勇者、とくぎを習得する。
いよいよ旅立ちです。
シンプルな黒のワンピースに皮の胸当て。少し錆びた剣を腰に付け装備は完了です。
なんせお金がないのでこんなものしか持てません。
いつもやられるのが定番でしたから、あまり荷物は持っていきませんでしたが、今回はきっとこの町から出られると思うので、最低限の着替えと少しの食料を持っていきましょう。
それらを入れた袋を肩からかけて完成です。
「・・・準備できました・・・」
正直全く乗り気はしませんよ。強いけど変な人と一緒なんですから。
非常に不服です。出来れば行きたくないです。
「できましたか。では行きましょう」
目の前のリリックは満面の笑みで待っていました。
相変わらず笑顔の爽やかなこと。私には悪魔の微笑みにしか見えませんが。
「あ、そうです。教会のツケですけど、私払っておきましたから」
「・・・は?」
「私に借りが出来ましたね。これでますます逃げられませんね」
・・・余計なことを。
勝手に借りを作らないで欲しい。後々が怖いじゃないの。
「なぜそこまでしてくれるんですか。たかだか私のために」
「なぜって。君のことが好きだからですよ。簡単な理由だよね」
私の顔が赤くなるのがわかります。思わず俯いてしまいました。
まあよくもそんなことをいけしゃーしゃーと言えるもんですね。
慣れていない私には、刺激が強すぎますよ。
「さあ、旅立ちですよ!いざ行かん、魔王討伐の旅へ!!」
町の出入りの門に向かって歩いていると、どこからともなく女性達が集まってきて、リリックは囲まれてしまいました。どうやら女性達は私が見えていないのでしょう。蚊帳の外です。
仕方ありませんね、先に行ってますか。
「きゃあ!リリック様!どこに行かれるんですかぁ!?」
「魔王討伐の旅だよ。勇者と共に旅をしてくるね」
「やだぁ!行かないでーー!!」
「私も一緒に行きますわ!連れて行ってー!!」
きゃあきゃあと言う女性たちの声。先に歩く私にも五月蝿いくらい聞こえてきます。
リリックは爽やかに笑顔を振りまき女性達を上手く交わしながら、先に歩く私を追いかけてきました。
「酷いね、先に行くなんてさ」
「なんか楽しそうなんで、邪魔者は先に行きました」
「邪魔者はあいつらの方さ。ホント、五月蝿いよね。あの高い声がキンキンと頭に響いて、物凄く気分悪いよ」
あらあらさっきとは打って変わってのその表情。笑顔がなくなってますよ。
余程迷惑だったのですね。モテる人も大変です。
さて、町を出て最初の森へとやってきました。
ここを通らなければ、この旅は始まったとは言えないのです。
つまり、私はこの森でいつもやられていたって訳で。
今回はリリックが仲間にいますが、やはりこの森にくると少し物怖じしてしまいます。
ごくりと息を呑みました。
「どうしたの?緊張してるの?」
「そりゃあ、いつもここでやられてましたからね」
「どこで?」
「入り口付近ですよ。毎回です。奥まで行ったことないんです」
私の言葉にリリックは苦笑いをしていました。
だってしょうがないでしょう!
入り口付近にいるゴブリンが強すぎるんですよ!(私基準)
剣をふっても当たらないし、反対に噛まれまくるし!石投げてくるし!
案の定森へ入ると、早速ゴブリン登場です。
「グギャァ!・・・プギャー!!!」
私の顔を見て笑っているようですね。完全にバカにされています。
「また懲りずに来たのかこの雑魚女」と聞こえます。
こいつに何回やられたんでしょう。数えられないくらいですか。そりゃ借金も増えますわ。
「プギャプギャブ~!!!」
腹を抱えて笑っているゴブリンをイライラしながら見ていると、いきなり風を切るような音が聞こえました。
「え?」
バコーン!!!
どうやら思いっきりフルスイングしたようです。
リリックの武器である杖に当たり、ゴブリンは飛んでいきました。・・・・・空の彼方へ。
「あんな雑魚敵、魔法を使うのももったいないですね。さようなら、ゴブリン。永遠に」
リリックの決めポーズ、決まってます。
・・・強い。強すぎる。
杖一振りでゴブリンを倒してしまうなんて。
私は思わず拍手をしてしまいました。
「おおおー!すごーい!」
「このくらい朝飯前ですよ。・・・・もしかしてグリモアはあんなのにやられまくってたんですか?」
「・・・・それを言わないで下さい」
痛いところを突かれてしまいました。リリックは相変わらず苦笑いをしています。
その後、リリックを先頭に森の中をずんずんと進んでいきます。
向かってくる敵を左右に杖を振り回してなぎ倒していくリリック。
まるで草刈をしているようです。
道の脇には倒された敵たち。
私は倒した敵からせっせとお金やアイテムを回収していきます。
こんなことならエコバックでも持ってくれば良かった。
私の袋はパンパンになりました。
私は「ひろう」を習得しました。
草刈は手で刈るのがオツ。