勇者、達はある建物を見つける。
持っていた薬草は半分ほどに減りました。
傷に直接貼り付け、嫌がるリリックの身体を羽交い絞めにして無理矢理食わせ、なんとか血も止まって回復しているようです。
当のリリックはとても不機嫌顔でした。
そして、そんなリリックをニヤニヤしながら見るゼイファーの後ろに隠れ、警戒する私。
いやはや非常に危ない所でした。私のお初が奪われてしまう所でした。
まさかあんな場所で、あんなお下劣な行動をするとは思いませんでしたよ。
ゼイファーもお下劣の極みですが、今回ばかりは感謝せずにはいられません。
こう、若いと言うのはたまに暴走してしまうものなんですね。理性よりも本能が先走ってしまって獣と化す、と。ある意味魔王よりも怖い存在なんじゃないか、って思ってしまいます。
って、私も十分若いんですけどね・・・。どうも考え方が年寄り臭くてかないません。
「しかし、ムッツリよ。お前の頭の中煩悩でいっぱいいっぱいなんじゃないか?さすがの俺でも引くぞ」
「うっ、うるさいっ!そういうあなただって色々考えるでしょうが!」
「考える事は考えても、まさかあんな状態でムラっとはこないわー。さすがにないわー」
ゼイファーは馬鹿にした口調でそう話します。
リリックは顔を赤くして怒っていましたが、何も言う事が出来ません。
そりゃまあそうでしょうね。まさかあんな危機的状況で盛るって、どんだけ頭の中がエロで詰まってるんだって話ですからね。
「しかし、さっきの攻撃は一体誰がやったものなんだ?」
「うーん・・・。あ!・・・もしかして・・・」
「心当たりあるのか?グリモア」
「あのケバいギャルじゃないですか?前に私達の前に現れた時も似たもの投げていたような」
ああ・・・、とゼイファーは納得したのか、大きく頷いて上を見上げました。
「しかし、なぜ今回は姿を現さなかったんだ?化粧が間に合わなかったのか?」
「それは私にも分かりませんが・・・。少なからず私達の行動を見ているんでしょうね。気を張って旅を続けないと」
「そうだな。エロい事なんて考えている余裕なんてないぞ。な、ムッツリ」
「くっ・・・!何か言い返したいが何も言えないっ!!」
そうして広い草原を歩き続けていると、やがて遠くの方に山らしきものが見えてきます。
げ、また山登りか、と少しげんなりしていたのですが、よく見るとそれは山ではなく、岩が山のように大きく積み重なっていたものでした。
そして近付くにつれて形をハッキリと表していきます。
岩山ではなく、古い遺跡のような石の建物。
その建物に向かって左右に何本も柱が立ち、その先には入口らしきものも見えます。
「なんだここは・・・」
「遺跡、ですかね?随分と古い建物、というかなんというか・・・。この建物を作るのには相当苦労したでしょうね。あのてっぺんまでどうやって岩を運んだんでしょう」
「魔法でなんとかなりますよ、それは。しかし、これはいつの時代のものなんでしょう」
いつの間にか吹っ切れたリリックは、すたすたと導かれるようにその建物へと歩いていきました。
寄るかどうしようか話し合いをしようと思ったのに、先に行ってしまったために仕方なく後を追う私達。
入口は固く錆びた鉄の扉で閉ざされていました。
その入口の前でリリックは立ち止まると、何か呪文を唱え始めます。
するとその扉は大きく歪んで、そして溶けるように下へ崩れて行きました。
「・・・入りましょう。どうも呼ばれているような気がする」
「は?何言ってんだお前」
「行きましょう」
怪訝な顔をする私達をよそに、リリックは真っ直ぐに入口の先を見て入っていきました。
まるで今までのリリックじゃないみたい・・・。
「・・・どうしたんでしょう。なんか変ですよ?」
「ああ・・・。煩悩で脳がやられたか?危ないぞ、アイツ。仕方ない、乗り気じゃないが付いていくしかないだろう」
本当に迷惑な人です。
建物の中は何故か通路の壁の上に松明が燃やされ、明るくなっていました。
細長い通路は少し傾斜が掛かっていて、どうやら下へと向かっているようです。
