11:〈Gigant Goblin〉
せっかくのボス戦なのに短いなあ、と思ったのでこの話だけ改訂しました。
シュウヤの活躍が増えるだけですが、一応長くなりました。
森の木だったオブジェクトが次々と殴り倒され、そこから月明かりが差し込む。
地面には倒された木々が散らばる。
そしてその中心には、およそ3メートルほど高いゴブリンが、ゆっくりと歩みを進める。
頭上に〈ギガントゴブリン〉と表示されている。
進行方向は無論、俺とシュウヤの二人だ。
状況はかなりまずい。
何故なら、俺のMPは既に切れ掛かっているからだ。
【フォーカスブースト】は使用時間に比例してMPを消費するスキルだが、何せ俺はMP値が低い。
計算上、最大MP値の状態から1分程度で切れる。
シルブは人間の姿である限り、召喚中はMPを消費しない。
ただ、人の姿でも召喚するのにMPが50程食われる
ドラゴンはもっとだ。
当然、俺にそんなMPは残ってない。
唯一戦えそうなのは、隣でぽかんとしているシュウヤだ。
なんだか頼りない表情なので期待はしないが。
確か、シュウヤの武器は長剣と拳銃だったか。
長剣は背中の鞘に、拳銃は腰のホルダーにあるままだが。
逃げるしかないかもな。
「シュウヤ、ぼーっとすんな!逃げるぞ!!」
俺はシュウヤの首元を掴み、引きずる様に後方へと駆け出す。
――が、
キンッ、と身体が見えない何かに弾かれた。
弾かれた所に手を伸ばしてみると......何かある。
ペタペタと両手で探ってみるが、どうやら見えない壁、所謂《結界》の様だ。
「コイツはβテストの時いた、最初のボスモンスターなんだ。ただでさえ強いのに、今はゲームの難易度がかなり上がっている。恐らく一回でも当たれば死ぬ。ヤバイ状況だぞ、これは...」
シュウヤがそんなことを呟く。
「この結界は、《ボスフィールド》だ。倒さない限り、抜け出せない」
それを聞き、俺はあの化物を倒さないと帰れない事実を認識した。
「上等じゃねぇか......」
「ナギサ!?お前、この状況を分かってんのか!?死んじまうんだぞ!」
「でも、逃げられないんだろ?だったら戦うしかないだろ」
こいつを倒せば、やっと次の街へ進めるんだ。
このチャンスを逃す訳にはいかない。
恐らくこいつの出現条件は時間、つまり夜中に狩りをすることだ。
シュウヤがそれを知らないのも、今まで誰も見つけていないのも、難易度が上がって出現条件が増えたからだろう。
いや、見つけているプレイヤーはいるのかもしれない。
ただ、こいつにやられて記憶を失くしただけ、というのも有り得る。
『グオオォォォォォ―――――ッ!!』
ゴブリンの癖に、獣らしい遠吠えだ。
「やばいっ......!」
後ずさり始めるシュウヤ。
今の遠吠えは、ただの威嚇なのか。
それとも――
結論を出す前に、ギガントゴブリンが動いた。
大きく一歩を踏み出し、一気に俺達を目指した走り始めたのだ。
予想外にも、巨体の割りにはかなり速い。
あと数秒で追いつかれる――
「逃げるぞ!」
「今更何を――っておい!?」
なんの返答も待たずに、シュウヤの首元を再び掴んで走った。
今はなんとか逃げるしかない。
「いや、策を思いついた。シュウヤ、しばらくアイツの気を引き付けててくれ。」
走りながら、後ろに向かってそう言い放った。
「はあ!?俺が死ぬだろうが!」
「戦わなきゃどっちにしろ死ぬだろうが!大丈夫、勝機はある!」
このまま、何もせずに死ぬ訳にはいかないし、何より、俺にはその力がある。
シルブという、元・隠しボスである使い魔が。
「―――っだあああ!わあったよ!何もしなかったら意味も無いしな!やってやるよ!」
そう言うと、シュウヤは後方に駆け出した。
右手には長剣を、左手には拳銃が握られている。
それを確認し、俺は殴り倒された木の後ろに隠れる様にしゃがみこんだ。
身の安全のため、というのもあるが、それよりも重要な俺の役割がある。
薬草の採取だ。
この状況を打破するには、シルブを召喚するしかない。
そのためにMPを補充しなければならないから、MPを回復するマナ草を採取する作戦だ。
シュウヤは時間稼ぎの様な役割だが、それもかなり重要だ。
何せ、俺はステータスがまだ低いからな。
ギガントゴブリンの攻撃に掠りでもしただけで死ぬかもしれない。
「いい加減、クリティカル判定とか食らえってのッ!【スィフトリロード】!【シャープバレット】!」
どうやら、シュウヤは銃による遠距離戦でなんとか保っているっぽい。
後方でシュウヤの咆哮で彼の状況を認識しながらも、俺はせっせと薬草を見つけては口に放り続けた。
青汁並に苦いが、視界の端に見えるMPバーがみるみる回復しているのが視認できた。
「そろそろ全開だな」
マナ草は一本辺り20MPしか回復しないが、俺の全MP値は80なので4本だけで済む。
念のためにあともう20本くらい手に持ってるが。
「シュウヤ、囮役サンキューな!ちょっと下がってろ!」
「やっとか!ギリギリだけど助かった!」
シュウヤが後ろに退くのを確認し、俺は一先ず深呼吸する
そして、腕輪の着いている右手を掲げる。
「【召喚:シルブ】、【モード:ドラゴネス】!!」
そう叫ぶと、目の前に巨大な光の球が出現した。
光球は除々に形が変化し始め、その内光が納まった。
姿を現したのは、銀色の鱗を纏った巨大なドラゴン、〈シルブ〉だ。
『状況は理解した。このボスモンスターを排除すれば良いのだな。』
「ああ、なるべく速く頼むぞ。MPがもう減り始めてる。」
事実、俺の視界の端に表示されているMPバーは、急激な速度で減り始めている。
手に持ってるマナ草を咥えてなんとか持ってるが、あと二十秒足らずで尽きるだろう。
というか、マナ草が苦すぎてそれも持たなさそうだ。
『了解したぞ、主よ。』
頭の中に響くシルブの声はそう言い、本体はギガントゴブリンを睨んだ。
当のゴブリンはと言うと、シルブの存在に驚いた様で少し後ずさっている。
シュウヤはというと、倒れている木々の陰に隠れている様だ。
シルブの竜の姿を驚いた顔で見ている。
俺が声をかける前に、シルブが突然光り始めた
『【ドラグーン・ボルト】』
そんな言葉が、脳内ではなく周囲に響き渡った。
――刹那、
ギガントゴブリンの頭上に巨大な幾何学的な紋章が何重にも重なって現れた。
あれが魔法陣なのか、と呟くも、その後一瞬声を失った。
紋章の中心から、光が噴き出し、ギガントゴブリンに降り注いだのだ。
正確には、何十万ボルトという量の雷が、
――ギガントゴブリンを上から下まで貫いた。
今更改訂とかすみません。




