18: Dungeons and Comedy
ダンジョンとは、迷宮である。
ファンタジーやゲームには定番中の定番であり、お宝を見つけたり、モンスターを倒したり。
要約すれば、冒険には付き物な迷宮である。
当然、このCFOにもダンジョンはある。
しかし、俺は普通のダンジョンに入る前に、隠しダンジョンを探検することとなってしまった。
どうしてこうなったんだろうか。
「なんか、わくわくしません?」
隠しダンジョンという単語だけで興奮しているリビアさんがそう言う。
俺は帰りたいのだが。
このゲームにある通常のダンジョンは、その近くの街もしくはフィールドへ行けばマップに表示される。
ボスも居て、攻略すれば報酬もすごいものが多い。
そのため、攻略より優先される時がある。
そして隠しダンジョンというのが、マップに表示されていない、且つ完全に隠されており、一定の条件を満たさないと現れないダンジョンである。
普通のダンジョンより難易度が高く、報酬や途中で手に入るアイテムも良いらしい。
しかし、見つけるのが非常に困難で、クリアにかなり時間が掛かるほど長く複雑らしい。
因みに、公式でその存在が発表されているが、βテストで見つけた者は誰もいないらしい。
情報源はシルブだ。
しばらく足音のみが響く沈黙の中を歩いていると、リビアさんが急に立ち止まった。
「あれ、モンスターですよね?」
リビアさんの指差す先には、いかにも強そうな、武装した図体のでかいオークがいた。
巨大な斧を右手に持ち、革の防具を装備している。
ギガントゴブリンほどじゃないが、筋肉が派手で殴られれば俺程度のステータスではただじゃすまないのは確かだ。
黒に近いほど濃い緑色の肌に、平らでデカイ鼻。
豚の様な顔。
正直、とても格好良いとは言えない。
オークって、確か豚人間だったはずだし。
「よし、じゃあ帰ろうか」
「いやいやいやいや、戦ってくださいよ」
「ふざけんな!あんなのと戦ったら死ぬの確実じゃねぇか!」
「私は大丈夫ですよー、盾がありますから。心配してくれてありがとうです」
「だからお前じゃなくて俺が危ないんだよ!お前が明らかに俺を盾にしようとしてるから!」
彼女が「盾」という言葉を妙に強調しながら、俺を見ているのでそれは確実だ。
『力を貸した方がいいか?』
シルブが念話でそう問いかけてくる。
「(いや、彼女に見られるのは不味い。)」
一番良いのは、俺の実力だと不可能だということを伝えることだろう。
それがだめなら、全力を出してる様に見せて死なない程度にやられることだ。
「俺じゃ絶対倒せないよ、あんなの」
「そういうと思いましてですねぇ、ジャジャーン!」
そう言って彼女がインベントリウィンドウから俺に見せたのは、大量の自作アイテムだった。
鍛冶で作った武具防具もあるし、様々な種類の薬の様なものもある。
「これ、リビアさんが作ったのか?」
呆然とそう返した。
「ええそうですよ?薬の方も多少、生産系のゲームの知識がありまして、そこから独学で結構発展したものですよー」
そう言いながら、彼女は笑った。
そう遠くない位置にオークがいるので、あまり笑える状況ではないのだけど。
しかし、彼女の技術については馬鹿にすることができない。
このゲーム、CFOは、中途半端に現実的な要素を殆ど全てに加えている。
例えば慣性の法則で、ある程度高い速度から障害物にぶつかればダメージを受けたり、鍛冶も某太鼓ゲームのシステムを使いながらも意外に手順などがリアルだったり。
薬は流石に本物のレシピなどを使うことは殆どない。
しかし、生産系のゲームのテンプレを使ったりしているので、それを知っていれば習わずとも基本的な調合ができる。
そこまでは薬を作るプレイヤーとしては普通だ。
凄いのは、そこから自分で研究して法則性を見つけ、独自の方法で発展させたことだ。
1を聞いて10を考え、そこから更に30を考察によって導くようなものだ。
よほどひらめきが利くのだろう。
彼女によれば、生産は趣味で、ずっと変わったアイテムを作り続けてきたという。
始まりの街では、その技術で作った通常より回復量の高い薬草を低コストで売り、生活していたらしい。
「で、その薬品の効果は?」
「身体強化です!それも、かなり効果が高いやつ!所謂、どーぴんぐってやつですよ」
「自分で使ったらどうなんだよ……」
「試作品だから、自分が使うのはちょっとですねー」
「それ危険性があるってことだよな」
「ぎくぅ」
俺が彼女をじっと睨むと、リビアさんは焦った様な仕草で無理矢理アイテムを俺の手に握らせた。
「だ、だいじょうぶですよー、死にはしませんからぁ」
「もはや生死の問題になってる時点でやめようと思ったよ」
薬は恐らく他のもろくなものが無さそうだ。
なら、次は武器だ。
「武器を見せてくれませんか?」
「えぇ?殆どネタ装備ですよ?水鉄砲とかピエロの服とか」
「……とりあえず、全部見てから」
そうして俺はリビアさんのインベントリウィンドウを覗き込むが、いつものように、運は味方にならなかった。
オークが俺達に気づいたのだ。
「グオオオオオオオォォォッ!!」
「やばっ……」
俺はリビアさんを手で後ろに退け、オークと対峙した。
奴は、丁度斧を振りかぶっているところだった。
「ッチィ!」
足を地面に叩きつけ、その勢いで横に転がった。
仕方なく、俺はインベントリから自作の長剣を探した。
始まりの街を出る前に作ったものだ。
自己防衛用だから、俺の身長に合う様に作った。
長剣は二本あったが、STRが足りないから二刀流として持ってもまともに動けるはずがない。
よって、俺は一本の長剣を両手に構え、オークと対峙することにした。
「オオオオォォォォォォッッ!!」
オークの咆哮とともに、つばのエフェクトが俺の顔面に向かって飛んでくる。
リアルすぎるだろ、と愚痴りながらも俺はそれを避け、奴の懐に飛び込んだ。
ここなら、斧の範囲外だ。
「ハァッ!!」
肩の上に振りかぶり、遠心力を加える様に横から長剣を振り回した。
刃はオークの脇腹に当たるが、そこで止まってしまった。
そこに鎧はない。
つまり、筋肉だけで受けたということだ。
「やっぱりこの隠しダンジョン、高レベルすぎるだろ」
そんなことがありうるのは、よっぽどオークのVITが高いのか、武器の性能がオークに比べて低いということだ。
俺の作る武器は、生産組でもそれなりに性能の高いはずだったのに。
「やっぱり、シルブのスキルを使うしか………」
そう思い、右腕の腕輪を掲げようとしたその時。
「ナギサさん、これを!」
背後からリビアさんの声がしたと思い振り向くと、何か飛んできた。
「うぉっと!?」
慌てて長剣を右手に持ち、左手で飛んできたソレを掴む。
ちゃんとした武器があったのか………!
「って水鉄砲かいィィィ!」
今回の戦闘は、なんだか漫才の様だ。
俺はツッコミかよチクショウ。
「大丈夫です!それ、なんと15メートル以上も飛ばせるんですよ!?」
「知るかァっ!」




