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プロローグ

 注)この作品は、SFコメディです。


 ちょと何?


 一体、何が起こったの?


 私、どうなってるの?


 だ、誰か教えて!!


 心配すんな!


 俺が着いていれば、何にも怖くねえ!


 さあ、体の力を抜いて、全てを俺に任せるんだ!


 キャー!


 だ、誰か…………。

 どんなところで、どんな危険が待っているかなど誰にも分からない。それを予測出来たら、もしくは、簡単に回避出来るのであれば楽に生きていけるのだろうか。


 中には、危険を自ら招いてしまうこともある。そういう性格の人も居る。本作品の主人公は、どちらかといえば後者だ。その性格故に、危険を招いてしまうタイプである。


「あの女だ! 失敗するなよ!」


 黒塗りの高級車の後部座席で、偉そうな二十代後半の男が言った。如何にもヤバイ感じの黒いスーツの男四人が、一斉に公園の暗い脇道を歩く女性を見た。


 宿井椿(すくいつばき)、二十二歳、長い黒髪、背は高くも低くもない。顔立ちは、それなりに整っていて美人とまではいかないが可愛い感じである。残念なのは、プロポーションの一部が少々物足りないことだろう。まあ、本人のコンプレックスである。


 そんな椿を、高級車の偉そうな男は狙っていた。何故なのか、それは本日午後五時半に椿の勤務先で起こったある騒ぎに由来する。


「クソッ! 俺を馬鹿にしやがって!」


 男は、怒りのこもった眼差しを椿に向けた。この男、所謂(いわゆる)バカ息子である。椿の勤務先の社長の息子だ。このバカ息子、社員の女の子に強引に迫っていたが、それを椿に(とが)められる。


 怒鳴られ、罵倒されて、その迫力に逃げ出した。要するに、肝が小さいのである。しかし、時間が経つに連れて怒りがこみ上げて来た。復讐しようと、ボディーガードの男の中から屈強な者を四人選んで連れて来たのである。


