第三話「シスコン妹」
森を抜けた私はそこで立花さんと別れ帰路についた
最後まで胸の高まりの正体はわからなかった
「私の魔法か……」
バスへ乗り込んだ魔鬼菜は理事長室での一幕を思い出していた
※※※
時を理事長室まで遡る
「で、私の魔法って何?どこにも書いてないんだけど?」
祖母に渡された紙切れには私の魔法のことがどこにも書かれていなかった
…………。ほとんど白紙といっても過言ではない
「そんなもの知らんね」
バッサリ切ったよこのババア……
「あ?なんでよ?」
中学のときからの癖で苛立ち混じりの声が出てしまった
それに動じる祖母ではないが殺気で返答されることがあって滅多にしない
孫に殺気ぶつけるのか鬼みたいな老婆である
「それに書いてないからわかるはずないだろ?まぁ、強いて言うなら《正体不明》ってところさね」
良かったスルーされた
多少の敵意は気にもしない
流石、婆ちゃん、年の功マジ半端ないわ
しかし、《正体不明》ね……
「それって第三宇宙速度で走ったり、神格持ちを一撃で沈めたり、相手の魔法無効果したり出来るの!?」
某快楽主義者主人公みたいなチート持ちなの!?
問題児として召喚されちゃうの!?おおっと、落ち着け私、クールになるんだクールに
最高のcoooooooolを!
「出来る訳ないだろ」
即答された
さっきまでのテンションを返してほしい
「指からライター程度の火しか出せない魔法や、1g以内のものしか動かせない魔法があるだろ?」
急に祖母が意味のわからないことを……
力づくで病院送りにしてやろうかな
いや、返り討ちで肋骨3本は持ってかれる
経験談だ
「あんなはそれしょっぼい魔法よりしょぼくてね。何が出来るかわからないから《正体不明》なのさ」
魔鬼菜は静かに近くのソファーに横たわった
「魔法使えない魔女ってただの一般人じゃない……」
この後、森で迷子になった
※※※
祖母との会話を思い出して目頭を押さえていると家の近くのバス停に着いたようだ
魔鬼菜の家はこれといって特徴のないごくありふれた一軒家である
鍵をポケットから取り出し開ける
「ただいまー」
というと同時に
「おかえりなさい、お姉ちゃーん!」
妹が三段階ジャンプからの抱き着きをしてくるのは習慣だ
「ねぇ、お姉ちゃん今日予想より遅かったけど何してたの?……それに私の知らない女の臭いがするし」
妹は私に抱き着きながら顔を上げず力を強めて低い声で聞いてくる
そのせいで後半は聞こえなかった
寂しかったのだろうか?可愛い奴め!
「お姉ちゃんは道に迷ってたんだよ」
よしよしと頭を撫でて妹成分を補充する
私の言葉を聞き妹は満面の笑みで顔を上げる
「なーんだ!いつもの迷子だったんだ!」
いつものってどういうことだ妹よ……
「あ、おかえり魔鬼菜」
母、雪菜がリビングからひょっこりと顔を出す
「ただいま、母さん。帰って早々だけど婆ちゃんから私に伝えるように言われたことなかった?」
母さんは思い出すため一休さんのように指を頭に這わせる
ポクポクポクチーン
思い出したと顔を輝かせている
「そうそう!母さんから魔鬼菜に魔法の適性があるからレファイン女学園に入学出来るように準備しとけって言われてたわ!明日までにだったと思う」
ん?途中に聞き逃せないものが交じってたような……
それを問いただそうとした矢先
「お姉ちゃんに魔法……?しかも明日までに……?」
わなわなと体を震わせて離れていく妹
こころなしか目が虚ろな気がする
「どうしたの火燐?大丈夫?」
理由は大体わかってるけど、どうしよう?どうすればいい?
