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勇者、新たなる危機に見舞われる。

その部屋は驚くくらいのファンシーでポップなお部屋でした。


ピンクを基調とした壁紙に、リボンやハートの飾りが散りばめられ、そこら中におかれたふわふわのぬいぐるみ達に、これまたお姫様のような天蓋付きベッド。白いチェストにも可愛い雑貨が置かれていて・・・。


「・・・随分と可愛いお部屋ですね」

「ええ。ヴィシュア様は外見に似合わずファンシーなものがお好きで、ずっと集めていたのですよ。生きていた頃はこの建物の中がぬいぐるみで溢れていました。さすがにもうこの部屋以外に置かれていたものは片付けましたが」

「・・・外見に似合わず?」

「ああ、そう言えば言い忘れてましたね。ヴィシュア様は男です」


そう言われた瞬間に、私とゼイファーは固まりました。


「お、男・・・」

「ま、まあ好みは人それぞれだから・・・」


困惑する私達をよそに、ミンディーア様は白いチェストからごそごそとあるものを取り出します。

そして、私達の前にそれを差し出しました。


それは美しい装飾が周りに施されたペンダントでした。

中心には紫色の石が埋め込まれており、怪しく光っています。


「綺麗なペンダントですね。・・・やけに大きいですが。こぶし大くらいありますけど」

「そのペンダントを魔王の前でかざす事で、紫色に輝く石の中に魔王を封印する事が出来ます。・・・大きいのは仕方ありません。魔王を封印するためにはそのくらいの大きさがないと出来ないのですよ」


そう言ってその大きなペンダントを私の首にかけてくれたのですが、掛けてもらった瞬間、首に予想以上のずしっとした重さがのしかかり、思わず前によろけてしまいます。


「お、おもっ!!」

「5キロほどありますかね。首を鍛えるには最適ですよ」


ニコリと微笑みながらミンディーア様はそう言いますが、いやしかしこの重さ。

こんな重いものをペンダントにするな!!


「・・・外していいですか」

「首にかけていた方が無くさないと思いますが・・・。ヴィシュア様はずっと首にかけておりましたよ?」


・・・いやいや。

それはヴィシュア様が男だからでしょうが。


「・・・鍛えていたんですか?」

「ムキムキでしたからね。筋肉。常にトレーニングをかかしませんでした」


筋肉ムキムキの、ファンシー好き・・・。


想像したくないのに、ぼわわ、と頭の中には筋肉隆々の男がピンクの部屋でもふもふのぬいぐるみを抱いてキャッキャウフフしている姿が。


「あ、アハハ・・・」


私達は乾いた笑いしか出ませんでした。


「・・・では勇者様にお渡し出来ましたので、私もこれでようやく安らぎの地へと向かう事が出来ます。勇者さま、どうかこの世界を平和に導いて下さいませ。人々が安心して暮らしていけるような、そんな世界にしてくれる事を祈っております」