 何も知らない椿は、友達と少し呑んで上機嫌で歩いていた。だが


「キャー!」


と、悲鳴を挙げて倒れてしまう。


「い、痛い……」


 足首を擦りながら、椿は辺りを見回した。しかし何もない。確かに、何かに(つまず)いたように感じた。ハイヒールで千鳥足、当然の結果と言えばそれまでである。


「もう、何なのよ……」


 ブツブツと文句を言いながら、散らばったバックの中身を拾い集めた。そのときである。


『危険だ! 早く逃げろ!』


 誰かに、そう言われた。見回しても、誰も居ない。酔っ払っているので、空耳かとも思ったがそれほど呑んではいない。首を傾げて、立ち上がった。


『どんくさい女だな! 早くしねえと、一生後悔するぞ!』


 こんどは、ハッキリと聞こえた。いや、聞こえたというよりは、頭に直接浮かんだという感じである。


「誰なの? 危険って、どういうこと!」


 問い掛け、叫んでみたが辺りに人影は無い。


『ホントどんくさいなぁ……もうおせぇよ!』


 その声が聞こえる同時に、二人の黒いスーツの男に気付いた。


「な、何? 何の用?」


「バカな女だ。坊っちゃんを怒鳴り付けるなんて、まあ、優しく可愛がってやるから大人しくしな!」


 二人の男は、ニヤニヤしながら迫ってくる。


『しょうがねなぁ……疲れてるから、あんまりやりたくねぇんだが……』


 声と同時に、外からは分からないが服の中に何かが侵入してきた。それは、ハチマキほどの巾の布のようなもので、あっという間に体を覆い尽くす。


「キャー! な、何よこれ……」


『良いから、力を抜け! 体が動くに任せるんだ!』


 二人の男は、目の前まで迫っている。ハイヒールを履いていては、逃げられない。他の靴でも、逃げられないとは思う。


 ともかく、絶体絶命なのは確かである。仕方なく、謎の声の指示に従うことにした。恐怖を抑えつつ、全身の力を抜く。


「観念したか、良い子だ!」


 男の手が、右肩を掴もうとする。その手首を掴んで、右足を前に出すと投げ飛ばした。男の体は、見事な甲を描いてアスファルトに叩き付けられる。かなり痛そうだ。


「抵抗しても、ムダだと言ってるだろうが!」


 怒り心頭で、もう一人が両肩を正面から掴んで来た。両肘を弾いて、手を外す。少し後に下がると、今度は抱き付いて来る。


 身を沈めて、これを回避した。両手を着いて、膝を相手の鳩尾にお見舞いする。そのまま、膝で胸や肩に集中砲火。最後は、右手を着いた状態で蹴りを叩き込んだ。


「ば、バカな……カポエラだと……」


 驚く二人の男だが、一番驚いているのは椿本人である。最初は、合気道の小手投げ。次が、カポエラの蹴り技。共に、習った覚えなど無い。


 少し離れた場所で、車のドアが閉まる音が二度聞こえた。新に、二人の男が現れる。五メートルほど先に、黒塗りの高級車が見えた。それで、全てを察する。


『四対一か、だったらこっちに切り替えるか!』


「切り替えるって、何を?」


 疑問はつきない。だが、それを解消している暇はない。正面からスタンガンを持った男が、襲い掛かって来る。その瞬間、後に反り返った。


 右足で、スタンガンを持った手を蹴り上げ、左足のつま先で顎を蹴り上げる。少し下がった男は、頭を振って尚も攻撃してきた。


 だが、それよりも早く椿は、男の懐に入り込んでいた。渾身の肘鉄が、男の鳩尾に炸裂する。


「二十歳過ぎて、純白のパンティとは恐れ入りました」


「何処見てんのよ! スケベ!」


 怒りを込めて、男を一本背負いで投げ飛ばした。呻き声を挙げて、気絶する。少々、幸せそうな顔をしているのは、気のせいだろうか……。


「クッソ!」


 三人は、同時に攻撃すべく取り囲む。


「か弱い女の子に、三人同時なんて卑怯よ!」


 一瞬怯んだ。この期を見逃さずに、先に攻撃を仕掛ける。素早い動きで、右前方の男の後に回り込み膝の裏を蹴って膝を着かせ腹に一撃。更に、こめかみに膝を叩き込む。


「パンティは無しかよ……」


「ふざけないで、この変態!」


「ウリャー!」


 後ろから、三段式の警棒で襲い掛かって来た。だが、当たらない。風にそよぐ柳の如く、しなやかな動きで連続攻撃を次々と交わす。


「このクソアマが!」


 腕を大きく振り上げた。振り下ろされる前に、手首と肘を決めて受け止める。そのまま、真後ろに投げ飛ばした。受け身は取れない。振り上げた足のハイヒールの踵を、鳩尾に振り下ろす。そのまま、踵をねじ込む。


「今日こそ、童貞から卒業出来ると思ったのに……」


「その歳で童貞なんて、よっぽど性格悪いのね!」


 どう見ても、三十後半以上。椿の言葉に、男は傷付いたのか泣きながら気絶した。最後の一人、大柄で如何にも筋肉質強敵である。


「良い気になるなよ! 俺でも、この三人なら秒殺だ!」


「弱い犬ほどよく吠える。地球人は、上手いことを言うって、どういうこと……」


「テメェ! 頭イカれてんのか?」


 男を睨み付けた。相手も、睨み返して来る。睨み合ったまま、数秒が過ぎた。先に仕掛けたのは、男の方だった。


「この一撃で、気絶させてやる!」


 丸太のような腕を振り回して、迫ってくる。流れる水のような動き、しなやかで捉えどころが無い。だが、絡み付いてくる。


 男の腕を取って、後にネジ上げた。そのまま、胸を密着させて首に腕を巻き付ける。もがいて振り払おうとするが、完全に決まっていて離れない。


「悪いけど、実力が違い過ぎるわ!」


「クソ……残念だ。もう少し、胸が有れば……」


「ふざけないで! 変態!」


 腕に力を込めた。男は、白眼を剥いて気絶する。四人を倒して、黒塗りの高級車を睨み付けた。怒りを露にしながら、近付いて行く。


「一体、どういうつもり!」


「ヒェェ! 勘弁して下さい!」


 ドアを開けて怒鳴ると、バカ息子は悲鳴を挙げる。情けないほどに、震えていた。


「今度こんな真似をしたら、駄々じゃおかないから!」


「は……い…」


「分かったの!!」


「はい!」


 勢いよくドアを閉めると、バカ息子は悦に入ったような表情をして体の力が抜けた。何が起こったのかは、想像出来るだろう。


 気絶していた男達は、意識を取り戻して遠巻きに椿を避けると車へ戻り逃げて行った。走り去る車を睨み付けていたが、車が見えなくなるとその場にへたり込んでしまう。体を覆っていた布も、いつの間にか消えた。


「一体……何が起こったの……」


 混乱する椿だったが、我に返ると何とか立ち上がり、自宅アパートに向かって歩き出す。その歩は重く、夢遊病者のようであった。


 このときまだ椿は気付いていない。自分の直ぐ傍に、侵入者が居ることに。そして、自分が大きな騒動に巻き込まれて、大注目を集めることになるとは思っていないのである。夜道を歩きながら、椿は必死に考えていた。だが、到底常識ではその答えを得ることなど叶わないだろう。


次回予告


 一体、何者?


 ちゃんと説明して!


 それには先ずは、自己紹介からだ!


 次回第二章 その名はワリンダンでお会いしましょう!

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