勇者、提案を出される。
「いざ目覚めよ勇者よ!再び行かん世界を救う旅へ!!」
・・・・何回聞いたよこのセリフ。
気付けばまた教会で回復させてもらってました。
時は魔王が恐怖を与えていた時代。
人々はその恐怖から救ってくれる勇者を求めていました。
そんな時でも、私グリモア(16歳女性)はここ、ルーンの町で静かに暮らしておりましたが。
「そなたは勇者の血を引く者。いざ行け魔王討伐の旅へ!」と言われたのが1ヶ月前。
どうやら私の先祖が勇者だったようで。魔王を封印し、この世界に平和と安定をもたらした偉大な勇者だったそうです。(結局封印は解かれ今こんなんですが)
が、しかし勇者の血は引いても能力までは引き継いでいないのか、はたまた薄れたのか、私ときたら町の周りの雑魚敵すら倒せない始末。
気絶しては回復させられ、そしてまた気絶して・・・。
「グリモア、才能ないんじゃないの?」
町の神父がバカにしたように言ってきます。顔笑ってますよ。
「出来れば私だって行きたくないわ!でも仕方ないじゃん。行けって言われるんだから」
「まあ王の命令なら、やらざる終えないよね。・・はい、500ルン払って」
「・・・お金ないわ・・・。ツケで・・・」
「・・・ツケ溜まり過ぎだよ」
・・・そんなわけで、今日も普段通り、町をぶらぶらしています。
町の人はなかなか旅に出ない(というか出られない)私の事をひそひそとお話しているようですが、もう慣れました。
いずれ旅をすれば仲間も増えるはずと思っていましたが、町すら出られないのだから、仲間も出来ません。
一人では敵には勝てません。
勝てないから教会に借金が増えます。
借金は返さないといけないので、いい武器も防具も買えません。
でやっぱり敵に勝てません・・・・
なにこの恐怖の無限ループ。
「また・・・バイトしなきゃ・・」
やってきた先は魔法使いが集まる屋敷。
ここでは日々魔法使い達が自分の魔術を磨くため、この屋敷で修行をしています。
魔術を修行する上で、まあいわゆる犠牲は付き物で、私のバイトはそういった残骸の処理なわけで。
人が嫌がってやる人がいないぶん、単価が高いわけです。
全身水色の防護服にマスク、分厚いゴム手袋をつけ、お仕事に入ります。
最初の頃は見ただけでリバースしてましたが、今となっちゃぐちゃぐちゃの臓物も、丸焦げの生き物と思われる物も、なんなく処理出来るようになりました。慣れって怖いですね。
「まあよくこんな仕事やるよねぇ。関心するよ」
せっせと処理をこなす私に声を掛けてきたのは、この魔法使いの屋敷の中でも、一番の魔力と魔術を持つと言われるリリック(18歳男)です。
優秀に加えてイケメンなもんですから、この町の女性達に大変人気のある方でありました。
私は思うんですよ。何も能力のない私が魔王討伐の旅に出るより、この人が行った方が効率よく倒せるんじゃないかって。
代わりに行ってくれない?って何回も言ったんですが、「私が行ったら物語として面白くないでしょう?」と訳わからん話をされて、断わられるんですよね。
いやいや、物語とかどうでもいいんで、さっさと終わらせて欲しいんですが。
「お金のためです。仕方ないじゃないですか、嫌なんて言ってらんないし」
そう言いながら、散らばったグロテスクな臓物を掻き集め、袋へと入れていきました。
「おっぷ・・・。今回は物凄い臭いだね」
リリックは口元を抑えて嫌な顔をしています。
「失敗し過ぎですよ。もう少し考えてやって下さい」
「私は失敗しないからね、私のせいじゃないよ。しかし、まだこの町から出られないの?」
リリックもまたバカにしたように聞いてきました。
はいはい、出られません。見たらわかるでしょうに。
「だーかーらー、あなたが代わりに行ってくれません?あなた程の魔力があれば魔王なんてすぐでしょう?」
「行きたいのはやまやまだけどねぇ、私は勇者の血なんて流れてないし、行けないよねぇ」
「そんなもん流れてたって、現に役に立ってないんだから。関係ないんじゃないかなと思うんですけど」
「やっぱり勇者が魔王を倒すってのが、物語としては定番であり、後世に伝説として残るんじゃないかな」
「いらないですよ、そんな伝説。女だし。どうせなら普通に結婚して、子供生んで、の普通の生活したいですわ。そんな伝説、倒してもらった人に譲るんで」
パンパンに溜まった袋をギュッと締め、焼却炉へと運びます。なかなか重いこの臓物。日頃の戦い(やられまくりですが)で微妙に鍛えられた筋肉が役に立ってますね。
「グリモアって、意外と女の子らしい夢を持ってるんですね」
手伝いもしないのに、私についてきたようです。焼却炉に袋を入れている作業を後ろで見ています。
「女だったら、普通じゃないですか?」
「そうですか」
そう言うと、何かを考え込むように、顎に指を当てて目を閉じていました。
さすがイケメンです。考える姿も絵になりますね。
・・・ではなくて、何を考えているんでしょう。怪しい・・・。
「・・・どうしたんですか?」
その言葉で、リリックはカッと目を開き、そして私を見るとニヤリと笑いました。
「では私もあなたの魔王討伐の旅に付いて行きましょう」
・・・これは願ったり叶ったりな!
思わず手に持った臓物袋を落としそうになりました。
「え?・・・い、いいんですか?」
「良いですよ。そのかわり」
「そのかわり?」
「魔王討伐が終わったら私と結婚して下さいね?」
明日こそ本気出すの無限ループ(古)