20:Escape the Dungeon
運営組からのメール。
件名は『希望の力を持つ者へ』だから、このダンジョンを訪れた者で、隠しボスをテイムしているプレイヤーに自動的に届くように設定されていたんだろう。
もしそうだとしても、マザーコンピューターなら簡単に排除できたはずなのに、何故ちゃんと届いたのだろうか。
まあ、今はそんなことはどうでもいい。
重要なのはメールの中身だ。
俺は、呆然としながらも、メールの内容を最後まで読み通した。
『このゲーム、いや、日本サーバーの電脳世界がマザーコンピュータに乗っ取られたことは既に存じております。
それについては、謝っても許されることはないでしょうが、謝らせて頂きます。
真に、申し訳ありませんでした。
もはや、我々に干渉の手段は残っておりません。
このメールしか。
この隠しダンジョンは、我々が臨時で作った、大して広くない洞窟型ダンジョンです。
しかし、ボスを倒せば他のダンジョンと比べ物にならない報酬があります。
こんな回りくどい仕様になってしまったのは、マザーコンピュータの意志です。
あのAIが何を考えているのかは、我々にもわかりません。
都合が良い様で本当に申し訳ありませんが、どうか、この電脳世界を救ってください。
貴方の従えている『力』が、その世界において神に抗うために在る希望なのですから。
――――CFO運営グループ・電脳世界管理グループより――――』
なんだろう、凄く重い。
自分の肩が自分の体重の何十倍も重くなった気がする。
何せ、このメールによって今後の攻略状況を大きく左右する存在を、俺に託したのだ。
とりあえずは、ある程度の疑問が解けた。
今まで、運営グループが何をやっていたか、だ。
恐らく臨時でこのダンジョンを作り、あのマザーコンピュータの納得できる仕様を通して、隠しダンジョンに入った者に報酬で重要なアイテムをくれるように準備や作成をしていたのだろう。
臨時とはいえ、このクオリティだ。
それと、システム介入にも時間がかかるだろう。
いつなのかは知らないが、何週間かの時間をかけてやっと隠しダンジョンの設置に成功して、そのあとに俺達が見つけたのだろう。
ひょっとしたら、あのドリルが報酬だったクエストも、これを見つけさせるためだったのかもしれない。
モンスターなどの障害物があるのは、十中八九マザーコンピュータの目論見だ。
というか、障害物を入れないとすぐに消去されたのだろう。
マザーコンピュータに。
「さて、さっさとこのダンジョン攻略しなきゃ責任重大だな………」
「何の責任ですか?」
地獄耳の発動したリビアさんがこっちに戻ってきた。
「いや、こっちの話」
「なんですかそれ」
「ユウリに心配かけたら兄貴の名がつたるってことだ」
「シスコン認めましょうよ」
「俺は違うっつってんだろ」
駄弁りながらも、俺達はまた歩き始めていた。
リビアさんはまだドリルをしまってないけど。
「途中で何か鉱石とかないですかね~」
「俺が知るか、ってかさっき結構掘ってたじゃないか」
「ああ、結構いっぱいありましたよ?黒鉄とか」
「黒鉄?聞いたことないな」
「ランクが鉄鋼石より全然高かったですからね」
やっぱり、運営側の作為で良い素材が取れる様になってるのか。
「まあ、とりあえず進むか。俺も素材集めてから」
「え、今進むんじゃないんですか?妹さん待ってますよ?」
「レア素材のためなら少しくらい時間を使ったっていい」
一応、俺も生産職だしな。
『主はもはや攻略組以上の戦士だろうに』
『ですよね』
何でこのタイミングでやっと口を出すんだお前らは。
「よし、大量大量。そろそろ行くか」
「ですね~」
インベントリがそれなりにレア素材でたまったのを見て少し満足し、俺達は採掘していた場所から離れた。
ダンジョンに入ってからもうどれほど時間が経ったのかはわからないが、少なくともお昼は過ぎてるだろう。
早くしなければ。
『あそこではしゃぎながら鉱石を掘りまくっていなければもう少し早く出発できたろうに』
『表では感情を押し殺してましたけど、私達にはバレバレですよ、ご主人様』
レア素材見て興奮するのは生産職の性だ。
悪いことは何もしてないはずだ。
『とりあえず脱出を優先したらどうだ?』
「(いや、ボス倒さないと報酬とやらは手に入らないし)」
シルブの提案に、俺はそう返す。
『あとからでも良いじゃないですか。今度は大勢で攻略した方が効率いいと思いますよ?』
「(……それもそうか)」
ノワールの一言で、俺は納得した。
こうして俺達は出口を求めてダンジョンを彷徨い続けた。
その後30分ほど歩いていると、小さなドーム型の空洞へ辿り着いた。
中心には『セーブポイント』と上に表示されている、青く光る魔法陣の様な幾何学的な模様があった。
シルブによれば、外に繋がる一種の転移陣の様だ。
思ったより早く出口に辿り着けたな。
「それじゃあさっそく出ましょう!」
そう言ってリビアさんは真っ先に転移陣に飛び乗り、光の粒子と化して転移された。
俺はリビアさんに続くよう、ゆっくりと転移陣に歩み寄った。
「次は、絶対に攻略してやるからな。首を洗って待ってやがれよ」
振り返ってそう呟き、俺は躊躇なく転移陣に足を踏み入れた。
そして、俺の意識は途絶えていった。
『できるもんならしてみろよ』と微かに奴の声を聞き取りながら。
プギャー




