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勇者、食べ物に執着する。

「おい、聞いたか?ようやく勇者が最初の町を出て、この町に来たらしいぞ」


「へえ、いつ来るんだろうと思って賭けしてたんだがな、外れちまった。来ないと思ってたぜ」


「ここまで来れたってことは少し力をつけてきたってことだろ?」


「・・・おもしろい。少しお手並み拝見といくか?」







森を抜けて、そこから更に2日かけてだだっ広い草原を歩き続け、ようやく次の町「エル」へと着きました。

初めての野宿も経験しました。持ってきた食料が役に立ちましたね。

リリックはテントを出せる魔法が使えたので、快適な野宿をすることが出来ました。

「一緒に寝ましょうか?」という末恐ろしい言葉には完全スルーを決めましたよ。

問答無用でテントの入り口を閉めました。そのあともう一つテントを出して寝ていたみたいです。


「着きました、ここがエルの町です。今日はここの宿で休みましょう。久しぶりに布団で寝られますね」

リリックは身体をのびーっとさせています。

どうやら野宿はあまりした事がないようで身体が痛そうです。

私は家でも煎餅布団でしたからね、実はテントの方が快適だったりして。


「リリックが敵を倒しまくってくれたお陰でお金もたんまりとありますから、豪遊できますよ」

じゃらり、と袋に入ったお金を鳴らします。こんなにお金を持つのは初めての経験です。

「じゃあ、グリモアの武器と防具を買いましょう。こんなのではこれから先も敵に勝つことは出来ませんよ?」

「いいんですか?」

「ええ。私が見立ててあげますよ。こう見えても昔は戦士希望でしたからね」


意外な過去です。

だから草刈が上手かったのですね!


そんなわけで武器屋と防具屋へと向かいました。

リリックのアドバイスを聞き、錆びた剣は少し軽めの鋼の剣に、皮の胸当ても銅の胸当てへと変わりました。

不思議なものです。装備を変えただけで少し強くなったような気がします。


「剣はしっかり手入れをしておかないとすぐ斬れなくなるので、ちゃんとやりましょうね?」

「え!?そうなんですか!?」

「・・・そんなことも知らなかったの?」


リリックは呆れた顔で見ていました。

仕方ないでしょう。勇者と言われるまではただのそこらにいる人だったわけですから。

とはいえ今まで敵に勝てないのもなんとなくわかりました。

武器も良くなかったのですね。もちろん自分が弱いこともありますけど。




その後宿屋へと行き、部屋をひとつと言いかけたリリックを押しのけ、部屋を2つ用意してもらいそれぞれ部屋に入ります。

部屋の中はちょっとした棚とベッドしかないシンプルな部屋でしたが、問題ありません。

いやむしろベッドがふかふかで幸せです。

今日は(も)いい夢が見れそう。

ああ、お金があるって素晴らしいですね!


「グリモア、食事に行きましょうか」

扉の向こうからリリックの声が聞こえます。

そう言えば今日は朝から何も食べていませんでした。

布団から離れるのは少し名残惜しいですが、たんまりとご飯を食べてからこの布団でぬくぬくとする方がよりいい夢が見れそうです。

リリックの言葉に従って部屋を出ました。


町には沢山の屋台が並び、それぞれ美味しそうな匂いがしています。

町の中心には噴水があり、その前にはいくつか椅子とテーブルが用意されていました。

買ったものをそこで食べられるようにでしょう。

リリックとはそこで落ち合うようにし、それぞれ食べたいものを探しに行くことにしました。


空腹というものは恐ろしいものです。

加えて貧乏だったためにあまり食事も満足に取れていなかったからか、匂いと見た目に誘惑されて、気がつけば手当たり次第買ってました。


「グリモア遅かったで・・・って何その量・・・」

両手には溢れんばかりの食べ物。ついでに口の中にも入っています。

「ひやはや、ひょっほかいふぎまふぃた(いやはや、ちょっと買いすぎました)」

驚いて固まるリリックをよそに、どさりとテーブルに買ったものを置き食事を続けます。

リリックは肉と野菜が挟まったパンに、コーヒーという洒落たものでした。

「足りないなら食べていいですよ」

「あ、いいです。私は大丈夫」

そうですか。では遠慮なく頂きます。


久しぶりの厚く切った肉。

久しぶりの焼きたてパン。

久しぶりの実沢山スープ。

なんて美味しいのでしょう!!涙が出そうです!

やっぱりお金があるって素晴らしい!!!


「グリモアって・・・、その、結構食べるんですね・・・」

がっついて食べる私を、少し困惑した表情で見ていました。

幻滅しましたか?これが本当の私ですよ?

「ええ。食べることが好きなんで。嫌いになりました?それなら嬉しいんですけど」

「いや・・・。むしろ新鮮。私の前でそんな風に食べる女いなかったので」

「・・ちっ、幻滅したかと思ったのに」

ついつい舌打ちまで出てしまいました。いけません、はしたない。


そんな感じで食事をしていると、いきなり少し厳つい男達に絡まれました。

厳つい男は3人。いかにもな格好です。

「おお、見かけない顔だなぁ?お前ここのモンじゃあねぇな?」

主に絡まれているのはリリックです。怖いので目を合わせないようにしましょう。

「ちょっといいモン着てんじゃねえか。お前が噂の勇者か?なかなかルーンから来ねえと思ったら、あれか?女と遊んでて忙しかったのか?」

どうやらリリックを勇者だと思っているようですね。面倒臭いことには関わりたくないのでそのままにしておきましょう。


「・・・なんですか?あなた達は。関係ないでしょう」

リリックの表情が一瞬で変わります。見たことのない怖い顔です!

「ああ?何だテメェ・・・。やんぞゴルァ」

ガツン!とテーブルの脚を蹴られ、空に舞う食べ物。・・・ああ!!!私の大事な食料が!!!

慌てて私はひろいに立ち上がりました。


キャッチしなくては!

そう、私は「ひろう」を習得したのだ!!

落ちたとしても私には3秒ルールがあるっっっ・・・!!



「・・・後悔しますよ?」

私が食料を受け止めようと必死になっている頃、ニヤリとリリックは笑みを浮かべ、横にいた男一人(Aとしましょう)の腹に思いっきりパンチを食らわしました。


「グホアェ!!」

変な声と共に噴水の中へ勢いよく落ちる厳つい男A。


「やりやがったなてめぇ!殺す!!」

男Bはナイフを取り出し、リリックに向かって行きました。

それを上手く交わし、今度は蹴りを腹に一発。

ついでにその光景に少したじろんでいた男Cにも、そのまま回し蹴りを食らわします。


私が食料をひろい終えた頃には、全てが片付いていたのでした。


「・・・弱い。相手になりませんね」


パンパンと手の埃を落とし、倒れた男達を見下ろすリリック。

まさか武道まで習得していたとは。

もう勝てる相手なんていないのでは?


「凄い・・・。私が食料をひろっている間に・・・」

「こんな時に食料に執着するグリモアも凄いですけどね・・・。拾えましたか?」

「なんとか。3秒ルール使いましたから・・・」

「なんですか・・・3秒ルールって・・・」


3秒ルールの言葉に少し呆れた表情を浮かべるリリックでしたが、3秒ルールは大事なのです。

その3秒が食べられるか食べられなくなるかの境なのです。非常に大事なのです!




「お前、凄いな。コイツらを一瞬で倒すなんてな。さすが勇者だ」



私が3秒ルールについて熱く語っていると、背後から聞こえる低くしゃがれた声。

二人でその声の方を振り向くと、そこには一人の男が立っていました。


10秒ルールは甘え

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