17: Drills in Fantasy Games
次回でやっと20回です
時はゴドさんに弟子入りした翌日。
気持ちの良い朝で、特に何事もなくベッドから起き上がり、俺は新たな自室から出た。
しかし弟子の住居スペースのリビングでは、リビアさんはユウリを問い詰めていた。
「ねえねえ、アナタのお兄ちゃんってどんな人なんですかー?」
リビアさんがユウリに迫りつつそう言う。
ユウリは迫る顔に戸惑いながら、俺に気づき、助けを求める視線を送っていた。
「あの、何をやっているんですか」
「何って、情報収集ですよ~」
にっこりスマイルで俺にそう言うリビアさん。
一体なんの情報収集なんだか。
「オメェら、朝の仕事だ!鉄鋼石を掘りに行けェ!」
師匠NPCのゴドさんが自室から出てくるなり、そう言った。
朝から採掘とか、かなり厳しい師匠みたいだ。
「こんな朝っぱらからですかぁ?」
「当たり前だ!」
どこの漫画の修行偏だよ。
それに採掘といっても、どれくらいの量を入手すればいいのだろうか。
『師匠NPCより師弟クエストが発注されました。時間制限内に鉄鋼石を5つ採掘して下さい。
報酬:【スタンダード採掘ドリル】 カテゴリ:採掘用道具』
「「やります」」
二人同時で、即答だった。
だって、ドリルですよ?
たとえ採掘専用だとしても、ドリルとは男のロマンだ。
リビアさんが何故即答したのは分からないけど。
「ドリルはっ、男のロマンであります!」
――――いや、あなた女でしょう?
しかし、そこを突っ込む者は誰もいなかった。
そして、ファンタジーゲームに何故ドリルがあるかということも。
どうせマザーコンピューターの仕業だろう、もしくはファンタジーとある程度の文明を両方持ち合わせたゲームなのだろうと俺は解釈した。
もうすぐ時間制限の9時になる頃、街の外の洞窟の入り口付近で採掘をしていた。
そして、時刻は8時44分。
リビアさんの手元にシステムメッセージが開いた。
『鉄鋼石x1を入手しました』
「っしゃああああ!!一番乗りですよおおおおおおおっしゃあああああああ!!」
「いや、はしゃぎすぎだろ」
これでリビアさんのドリル入手は確実。
別に、どっちが先に鉄鋼石を5つ入手するか競い合っていた訳ではないのだが。
俺は4つ入手しているので、あと1つだ。
背後でリビアさんがはしゃいぎ回ってる中、俺は黙々とピックを岩壁に叩きつけ続けた。
『鉄鋼石x1を入手しました』
気づけば、そう表示されたシステムメッセージが手元に開いていた。
どうやら無心に岩壁を叩きすぎていて気づかなかったらしい。
「五個目ゲット」
「残念、一番乗りは私なのですよ~」
リビアさんが自慢げに胸を張った。
「別に競ってないからな」
「またまた、負けず嫌いなんですからぁ」
「いや知らんし」
この人はホントに人の話を聞かないな。
「あれ、ナギサ君、うしろ―――」
「え?」
リビアさんが俺の後ろを指差し、俺は振り返る。
別に、引っ掛けに引っかかりやすいという訳ではない。
リビアさんが指指した瞬間、俺の後ろから轟音が響いたからだ。
「壁に、穴が、開いてる……?」
リビアさんがあんぐりと口を開けながらそう言うが、俺はこの現象にデシャヴを覚えた。
シルブと最初に出会った時と一緒だ。
つまり、この先にいるのは、
『いや、隠しボスとは言い切れんぞ』
シルブが腕輪の中から念話でそう言った。
「どうしてさ」
『隠しダンジョンもこうして隠されてるからだ』
「か、隠しダンジョン?」
「え、何?隠しダンジョン?」
思わず声を漏らし、リビアさんが反応する。
「じゃあ、早速行ってみましょう~!」
「しまったあああああああああああああ!」
この人の近くで、よりによってあの単語でのみ声を漏らしたなんて。
なんて失態だ。
「あ、あの、先ずは装備を揃えたりしてから……」
「私は大丈夫です」
「でも俺が……」
「ええい、男はその拳で戦ってくださいよー!そして私の盾になってくださいよー!!」
「本音が出てる!?」
この人絶対俺を身代わりにするつもりだ……
何か、何か止める方法はないのか。
(いや、あった!)
「クエスト達成しないとドリル貰えませんよ?」
そう、クエスト報酬である。
これで平然とダンジョンダンジョンなどと騒いでいられるまい。
「そ、そうでしたァ!急いで帰って急いで戻ってきましょう!」
そうして俺は袖ごと無理矢理引っ張られる。
え、何で俺も?
「え、もしかしなくても俺もここに戻るの!?」
「だって盾――じゃなくて、仲間が欲しいですもん!」
「今『盾』って言ったぁああ!今俺のこと『盾』って言ったああああ!!」
俺の心からの叫びは儚くも青い空に響き渡った。
そして、帰ってきたゴドさんの工房にて。
相変わらず、作業の際に発生した煙が充満している。
「よし、これが報酬のドリルだ。言っておくが、戦闘には使えねえからな」
ゴドさんは人間味溢れる仕草でそう言うと、俺達の手元にシステムメッセージが開く。
『師弟クエスト【朝の採掘】をクリアしました。報酬を受け取ってください』
『報酬:【スタンダード採掘ドリル】、経験値』
そして俺のインベントリが開き、中に【スタンダード採掘ドリル】というアイテム名がドリルの絵のアイコンと共に加わった。
「このドリルの使い方を教える」
「「よろしくお願いしまァす!!」」
もちろんここも即答。
ドリルは、男のロマンであります!
インベントリから【スタンダード採掘ドリル】を取り出し、俺達はゴドさんの説明を待った。
【スタンダード採掘ドリル】の外見は、工事現場で使う様なドリルだった。
色は塗られてなく、そのままなのだろう、鉄の光沢を纏った銀色だった。
それから十分ほど掛けて、ドリルの説明をゴドさんから受けた。
流石VRというべきか、そこまで難しいことではなかった。
現実だったら重さとか制御性も全然違うだろうに。
ゴドさんの説明を一通り聞き終えると、リビアさんはすぐさま動き出した。
「じゃあ、早速あのダンジョンへGOです!」
「ちょ、待て引っ張るな布が千切れ、いやVRだから千切れないけどやめろおおおおおお」
そしてリビアさんが俺の右肩を掴み、足早にその場を去った。
俺を誘拐しながら。
「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ……」
叫び声を上げる俺を遠くから見送ったのは、心配そうな表情をしたユウリだけだった。
そう、俺は今日、絶対に忘れてはならない一つの事実を学んだ。
リビアさんの好奇心は、彼女の行動原理のほぼ全てだと。
リビアさんにはきっと「好奇心、猫をも殺す」なんて言葉は通用しません




