(2)
「美恵―」
すっかり空が落ちた黒い夜をスクーターで走り抜け、興味もないクラスメイトと映画を観に、美恵は集合場所の映画館を訪れた。
そこにはえみりを含めいつものメンバーが揃っていた。皆自分が女子ではなく女性である事をアピールするように露出度の高い私服を身に着けている。そんなもの品位を下げるだけなのに。
「お待たせ」
そう言いながら、おや、と美恵は少し違和感を覚えた。
えみり、りく、ななみ。
いつもの面子に加え、知らない顔がそこに二人ほど混じっていた。
一人は背が小さく、ツインテールが特徴的な幼めな印象。
もう一人はそれとは対照的にすらっと背が高く、ショートカットな大人な印象。
ちぐはぐで、でもその対極さでバランスを取っているような二人の存在は美恵の目を引いた。
「あ、美恵は多分初めましてだよね?」
えみりが二人に目配せをすると、まずはツインテールがとことこと美恵の前に歩み寄ってきた。
「初めましてです! 合井千里って言います!」
ぺこりと丁寧に頭を下げる千里に、同じく初めましてと、小さく会釈をする。化粧気のないあどけない顔は小学生と言っても通ってしまうほどに幼く見える。加えて真っ黒な生地にどぎつい赤で描かれた髑髏と赤のチェック柄のミニスカートという出で立ちが強烈に千里という存在を印象づけた。
その千里の横にすっとショートカットが立つ。無地の白シャツに薄めの黒カーディガンとタイトジーンズというシンプルなファッションだが、身長の高さとスタイルの良さでその姿はモデルさながらだった。少し見上げる形で彼女の顔を直視すると更に驚いた。くっきりとした目鼻立ちで嘘のように整った顔立ち。髪の短さもあってか、それが彼女を美少女にも美少年にも写した。
「真琴桧並。よろしく」
ポケットに手を突っ込んだままの挨拶は無愛想なものだったが、桧並のフォルムとハスキーな声と存在感がその態度をクールなものへと見事に昇華する。美恵は桧並に対して千里の時と同じように会釈する。
「ちーが元々あたしの友達でね、そのちーの友達がこの桧並様ってわけ」
と、聞いてもいない紹介をりくが始める。ちーとは千里の事を言っているのだろう。
それにしても、桧並様とはなんとも仰々しい呼称だ。
「桧並様って、すごい呼び方ね」
「いやだってやばくない? もはや芸能人でしょ!」
「大げさだよ、りく」
落ち着いた物腰で否定する桧並だったが、りくの言う事は確かだ。
「知ってはいたけど目の前で見たらマジやばいね」
「うんうん。同じ人間じゃないみたい」
えみりとななみが桧並に対しての素直な称賛を口にしていた。二人も桧並との面識はそこまでない様子だった。
「それより、そろそろじゃない時間」
「あ、やっべ。行こ行こ!」
気付けば上映時間がせまっていた。本当は居眠りでもしてやり過ごしたい所だが終わった後に批評会があるのは間違いないのでそれなりには見ておかないといけない。
――ああー。ホントに、めんどくさい。