勇者、必殺技をマスターする。
リリックは不機嫌です。
むすくれて歩いています。
外はこんなにいい天気なのに、リリックの周りだけ嵐が吹き荒れそうなくらい不機嫌。
その横にはヘビースモーカーなゼイファー。これで何本目なんでしょうか。
そしてなぜか気まずい私。
なぜか横一列で歩いています。決してラインダンスではありません。
どうやら次の町に行くには、この先にある山を越えなければいけないそうです。
初の山登り。ドキドキしますね。
「なあ、いつまでそうやってむすくれてんだ?ムッツリよ」
ゼイファーはリリックの事をムッツリと呼ぶようになりました。
その呼び方もきっと不機嫌の理由のひとつなのでしょう。
仕方ありません。やらしい事を考えていた罰です。
女性に人気だなんて笑えますね。ただのエロガッパなのに。
「ムッツリではありません、リリックです。ちゃんと名前がありますから。大体なんで私とグリモアの間にあなたがいるんですか。少しは遠慮して下さいよ」
「お前がスケベな事考えてるから、グリモアが隣にいるのが嫌なんだってよ。そんな綺麗な顔してて頭で考えてる事はえげつないよなぁ!はははっ!!」
「そういうあなたは考えないんですか?」
「俺は考える前に行動しちまうからな。そんな妄想はしないぜ」
・・・・仲間にしたの失敗した。
ますます危険人物じゃないか。
ゼイファーの隣にいるのも嫌になり、すすすっとエロガッパ達の後ろへ回りました。
これなら何かあってもすぐ逃げられる・・・・はず。
「どうした、グリモア」
「いきなり襲われるのは嫌なんで後ろにいます」
「がはは!大丈夫だって。襲わねえよ、今はな!」
・・・ああ、もう。
どうするのよ、この先の旅・・・。
魔王うんぬんより、自分の貞操を守るだけで大変になるんじゃないの?
これならまだムッツリスケベの方が・・・・・いや、それも気持ち悪い。
いずれにせよ先が思いやられる・・・。
二人を警戒しながら歩いていると、いきなり空から剃刀の刃のようなものが投げられます。
「あぶねっ!!!!」
ゼイファーは咄嗟に自分の金槌でその刃を受け止めました。
キン!!と高い音がしたと共に、その刃はゼイファーの足元に落ちます。
「誰だ!!」
そうゼイファーが叫ぶと、目の前の空間の一部がぐにゃりと歪み、人影が現れました。
二人は戦闘体制に入ります。私も慌てて自分の身を守る姿勢に入りました。
「あたんなかったぁ、残念。せっかく昨日しっかり刃を研いだのにぃ」
歪みが元通りになると、その人影がしっかりとした人間の姿になりました。
そこに現れたのは、一人の女。
くるくるカールの茶髪をツインテールにして、じゃらじゃらと派手なアクセサリーがついています。
小麦色の肌に濃い青のアイシャドウ、少し釣り目に引いたアイライン。そしてばさばさのつけまつげ。
胸を強調した派手な服に、見えそうなミニスカート。
爪はペンが持てそうにないくらい長く、デコレーションされていて・・・・。
・・・ギャルだ。
一昔前のギャルがいる。
「誰ですか、あなたは」
目の前の派手ギャルを睨みながらリリックは話しかけます。
「あたしぃ?あたしは魔王様の手下でいずれ彼女になる予定のメサイヤ。よろしくねぇ。ようやく勇者が動き出したって聞いたから様子を見に来たのよぉ」
ガムクチャしながら長い爪を唇に当ててまじまじと私達を見ています。
「やだぁ、ブスな女の癖にイケメン蔓延らせてムカつくー。この女勇者弱いくせになんかいいテクニックでも持ってるわけぇ?それとも貢いで付いて来て貰ってんのぉ?」
・・・ブスですか。
久々にダイレクトに言われた気がします。
自覚はありますが、少しムカつきますね。
「待ちなさいガングロギャル(古)!グリモアは地味で冴えないかも知れないですが、そこに魅力があるんです!決してブスではありませんよ!!訂正してください!!」
私が言い返そうとした瞬間に、リリックが声高らかにメサイヤに向かって叫びました。
が。
内容が酷くないか!?
地味で冴えないだと・・・!?
それがリリックの本音か!!
「そうだぜ、エロ姉ちゃん。こいつぁ素朴で田舎くさい所がたまんねぇ。俺色に染められる無垢な所が魅力の一つだ。ああ、早く調教してみたいぜ。お前みたいにすぐ手に入り易いやつは俺は御免だね」
続いてゼイファーのセクハラ発言!
調教だと!?アブノーマル過ぎるじゃないか!!
私は心にダメージを受けました。
ダメだ。こいつらシバきたい!今すぐに!!!
「女のセンスがないメンズたち、マジでキモいんですけどぉ!ムカつくから死んでくんない!?」
メサイヤの濃いメイク顔が醜い表情に変わり、手を上にかざし呪文を唱えました。
轟音と共に私達に向かって炎の刃が勢いよく飛んできます。
私は更に身を固くして縮こまります!
「バリア!!!跳ね返れ!!!」
リリックも杖を前に出し、魔法を唱えました。
私達の周りに光る膜ができ、飛んできた刃を跳ね返します。
跳ね返された刃は四方に飛び散りました。
少しの沈黙のあと、メサイヤはニヤッと笑みを浮かべました。
「・・・へぇ、やるじゃん。ムカつくけど。魔王様に報告しとくわぁ。これからが楽しみねぇ」
噛んでいたガムをぺっと吐き出すと、ぶわりと風が舞いメサイヤの姿がその場から消えます。
ガムは紙に包んでゴミ箱へ!と言いたかったのですが。次回会った時に注意しましょう。
それにしても私をフォローする為とはいえ、返した本音が酷すぎます。
こいつらに何かお見舞いしないと私の気が治まりません。
仕方ありません、アレを使いますか。密かに練習していたアレを。
「なんて女ですか・・・。汚らわしい・・・」
「あれは見るからにビッ○だな。俺のタイプじゃあねえな」
私は手に思い切り力を溜め、そして二人に声を掛けます。
「おまえら・・・」
私の低い声に、二人は振り向きました。
「ん?どうしまし・・・・ぶげへぇ!!!!」
「なんだ!?なにぐほあごっ!!!!」
「必殺!掌底!!!!」
怒りに任せた掌底を二人に浴びせます!!!
「アホ共がっ!!おまえらの本音は良くわかった!!!地味で冴えなくて素朴で田舎くさい女で悪うござんした!おまえらは敵じゃ!」
怒りの表情で立つ私の足元で顎を押さえ涙目で倒れている二人。
その無様な姿に少し心が晴れました。
私は必殺技「しょうてい」をマスターしました。
次はボディスプラッシュを習得予定