奥に行くにつれて、空気がひんやりと冷たくなり、強くなるカビ臭い香り。
思わず鼻を手で覆ってしまいました。
しかし、リリックは気にせず無言でその通路を歩いていきます。
途中でゼイファーが声を掛けるも無視。何かに取りつかれたようにただ歩き続けるのでした。
「・・・おい、やべえぞアイツ。どうしたんだ本当に」
「もう帰りましょう。あんなスケベほっといて。物凄く怖いです。私こんな所で人生終わるのはゴメンですよ」
「お前・・・本当に薄情な奴な・・・」
「え?自分が一番大事なだけですけど?」
やがて広い空間へと出ました。
全て石の壁で囲まれたその広い空間の一番奥に、光る石を抱えた女神像が鎮座しています。
その光る石はキラキラと怪しく色を変えて、その色の怪しさに思わず身震いをしてしまいました。
一方のリリックはその女神像の前に立つと、また何か呪文を唱えだしました。
その呪文は部屋中に響いて、それと共にその女神像がゴゴゴ、という音を立てて横へ動いていきます。
そして、女神像のあった場所の後ろの壁には、また入口が。
女神像の持っていた石は、移動を止めた途端にその光を失い、灰色の不透明なただの石になってしまいました。
「もう少しで着きますよ」
「・・・だから、お前本当に大丈夫か?」
「ああ、そうですね。・・・大丈夫です。そういえば言ってませんでしたね、私はこの寺院を守るもの。とっくの昔に朽ち果て肉体がありませんから、この方の身体を借りて今お話ししています。どうしてもあなた達にここに来ていただきたかったのです。この世界を救うため必要なものをお渡ししたくて」
「必要なもの・・・?って、お前はリリックじゃないのか!」
「はい。私の名はミンディーア。約2000年前にこの寺院の神、ヴィシュア様に仕える仕事をしておりました」
どうやらリリックに乗り移る人は口調から女性のようでした。
しかしリリックのテナーの声で、こういう風に言われると、どうもなんだかリリックがオカマの人に見えてしまいます。・・・ってこんなシリアスな場面でどうしてこうもふざけた事しか考えられないのか、私は。
「その昔、そこにいる勇者様の先祖が魔王討伐に行った際、私はここに祀るあるものを同じように授けようとしたのですが、その時は私の力が至らずこちらへ寄って貰えずに、結果魔王は時を経て復活してしまう事に」
「はあ・・・」
「前の勇者様たちはそれはもう熱血漢溢れる素晴らしい方々で、私の入る隙間がなかったのです。ところが今回は皆さん魔王討伐への思いより、もっと別なもので頭の中が支配されておりまして。まあ、その方が私が乗り移りやすくていいのですが」
「ミンディーア様がリリックに乗り移ったのって・・・」
「この方の頭の中の煩悩は素晴らしいですね。魔王討伐への思いが全くない。むしろそこにいる勇者様とのピー(自主規制)やピー(自主規制)で頭がいっぱいなようです。お陰でするりとこの身体をお借りする事が出来ました。ありがとうございます」
・・・ったく、このエロガッパが・・・。
つまり常にドスケベな事ばかり考えて、この旅を続けていたって事か。
隣にいるゼイファーも大概だと思っていたけど、まさかそれを上回る奴だったとは・・・。
しかし今はリリックの煩悩のお陰で、魔王討伐に必要なものを授けて貰えるのだから、感謝しなければいけないんですよね・・・。うーん・・・ちょっと感謝したくはないけど。
前の勇者たちはどんだけ優秀だったんだ。それに加え私達は・・・。
「くくくっ、やっぱり煩悩の塊だったか。面白いなやっぱり。よっしゃ、じゃミンディーア、その世界を救うものとやらを俺達に授けてくれ」
「そのものはこの先にあります。私に付いてきてください」
先ほどよりもさらに細い通路を真っ直ぐに進んでいきます。
加えて天井も低くなっており、背の高いゼイファーはかなり苦労しながら歩いておりました。
そしてまた開かれた空間へと出た時、ゼイファーは中腰で歩いた事による腰の痛みで悶絶していたのでした。
「お疲れさまでした、皆さん。ここが世界を救うものを祀る部屋、ヴィシュア様のお部屋でございます」




