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16: Apprentice

タイトルの意味は「弟子」

「ふぁああ………眠い」


欠伸を絞り出しながら、ベッドから起き上がった俺は背伸びをする。

今日もまた、生産アビリティを磨く予定である。

勿論、素材集めの狩りもするが。

この町周辺は、生産職も安全に戦える様に弱いモンスターばかりなため、ユウリも許してくれた。


今日は、職人の里アールに着いてから二日目。

俺達は昼前に無事、一番乗りの人々と同時に到着した。

昨日の夜になる頃には、既に大勢のプレイヤーが辿り着いていた。


「おはようございます、ご主人様っ!」

「おはよう、主」


「ああ、おはようノワール、シルブ」


ベッドの隣では、シルブとノワールがちょこんと正座をしていた。

俺の目覚めを待っていたらしい。

二人とも小学生くらいにしか見えないから、なんとも暖かい光景なのである。


「ご主人様、疲れてるのですか?」

「まあ、な」


ノワールの可愛らしい上目遣いに絶えながらも、俺は苦笑いでそう返した。

(こいつは男だ、こいつは男だ…)

心の中でそう繰り返し、俺は目を逸らさずに済んだ。


「ほほう、主、もしや」

「な、なんだよ」


シルブがニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、彼女は突然俺に飛びついた。


「うわぁああっ!?」

「ご主人様~、ちょっと甘えさせてくれよ~」

「頬ずり!?やっ、止めろ! 何だよ急に!」


俺の理性がああああああああああ、と内心叫んだ俺であった。


が、シルブは俺から離れず、満面の笑みで頬ずりし続けていた。













「いやあ、照れてる主も可愛いかったなぁ~」

「お兄ちゃん達何やってたの?」

「いや、何でもない…………!」


テーブルの上の食べ物を口に放りながら、俺はなんとか誤魔化した。

結局、シルブは10分近くも俺をからかい、俺は精神的な耐久力が0.5になるまで減らされた、と思うくらい疲れた。


ここは、俺達がこの町、アールに来てから泊まった、アールの数々の宿の中の一つ、『雨宿(アメヤド)』である。

名前については触れないでおこう。

安かったのだ。


今いるのは、この宿の食堂だ。


「で、この町に来たは良いけど、これから何をするの?」

「ああ、生産系アビリティを鍛えられるらしいからな。 俺は鍛冶とかを磨くつもりだ」


確か、生産系アビリティ一つに付きそれを教えるNPCがいるってシュウヤが言っていた筈。


「戦闘がメインなネットゲームな筈なのに、殆どの人が生産を選ぶなんてね……」

「まあ、皮肉だよな」


辺りを見回すと、かなりの人数の人がこの広い食堂に集まっていた。

皆、戦闘せずに攻略の役に立てる生産職になりに、この町に来たらしい。


始まりの町はかなり広かったとはいえ、見た目不衛生なのに人口密度が多くてしょうがなかった。

が、今は攻略側と生産側に二等分されてだいぶ人が少ない。


少ないと言っても、3万人近くを一つの広い街に収めている様なものだが。

宿が沢山あるのと、ゲームプログラムによる異常な部屋の広さのお陰でそこまで窮屈ではない。

でも、やっぱり多いものは多い。


「さて、そろそろ出るか」

「そだね」

「うむ」

「そうですね」


何時の間にか四人組になっていることにすっかり慣れ、俺達は宿を出た。

ここからは、鍛えたい生産系アビリティの教官NPCを見つけなければいけない。


「私はお兄ちゃんといる」

「わかった。じゃあ、鍛冶のアビリティを鍛えよう」


メニューウィンドウでマップを確認しながら、俺達は《鍛冶工房》に向かって街を歩いた。

女2人、見た目女な男一人と一緒に歩く俺は『爆ぜろ』と念を込められた視線を受けていたのは余談だが。





「ここ、か?」


しばらく歩いていると、目的地に辿り着く。

そこからは、他のプレイヤー達が工房から出て行くのが見えた。


「おい、どうしたんだ?」


走るプレイヤー達の内、一人にそう訪ねた。


「クエストだよ。鍛冶の材料集めて来いだってさ……ったく、材料なんて一体どこで……」


そう言い残し、彼は足早に去って行った。


「なんか、不味いのかなあ?」

「いや、ただのクエストなら大丈夫だろ」


工房の木製の扉に手を掛けると、「キィ…」と耳障りな音が犇く。

