


船酔いで体力が削られているのに、そんな事が言えるのはまだ余裕があるという事でしょう。

看病して損した、とは言いませんが、こんな時くらいはありがとうで済ましてもらいたいところです。




陸が近付いてきたのか、波も大分収まってきました。

船酔い二人を部屋に残し、甲板へと出ます。


霧が少し立ち込める中、うっすらと陸が見えています。どうやらそこが到着地。


「陸が見えてきましたよ!さあいつまでも寝ていないで降りる準備です!!」


未だ船酔いでグロッキー状態の二人を叩き起こしました。


「お・・・鬼だ・・。鬼がここにいる・・・」


「なんでグリモアは平気なんですか・・・・うっぷ」


「気合です!!気合が足りない!!!降りれば治る!負けんなよ、船酔いに負けんな!!」


さながら熱血テニスプレーヤーのような言葉をかけ、無理やり準備をさせました。





ウエンディ王国、港町リィム。


空はあいにく灰色のどんより曇り空。

魔物に強く船酔いに弱い男達は、よたよたしながら船から下りてきました。


「ようやく陸に立つ事ができた・・・。もう船は勘弁です・・・」


「もう吐くもんねえぞ・・・。胃の中スッカラカンだぞ・・・」


男達の回復の為に、宿屋へと向かいました。

宿屋に着くなり、ベッドに臥してしまう2人。


仕方なく私1人で町を探索してみる事にします。


町は賑わう事もなく、人気もまばら。

屋台の食材もあまり新鮮さを感じない物ばかりです。


「まだ昼だってのに、この静けさ。どういう事?」


疑問に思いながら辺りをきょろきょろと見回すと、酒場を発見しました。

昼でも営業はしているようです。

何か情報はないかと、その酒場の扉を開けてみました。


おっと、未成年です。

あらかじめ言っておきますが、お酒は飲みませんよ。


「・・・らっしゃい」


中に入ると、表情の暗い店主らしき男が一人。

他にお客と言える人は誰もいませんでした。


「あっ・・・と、いいですか?未成年でも」


「・・・水しか出せねえぞ?しかも金をとる」


「そうですか。では何もなしで」


「帰れ」


その男は軽く舌打ちをして、犬を追い払うように手を振り私を追い出そうとしました。

なんだよ、話しすら聞いてくれないのか!


「・・・水はいくらですか?」


仕方なしに聞くと、片手を広げます。


高っ!!ただの水なのにたっかっ!!


とも思いながら、情報を貰う為です。情報量だと思ってここは払いましょう・・・。


「ほらよ、水だ。本来ならな水に金なんか取らねえんだが、今は緊急事態なんだ。この町では今水が貴重品でよ」


そう言って雑に置かれたコップ。

貴重品って言ってる割には周りに少し零れてますけど・・・。


「ではありがたく頂きますが、・・・しかし水が貴重品とは?」


「魔物がこの町に流れる川の上流を堰き止めているのか、先月から干上がっちまった。海水はたんまりあるが飲むことは出来ねぇ。お陰で雨水しかこの町では水を入手する事が出来ねぇんだ。この国の兵士たちがその魔物を退治しに川の上流に向かったが一向に帰ってこねえし」


「魔物・・・!」


「そう。今までは平和だったんだがな、いきなり魔物の力が強くなってよ。あんだけ賑わっていた町も寂れていくばかりで、どうなるんだろうな、もう終わりかな、この町は」


はぁ、とその男は大きなため息をつきました。


海をひとつ越えただけなのに、こんなに魔王の影響が違うなんて。

この町がこんな状態じゃ、いずれ私のいる国も同じように魔王の力でいいようにされてしまう。

それに、勇者とあろう者が困っている人を見捨てる事なんて出来ない。


これは早々に何とかしなくては・・・!


コップの水をぐいっと飲み干し、席から立ち上がります。


「貴重な情報をありがとうございました。実は私は魔王を倒すべく旅をしている勇者です。この町がそんな危機的状況とあれば、その魔物退治引き受けましょう」


「な、お前が勇者だって!?」


「はい。勇者です」


男は私を上から下まで怪訝そうな表情を浮かべながら、まじまじと眺めていました。


「こんな弱っちそうな小娘が勇者って、・・・世も末だ」


「安心して下さい、戦うのは私ではありませんから。私には優秀なへんた・・・いや、仲間がおりますので、そんな魔物など、その仲間が魔法でちょちょいとやっつけてしまいます」


「戦わねえのかよ!」


「戦いませんよ。私は主に拾う専門ですから。ですが次に私がここに来る時は、きっとこの町は元通りになっている事でしょう。大丈夫です、私を信じて!」


「あんまり期待は出来そうにないが・・・、今はそんな事を言ってる場合じゃねぇか。この町の為に、やってくれるか、小娘勇者」


「お任せください!その代わり退治出来た時には最高のノンアルカクテルをお願いします!タダで!」



と、言うわけで、安易に引き受けました、この魔物退治。

そうとなれば、早く宿屋へと戻らなくては!



「・・・で、川の上流へと向かうことになった訳ですか」


ようやく船酔いから回復したリリックが、あきれた表情で見ています。

ゼイファーは未だ回復せず床に伏せておりました。

ガタイがいいくせに、よわっちい奴め。


「ですよ。何か問題でも?」


「こちらは寄り道しないで、さっさと魔王を倒してあなたといちゃらぶしたいんですがね。どうしてこう安請け合いするのか全く・・・」


「その話を聞いたらなおさら寄り道したくなりました。行きますよ、上流へ!!」


こうして、私達は魔物退治へと向かうことになったのでした。

船酔いはきついよね。

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