「分かりました。私は戦えませんが、この二人が何とかしてくれるでしょう」

「・・・それを聞いて安心しました。それでは、皆さんアディオス・・・」

「おい!安心するな!!どこに安心する要素があるんだよ!!」


ゼイファーのツッコミ虚しく、リリックの身体から白い靄が上へと昇り、リリックは白目を向いてその場に倒れます。

どうやらその白い靄はミンディーア様。

ピンクの天井を突き抜け、天へと昇っていったようでした。


「・・・行かれたのね」

「お前さ、もう少し自分で努力しようとは思わないのか?」

「努力はしてますよ。現に『ひろう』と『まもる』のスキルアップをしているじゃないですか」

「出来れば『たたかう』のスキルを覚えて欲しいね・・・」


そんな話をしていると、白目を向き倒れていたリリックの黒目が真ん中に戻り、ビクッと身体を大きく跳ねらせ勢いよく上半身を起こします。

黒目の戻った目を大きく開いて辺りをキョロキョロと見回して、ここはどこだ、と小さな声で呟いておりました。


「意識が戻ったのね、リリック」

「なんですかこのピンクな部屋は・・・」

「お前、今までここの守り人に身体を乗っ取られていたんだ。もしかしてその時の記憶が全くないのか?」

「身体を・・・!?まさか、こんな魔力の強い私に乗り移るなんて・・・」


リリックは信じられないと困惑しておりましたが、乗っ取られたのは魔力云々ではなく、頭の中の煩悩云々であると言おうか迷っている私です。

そんでもって、どれだけ普段下衆な妄想しているのか問い詰めてやりたいところ。場合によっては制裁も辞さない勢い。


・・・しかし、このペンダント重いったらありゃしない。

鎖が首の皮に食い込んで、やたらと痛い。


「リリック、あなたの身体に乗り移ったのは、私達よりも煩悩が凄いからだそうですよ。・・・とこのネックレスあなたが付けておいて下さい。重くて私には無理です」


首が痛くてついリリックに言ってしまいました。

煩悩が多いと言われ図星だったのか、顔を赤らめて慌てるリリックに、5キロのペンダントを掛けてあげました。

いきなり重いネックレスを掛けられたリリックもまた、前に身体が倒れてしまいます。


「な、・・・重い!!」

「それ、魔王を封印するために必要なものですから、絶対!外さないで下さいね。それ付けていたら重くて変な妄想もしなくなるでしょう?」

「へ、変な妄想だなんて!私はグリモアとの未来の設計図を・・・!」

「だからそれが変な妄想だって言ってるんです!!」


未来の設計図ってなんだ!

私はリリックと結婚なんて絶対しないんだから!!

こんなのと結婚なんてしたら、毎日身の毛もよだつ様なアレコレをされそうで怖いわ!


「妄想抑制ペンダントか、こりゃいい装備だな!いいかムッツリ、絶対にそれを外すなよ?」

「ええ~・・・」


こうしてペンダントを手に入れた私達は、この遺跡を後にしました。

リリックはペンダントの重さで首が痛いのか、首をさすりながら何回か外そうとしておりましたが、その都度私達の鋭い睨みを受けて、外すのを断念。


「煩悩を無くす修行だと思って、掛けていて下さいね」

「うわあ・・・グリモア鬼畜・・・」



・・・さて。

また魔王のいる城へと向けて、北へ北へと歩みを進める私達。

敵をなぎ倒しながら、ひたすらに歩いて行きます。


やがて、遠くの方に大きな街らしきものが見えました。

どうやらその街は高い塀で囲まれた要塞のようになっていました。


「街だ・・・」

「ようやく一息つけますね」


街が遠くに見えた事で、ゼイファーとリリックは少しホッとしたような表情を浮かべました。

まあ、無理はないです。なんせ、今の今まで敵を倒してきたのはこの二人。体力の消耗は私以上に激しいものでしょう。

私もまた街で美味しいものをたらふく食べられる!なんて、呑気な事を考えていました。


―――その時です。


街に向かおうとしていた私達の前に、立ちはだかる人間。

それは、あの一昔前のギャルでした。


「・・・待ってたわよぉ、お三人方。いつまで経っても来ないから死んだかと思ったじゃない」

「メサイヤ・・・!!」


いきなりの強敵出現に、リリックとゼイファーは武器を構えます。

私もまた、二人の後ろに隠れて守りの体制を取りました。


「何しに現れた!?」

「うーん、そうねぇ。ここでアンタ達の命を奪ってもいいんだけどぉ、それよりもこの地味な女がイケメンはべらせて旅してるってのがどうしても許せないのよぉ。だから・・・」


メサイヤはそう言うと、手を前にかざして何か呪文を唱えます。

するとあの大きなゼイファーの身体が宙に浮き始めました。


「ゼイファー!!」

「な、なんだこりゃ・・・!か、身体が動かねえ!!」


宙で何とか身体を動かそうと悶えるゼイファーを見ながら、メサイヤはにやっと怪しげな笑みを浮かべます。


「とりあえず、こっちのガテン系のイケメン、拉致っていくわねぇ。助けたければ二人で魔王様の城へ来るといいわ。じゃあね」


そう言って、ゼイファーとメサイヤは私達の目の前で、閃光を散りばめながら消えていきました。


「消えた・・・」

「ちょ、ちょっとゼイファーが連れ去られるなんて・・・!!」


残された私達。

私の額からは、嫌な汗がたらりと流れました。


その時の私は、ゼイファーが連れ去られたことよりも、リリックと二人きりになってしまった、ということに危機を感じていたのでした・・・。


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