26: Secrets and Understandings
毎度のことながら、亀更新ですみません。
「ちょ、おい、ナギサ!それは――」
「わかってるさ、これが何を意味するかくらい」
ボスの咆哮音だけがその場に鳴り響き、後ろのプレイヤー達が絶句している光景が目に浮かんだ。
「俺はもう、自分の力から逃げない!」
普通に考えればオーバーキルだった。
竜となったシルブが雷を落とし、黒騎士となったノワールが斬る。
巨大モグラはそれらを同時に受け、あっさりと残りHPを吹き飛ばされた。
「オオオオオオオオオオオオオオアアアァァァァァァッッ!!」
ほんの一瞬で、ボスはかき消された。
俺自身、もう少し時間をかけるべきだったと後悔した。
まあ結果は同じなので関係ないが。
「【帰還:シルブ、ノワール】」
召喚したシルブ達を腕輪に戻す様に念じると、
そして、ボスが消えたのはいいが、もはやそんなことは関係ないといった風に、全員の視線は俺達に向いていた。
シュウヤ以外は全員俺を警戒している様だった。
恐る恐る、クレナさんが口を開いた。
「それ、なんですか」
恐らく俺に黙秘権はない。
「隠しボスだ。色々あって、偶然見つけて偶然倒せたら、マザーコンピュータに対してせめてもの反抗を、と俺のテイムモンスターになった、らしい」
「じゃあ何で今まで黙ってた」
先ほど吹き飛ばされた覇牙さんが折れた剣をインベントリに仕舞い、新しいのを取り出しながら問う。
その声は怒りのせいか、少し低かった。
「おい、答えろ。攻略のためと皆が必死に戦ってる中、お前一人だけチートを持っていながらぬくぬくと生産ライフを過ごしていたのか」
「そうだ」
「何故だ!」
覇牙さんは怒りで顔を歪ませていた。
俺にはその理由はわかっていても、許してもらう権利などどこにもないとわかっている。
「別に、理解してもらえると思ってなければもらうつもりもないが、これだけは言わせてくれ」
「はあ?」
「ごめんなさいッ」
俺は、土下座をした。
頭を固い石の床に叩きつけて。
「おい、謝って許してもらえるなんて――」
「許してもらうつもりはないと言っている。ただ、俺は、望んでこの力を手に入れたんじゃない」
「ああ!?望んでなくても、その責任があんだろが!」
わかっている。
それくらい、わかっている。
だけど、
「俺も人だ。この前までは普通の学生だった。だから……怖かった」
そしてその場の全員が黙りこんだ。
頭を床に擦りつけている様な状態なので見えないが、覇牙さんがため息を吐く音が聞こえた。
「悪かった、お前凄そうに見えるけどまだ中学生だったもんな、俺に責める資格なんてねェ」
「……ごめん」
俺の予想とは逆の結果だった。
二人が謝ってきたのだ。
「今まで、目の前でやられて、本当に記憶を失くしたプレイヤーも何人も見てきたから、もしそんなことはどうでもいいと過ごしていたのなら許せなくてな……大人げないことしちまった」
覇牙さんが申し訳なさそうに言った。
確かに、そうだ。
俺は今までそんな人達を一切見ることもなく、隠れボスの力を2つも持っていながらぬくぬくと平和に生産をしていたのだ。
否定はできない。
「私も……兄が、目の前で」
「もういい、こっちも本当にごめん。本当は許されるべきじゃないんだ」
クレナさんが辛そうに吐き出す言葉を静止した。
お互い辛くなるだけなのだから。
「ナギサ、お前これからどうすんだ?無理したくないなら、そのテイムモンスターを誰かに譲るとかした方が……」
「……いや、大丈夫、これからは俺も攻略に参加する、いや、します」
ユウリにはなんて言われるかわかったもんじゃないな。
「……私はどうすればいいのかしら、もう帰っていい?」
「「「あ……」」」
そういえば、アルビノの少女のことをすっかり忘れていた。
彼女がかなり気まずそうにしているのは、言うまでもなかった。
「す、すまん、すっかり忘れてた……」
「それはフォローになってないわよ……」
不機嫌そうに髪を弄っていたアルビノの少女に、全員が謝った。
「じゃあ、まずは自己紹介しましょうか。まだ名前すら知らないものね」
「突然の乱入だったからな」
金色の巨槌を上に掲げ、袖がめくれて露になった右腕を、俺は見逃さなかった。
――腕輪。
俺の腕輪と似た様なものが見えたと思った瞬間、彼女は叫んだ。
「【モード:ヒューマノイド】!」
巨槌は一瞬で眩い光球となり、人型の形へと変化していった。
これは間違いなく、シルブやノワールと同じ――――
「私もそこの人と同じで、隠しボスを偶然倒したのよ」
――獅子の眼をした、鬣の様な金色の髪を持った少女がそこにいた。
「ども、金獅子ッス」
その目付きとは正反対の、軽いノリで挨拶された俺達は反応に時間がかかってしまった。
「私はエリカ。そこの人と同じ、隠れボスを倒してテイムしたプレイヤーよ」
「な……!?」
隠れボスを倒していたのは、俺だけではなかった。




