14:Noir
『【絶望の黒騎士】を使い魔にしますか?』
「これ、どうしようか・・・・・・」
「いや、そこはイエスだろ普通。」
手元に表示されているウィンドウを眺める俺と、その隣で同じウィンドウを覗くシュウヤ。
俺は悩んでいるが、シュウヤは迷わず『イエス』を押す様ことに肯定していた。
大きな戦力になるのは確かだ。
しかし、しかしだ。
相手はあのマザーネットワークが直々に仕向けた隠しボスだ。
怪しすぎる。
そう簡単に使い魔になったら普通は疑うものだと思う。
何か罠があってもおかしくはない。
『何かあれば使い魔を開放すれば良いから、今は別に良いんじゃないか?』
シルブも使い魔にすることを肯定した。
確かにメニューから使い魔を解除して開放することはできる。
でも、例外は存在するのだ。
現に、シルブはプログラムの上書きによってそれができない様になっている。
「良いから押せって。相変わらず優柔不断だなあ」
「わかったよ・・・・・・」
そして、俺は若干緊張しながらも『イエス』を押した。
『【絶望の黒騎士】は貴方の使い魔となりました。これより、貴方のステータスに合わせて調整します。先ずは名前を決めて下さい。』
シルブの時にはこれは無かったな。
あの時は強制だったからなのだろうか。
とりあえず黒騎士の「黒」に馴染み、【ノワール】と打ち込む。
フランス語で「黒」の意味を持つ単語だ。
すると右手の腕輪が光った。
が、それ以外は何も起こらない。
「な?何も起こらなかったろ?」
「あ、ああ・・・・・」
『試してみてはどうだ?』
「あ、ああ、そうだな・・・・・・」
意外なあっけなさに若干驚きながらも、俺は右手の【召喚の腕輪】を掲げた。
「【召喚:ノワール】
そう唱えると、正面にはさっきの黒騎士とは大きく変わった人影が光と共に現れた。
黒騎士が名前の一部でもあるのに、鎧が無い。
勿論、兜も無い。
代わりに着ているのは黒を基調としたシャツとズボンだ。
黒騎士だから黒なのだろう
首元まである黄金の髪は月明かりに晒され、その紅い瞳は俺に向けられていた。
これだけでもかなり変わった容姿なのだが、赤髪赤眼と銀髪青眼が俺の周りに揃っているのでこのゲームではそんなに珍しくはないはず。
唯一目を引く特徴は――
「お呼びでしょうか、ご主人様」
俺を見上げてそういうノワール。
身長は140cmくらいだろうか。
先ほどは2mはあった筈の黒騎士は、今やただの黒い部屋着を着た小学生だ。
シルブと同じくらいの身長だと思う。
顔はかなり中性的だが、ステータスには一応男と記されている。
「・・・・・・私の顔に何か着いているのですか?」
俺がずっと眺めていたせいか、ノワールが不思議そうに首を傾げる。
何気に可愛い。
小動物の様な仕草である。
「あ、いや、さっきは2mくらいあったよね?今はなんでこんなに小さく・・・・・・」
小さく、と言った瞬間、ノワールはむっ、と眉を寄せた。
「これはこのゲームにプレイヤーとして溶け込むのに必要な容姿なのです!貴方が望むのならいつでもあの黒騎士の姿になれます!」
「ということは普段はこの姿じゃなきゃいけないんだね・・・・・・」
「はい・・・・・・この容姿は変更不可の様です・・・・・・でも黒騎士だとあまりにも怪しいですし・・・・・・」
眉が八の字になり、あからさまに落ち込むノワール。
若干涙目でもあった。
その仕草も可愛く、保護欲をそそる。
本当に、なんで男の子なんだろ、と思うほどに。
横を見ると、シュウヤも同じ様なことを考えていたのか、顔が緩んでいた。
『ち、ちっちゃくて可愛い奴だな・・・・・・』
シルブも同意見の様子。
というかシルブ、お前はノワールと身長そんなに変わらないだろうに。
「とりあえず、帰ろうか」
もうすぐ朝の3時、早く帰らないとユウリに怒られる。
いや、もうバレて怒られるのは確定的か。
俺達はボスを倒して、この森の先のマップを解放したのだから。
このゲーム、CFOの世界は、幾つもの大陸からなる。
《始まりの町》があり、現在俺達がいる【アルマ大陸】。
〈ビギニングフォレスト〉の先のマップが解放されて初めて《始まりの町》以外の町やフィールドに行ける様になる。
要約すると、〈ビギニングフォレスト〉のボスを倒したお陰で、アルマ大陸の全域が解放されたのだ。
その事実が翌朝、全プレイヤーに知れ渡る。
他の大陸に行くには、アルマ大陸で唯一の港町へ行く必要があるが、βテストではそれが封鎖されていて、解放するクエストをしなければならないらしい。
〈ビギニングフォレスト〉の先が解放されたことによって、攻略組の士気は上がり、効率も良くなる筈だ。
活動範囲が大きく広がるのだから、当然だろうが。
そして攻略組の目指す、グランドクエスト。
それはまだ不明だ。
何せ、俺達はまだゲームの序盤なのだ。
だから攻略組は、まず全ての大陸への道を開放して片っ端からクエストをやり、情報を集めなければならない。
確か、マザーネットワークは「ラスボスとして待ち受ける」とか言っていた。
なら、ラスボスはマザーネットワークのAIが操作しているのだろう。
それはまだ遠い先の話だが。
「着きましたね!」
そんなノワールの声で考察から一旦離れ、俺はまだ暗い《始まりの町》へと辿り着いた。
男の娘、登場です




