勇者、変な人を仲間にする。
・・・悩んでいます。
非常に悩んでいます。
こんなに悩むのは初めてです。
リリックはあの後、「3日後に結論を聞くから考えておいてね」と言って屋敷へと帰ってしまいました。
取り残された私は、ボーっとした頭の中バイトを終え、家へと帰ってきた訳ですが。
結婚。
リリックと結婚ですか。
・・・なぜ!?
助けてくれるだけでいいじゃないの。
リリックはモテるじゃない!
わざわざなんも取り柄のない、しかも借金持ちの私と結婚って!
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
大きなため息と共に、薄い布団へダイブします。
案の定ゴチン、と頭を打ち鈍い痛みが広がるけど、全く気にならないくらい私は悩んでいました。
正直リリックのことはあまり知らないんですよね。イケメン、優秀、人気がある、くらいしか。
そりゃああんなカッコいい人にそう言われて悪い気はしませんよ?
ついにこんな私でもモテ期が来ちゃった?なんて錯覚しちゃいそうです。
でも、結婚は一生ものですから。
出来ればちゃんと順序を踏みたいのです。
それなりに恋愛をしたいのです。
それをいきなり倒したら結婚だなんて、ねえ・・・。
世界を守るか、私を守るか。
どうしたらいいんでしょう・・・。
3日後。
私の家までリリックはやってきました。
朝一でですよ?信じられますか?まだ寝てたんですよ?
「じゃあ行きましょうか」
扉を開けて言われた第一声です。
私は目を開けて固まってしまいました。
目の前のリリックは、それはもう素晴らしいくらい、晴れやかな笑顔で立っています。
「いやあの・・・まだ決めかねてますけど・・・」
なんとか自分の意識を取り戻して、私は答えます。
というか。
寝てたもんだから、薄い服(染み付き)上下1枚だし!髪の毛ボサボサだし!ついでに顔も洗ってないし!
朝一で来ないでいただきたい!
出来れば来る前に連絡を下さい!
「ええ!?もう答えは行くで決まりじゃないの?普通はそう考えるでしょう。だって私と結婚出来て、魔王も倒せるんだよ?」
・・・なんなんですか?その自信満々な発言は。
まるでリリックの周りにいる女は、皆結婚を望んでいる的な。
「・・・いや別にあなたとは結婚したいと思わないので」
「は!?この私と結婚したくない!?どうして?こんなにカッコ良くて性格もパーフェクト、おまけに魔術の力もトップクラスな、SSランクの男と結婚したくないって言うの!?」
私の顔が大きく引きつります。
・・・開けたドアを閉めたい。
ノブを掴む手が強くなりました。
駄目だコイツ。変な人だ。何かをこじらせている。
「・・・あなたと結婚するくらいなら、こんな世界滅んでもいいです・・・」
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待て!!」
勢いよくドアを閉めようとしました。
が、足で阻止されてしまいました。
「足!外して下さい!無理です!!本当無理!!変な人とは結婚したくないんで!!」
「いやいや!魔王倒しに行こう?ね?一緒にさ!」
「もう一人で行ってくださいよ!さっさと倒して、結婚したいって言ってくる、他の女の人と結婚して下さいって!何も私じゃなくてもいいじゃないですか!」
家の入り口での押し問答。
早い時間帯ですから、近くの人はさぞかし迷惑したでしょうね。
でもそんな事も気にせず、私はこのドアを閉めようと必死でした。
「それじゃ駄目なんだって!私はグリモアがいいの!グリモアと結婚したいんだよ!!」
「嫌だぁ!変な人無理ー!!もっと普通の人がいいですーーー!!!」
埒が明かないと思ったのでしょうか。いきなりリリックは「ふん!!」と気合を入れると、思いっきりドアを引っ張りました。
バキッ!!
と大きな音を立てて、ドアは外れ飛んで行きます。・・・・・・空の彼方へ。
「・・・マジ?」
私は消えてゆくドアを見つめながら、固まってしまいました。
「・・・加えて怪力なんですよね、私は」
指を鳴らして、リリックは何事もなかったかのように笑顔で立っていました。
しかしニッコリと笑って言ってますけどね・・・。怪力ってレベルじゃないでしょうが。
変な人との隔たりがなくなり、私はものすごーくあせっています。
やばいです。絶体絶命。
雑魚敵すら倒せないんですから。しかも装備なしですから。
戦いを挑もうにも一瞬でやられますよ、これは。
逃げようにも、家の中にしか逃げられません。
「・・・行きましょうか、勇者様」
追い詰められました。笑顔の裏に隠れる狂気の威圧が怖いです。
助けて下さい。
「行きましょう?ゆ う しゃ さ ま?」
ぐいぐいと近くに来られ、私は仰け反りましたが。
あああああ!!
顔が近い!顔が!!
仰け反ろうにも限界です!もう無理!!!
「・・・は、はい・・・」
言ってはいけない言葉を言ってしまいました。
・・・・もうこう言うしかなかったんです。
リリックの威圧が凄すぎて。
「決まりですね。約束ですよ?倒して帰ってきたら夫婦になりましょうね」
私はその場でへたり込んでしまいました。
・・・出来ることならこれが夢であればいいのですが。
どうやら、夢じゃないようです。
こうして心強い?仲間を手に入れ(というか脅されて仲間にさせられ)、ようやく魔王討伐への旅をすることが出来そうなのですが。
私にとっては魔王よりも怖い存在でした・・・。
意識高い系のチート