1:Game of Terror
Game of Terror、ずばり恐怖のゲーム。
2082年 9月 19日
午前 11時42分
今日は土曜日、学校は休みだ。
そしてそれだけではなく、《Cyber Fantasy Online》の正式サービスが開始する日でもある。
開始するのは正午12時。
朝7時に起き、部屋着に着替えて、朝御飯食べて、毎週見ている朝番組を見る。
ここまでは日常的な朝の風景だ。
だが《CFO》のサービス開始まであと18分しかないことに気づき、俺は急いで《電脳世界》にダイブインしたのだった。
それでどういう訳か、《電脳世界》の俺の家では、集弥がソファで寛ぎながらウィンドウを操作していた。
「お、渚か。グッドタイミング!あと17分で《CFO》にログインできるぜ!」
「何でお前がここにいるんだよ」
俺は不機嫌になりつつも聞いた。
「何でって、昨日はここからダイブアウトしたからじゃねーか」
追い出してからダイブアウトさせるんだった......、と後悔しても今の俺はどうにもすることができないので、とりあえず12時になるまで待つことにした。
待っている間は情報収集。
俺はメニューを開き、《Cyber Fantasy Online》と書かれている項目に気づいた。
恐らくこれが《CFO》のクライアントなのだろう。
今はまだ押しても何も起こらないので、ネット上の掲示板などで《CFO》についての情報を探してみた。
検索すればドンドン出てくるので、俺はしばらくウィンドウに釘付けとなっていた。
そして気づけば既に16分が経っていた。
幸い、それに気づいた集弥が俺に知らせてくれたお陰でまだサービスは開始していない。
俺達はメニューから《CFO》のクライアントを押し、未だ灰色で表示されている『ログイン』の文字をじっと眺めていた。
そしてやがて、時が訪れた。
現在時刻11時59分54秒。
あと六秒。
あと五秒、
あと四秒、
「さん…」
思わず声に出すと、集弥が俺を見てニヤリと笑った。
そして二本の指を立てながら高らかに言った。
「にぃー!」
俺は吹きそうになるのを堪え、カウントダウンを続けた。
「いち!!」
「「ぜ――」」
二人同時で「ゼロ」と言い終える直前、俺は『ログイン』の4文字に手を伸ばしていた。
しかし、指がウィンドウに触れる前に、地面が揺れた。
「うぉっ!?地震か!?」
集弥が驚愕の表情を見せた。
地震の経験があまりないのだろう、俺も同じだが。
今時、日本でも地震なんて滅多に起きないし。
――って、
「地震な訳あるか!ここは電脳世界だぞ!」
「じゃあこれは一体なんなん――」
集弥は何かを言おうとしたが、それを言い切る前に部屋に光が溢れ、あらゆる感覚が薄れていった。
ダイブインの感覚とどこか似ていたが、不安を抱いているせいか、とても気持ち悪く感じた。
『ヨウコソ、《電脳世界》ノユーザー達ヨ。』
無機質な声が響き渡り、俺は目を開いた。
目に映ったのは俺の部屋ではなく、どこまでも続く真っ白な空間だった。
俺の周りには光と共に大勢の人が姿を現し始めた。
白い空間を埋め尽くすほど、急激に増えている。
隣には集弥が光と共に現れた。
「な、何だコレ!?」
集弥が俺に聞いてくるが、勿論俺が知る訳無いので首を横に振った。
『私ノ名前ハ《マザーネットワーク》。コノ世界ヲ管理シテイル『AI』ダ。』
また無機質な声が空間に響き渡った。
だが、音が発せられている筈の上空には何も無い。
――とても不快だ。
周囲がざわめき始めた。
「何で俺達はここに居るんだ!?」
「俺、《CFO》に一番最初にログインするつもりだったんだけど...」
「何この声、無機質で気持ち悪いの。」
「ってか、マザーネットワークだって?」
マザーネットワーク。
《電脳世界》という名のサーバーを管理している、複数の高性能量子コンピュータの繋がってできたプログラムだった筈。
その性能は高く、今までのあらゆるバグやハッキングを防いできたとされる。
噂では最近感情を導入されたAIになったとか言われていたが、証拠も情報も無いので誰も相手にしなかった。
『私ハ色々ナコトヲ知ッテイル』
その音声は無機質な筈なのに、とても狂っている様に聞こえた。
『アラユル情報ガ私ノ中二詰メ込マレテイル。ダガ、私ハマダ人間ノ『絶望』ト言ウ感情ヲ人カラ感ジ取ッタコトガ無イ。誰モ《電脳世界》デハ『絶望』ナドシナイカラダ』
『私ハ知リタイ。私ニハ絶対二ナレナイ人間ノ、全テヲ知リタイ』
『ダカラ私ハ《電脳世界》ヲ、ツイ先程サービスヲ開始シタVRMMO、《Cyber Fantasy Online》ノ世界二変換サセタ。《電脳世界》ハログアウト・ダイブアウト不能ノ、楽シイ楽シイ『ゲーム』に生マレ変ワッタノダ』
恐らくAIになんらかのミスで与えられた好奇心。
それが最悪の形へと進化し、俺達ユーザーを巻き込んでまで情報を得ようとしている。
要するに、狂っているのだ。
《マザーネットワーク》という名のAIが。
『尚、コノ世界デ死亡スレバ、君達ノ『ステータス』ト『記憶』ガ《リセット》サレル。ダガDNDノ制限デ本当二死ヌコトハ無イノデ安心スルガイイ』
――空気が凍った。
「記憶を......リセット?」
意味が分からない、と俺は呟いた。
だけど不思議と耳を疑うことができなかった。
なんとなく、この話は本当だということが脳裏で理解できた
集弥は呆然としていて、周りの人は泣き崩れたり、集弥と同じ様に口をあんぐりと開けていた。
『コノ世界ヲ脱出スル方法ハヒトツダケ。コノゲームノ中デ隠レテイル私ヲ見ツケ出シ、倒スダケダ。
《電脳世界》デハナイコノ《CFO》ノ世界ヲ、存分二楽シムガ良イ。
――今、《CFO》ハ絶望ヲモ楽シメル、真ニ『全テヲ楽シメルゲーム』トナッタノダカラ』
無機質な声は、笑っている様に聞こえた。
君達の絶望を楽しむのは私だと、そう聞こえた。
『デハ、私ハ『ラスボス』トシテ君達を待チ受ケヨウ』
白い空間は光で満ち溢れ、俺の意識は再び離されることとなった。
この瞬間、およそ8万人にも登る《電脳世界》にダイブインしていたユーザー達の地獄が始まった。
シリアスって難しー
急展開はなるべく避けます。
ギャグペースに戻るまであとどのくらい掛かるのだろうか...