この工房は古く設定されているのだろうか。


部屋の奥では、せっせと真っ赤に熱せられた剣を槌で叩いているおじさんがいた。

あの規則的な動きは、NPCに間違い無い。


「すいませーん、鍛冶アビリティを鍛えたいのですが」

「俺に教えてもらいたいのなら、鉱石持って来い」

「は?」

「俺に教えてもらいたいのなら、鉱石持って来い」

「あ、はあ」


すると、目の前にシステムメッセージが現れた。


『クエスト:ゴドの弟子になりたければ、《カテゴリ:鉱石》に類するアイテムを50つ渡せ』


このおじさん、ゴドって名前なのか。

50の鉱石ならもうあるんだけどな。

これでも始まりの街で雑貨店(らしきもの)開いていたからな。


ただ、この時点で一般プレイヤーがすぐに出せる代物ではないだろうな。


「鉱石ならもう持ってる」

「ほぉ、渡してみろ」


すると、また正面にシステムウィンドウが開く。


『クエストをクリアしました。これにより、貴方の【師匠NPC】はゴドに設定されました』


なんとか弟子入りとやらができた様だ。

そして、追記もあった。


『追記:なお、これにより、NPCの知能プログラムを改良しましたよ。 マザーネットワーク、通称マザちゃんより』


またなんか余計なことしやがったなあの狂プログラム。

しかも通称マザちゃんて、自称の間違いだろ。


『サービスサービス♪』


今の脳内に響いた声は無視するとしよう。


「んで、オメェは何がしたい?」


ゴドさんがそう問う。

その仕草は、NPCの様な規則的なものではなく、まるで人間そのものだった。

シルブやノワールの知能プログラムも同じ、いや、それ以上だろうか。


「あ、はい、鍛冶がしたいです」

「ンなこたァわかってら。何を作りたいんだオメェは」

「じゃあ、鍛冶全般で」

「集中したい科目は無いんだな。うし、じゃあ着いてこい」


そう言うと、ゴドさんは横のドアを開く。

そこは、リビングの様な広い部屋だった。


「ここが、弟子の住居スペースだ」

「住んで良いんですか?」

「いいさ、どうせ無駄に広いしな。だが、一日10G頂くぜ」


かなり安い家賃だ。

これで宿にも泊まらなくてすむ。

食事は『雨宿』で結構おいしかったけど、まあいいか。


「よーし、オメェらの先輩もいっから、仲良くしとけよ」

「先輩?」

「先に弟子入りしたやつだ」


そう言いながら、彼は奥にある幾つものある扉の内、一つを開いた。


「あれ、ゴドさん?って、何分か見ない内にヤケに動きが人間っぽくなりましたねえ」


そこは個室で、個室の机の前に座っていた少女がいた。

髪が明るい緑色だから、シュウヤ同様、多分キャラ作りをちゃんと行ったのだと思う。


「あれ、その人達は誰?」

「こいつらは、新しい弟子だ」

「あたしが弟子入りしてからまだ数分しか経ってないでしょうに」

「時間は関係ないだろ。誰がクリアするかだ」


あのクエストは明らかに、一般プレイヤー用ではない。

事前にこういう作業をやり、十分特化していなければ、50個もの鉱石なんて早々手に入るものではない。

マザーネットワークめ、プレイヤーの大半を無職にするつもりかよ。


「うーん、なんっかゴドさんが人間過ぎておかしい気がしますけど、まあいいや。あたしはリビアですー。君達より数分先の兄弟子ってことになりますね!」


そう言い、リビアは俺に手を差し出した。


「俺はナギサだ。もしかしなくても、この街に来る前も鍛冶を?」

「ええ、やってましたよ?あの狂ったコンピュ―ターも思ったより残酷ですねぇ、記憶を掛けたゲームに、大半のプレイヤーの無職化を誘うなんて」


リビアはそう言うと、俺の後ろの方を見た。

そして、何故か口端をにやりと歪めた。


「ねえ、ナギサ君って、ラッキースケベ?」

「はあ?」

「じゃあリア充?」

「なんのことだ?」

「何って、三人もの美少女を連れて歩くなんてラッキースケベかリア充くらいしかいないじゃないですかぁ」


ニヤニヤしながら彼女はそう言う。


「別に、妹とその友達が同行しているだけで、そんなことは考えていないぞ?」

「え、じゃあまさかナギサ君って男が――」

「それだけは違うとだけ言っておこう」

「本当にぃ?」


なんだか、面倒くさそうな人だな。


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