母さんの方に助けを求めるように視線を向ける
母さんはそれを察して震える妹をリビングへと誘導する
「火燐はママがどうにかするから魔鬼菜は明日のために準備しててね」
ウィンクを残して妹と母さんはリビングに消えた
ぽつん、と一人残された私は父さんをタイムラグ0で出迎えて共に自室に待機するのだった
我が家の母さんのウィンクの意味は『覗いたら氷づけにするぞ』という意味だからだ
「引越しの準備しますかー」
母さんから呼び出しがかかるまでいそいそと荷造りをした
※※※
という訳で翌日
なんで翌日って?それは昨日、母さんとの話し合いで落ち着いた妹に抱き締められて一緒に風呂に入って一緒に寝ただけだからね
別に描写はいらないでしょ?
今、私はレファイン女学園の制服、赤のベストに紺色でチェックのスカートを着て妹に見送られている
赤のベストって目立つなー
私、妹と違って目立つの嫌いだからなー
「お姉ちゃん本当に会えなくなるんだね……」
目が潤んでいる妹
生涯の別れみたいだけど休みには家に帰れる
大袈裟だなー
「だから、私の出来る限り最高のお見送りをするよ!」
本当に大袈裟だな……道を埋め尽くす人を呼ぶなんて
やだ、妹の友達多すぎ……
赤い絨毯引かれてるんだけど?私に歩けと?
どこのお嬢様なの?
キング・オブ・ぼっちの私のHPをガリガリ削られるんだけど……!
妹の取り巻き達の笑顔が眩しい!
いつも見てたのが嫉妬にまみれた醜い顔だったから眩しい!
その笑顔から放たれる早く行けよオーラが眩しすぎて目が腐る……!
「う、うん、ありがとう火燐。
私がいなくてもちゃんと頑張りなよ?心配ないと思うけどね」
行ってきます、と言いゴミゴミした人溜まりを抜けようとすると後ろから妹の熱い抱擁と取り巻き達の舌打ちの合唱をいただきました
後半は嬉しくないな……
※※※
愛しのお姉ちゃんが見えなくなるまで見送った
暫く会えなくなる神々しいその御姿を私のメモリーにしっかりと焼き付けて
取り巻きの一人が膝を着いてマイクを私に差し出す
それを受け取り息を吸う
「皆ーっ!今日はお姉ちゃんのお見送りに付き合ってくれてありがとう!」
私に群がる雑音共にいつもの笑顔で労いの言葉をかける
解散してから雑音共が完全に散るまで一時間もかかった
これでも善処したほうだ
これだからお姉ちゃん以外の人間は嫌なんだ
私は溜め息を溢し家に入る
この疲れを癒すためにお姉ちゃんの部屋のベッドに倒れ込む
「はぁはぁ、お姉ちゃんの匂いだー。良い香り……」
恍惚とした表情でお姉ちゃんの枕を抱き締める
これからお姉ちゃんに会うことが出来ないなんて下手したら自殺を図りそうになるけど死んだらお姉ちゃんに二度と会えなくなる
そんなの嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
お姉ちゃんは誰にも渡さない
待っててねお姉ちゃん絶対に迎えにいくから
読んでいただきありがとうございます!
魔鬼菜「魔鬼菜と」
愛香「愛香の」
二人「「裏劇場コーナー」」
愛香「パチパチパチパチ」
魔鬼菜「今日は火燐についての小話ってところかな」
愛香「魔鬼菜ちゃんの妹さん可愛いですねー」
魔鬼菜「そりゃ、妹だもん当然だよ」
愛香「魔鬼菜ちゃんと髪と目の色は同じですね」
魔鬼菜「そして姉の私より胸が大きい。妹がBで私がAA」
愛香「…………。」
魔鬼菜「火燐は元々、ストレートヘアーだったんだけど私がポニーテール好きと知って以来、ポニーテール一筋で日々磨きがかかってるのよ」
愛香「好きな人の好みを研究するのは乙女の基本ですからね」
魔鬼菜「そんいうものなの?」
愛香「そういうものなのです」
魔鬼菜「それはそれとして私はもう寝るよ」
愛香「あ、はい。では、皆さんまた次回」
魔鬼菜「……妹のヤンデレ化を食い止めねば」
愛香「手遅れだと思いますよ?」