10:First Kill
タイトルの意味は「初狩り」。
レビューを書いてもらってテンション高いです!
ここは月明かりの届かない、不気味なくらい静かな森。
暗闇の中、俺、シルブ、シュウヤの三人で第一フィールドである〈ビギニングフォレスト〉を歩き回っていた。
シュウヤと相談し、初狩りをすることになった夜だ。
俺、シュウヤ、シルブ以外、人が見当たらない。
それもそうだろう。
夜の狩りは分が悪いのだ。
視界は暗く、夜にしか存在しないモンスターもいるので囲まれる危険性が高い。
ただでさえ難易度が高いというのに、そんな条件で戦えるプレイヤーなどごく僅か。
シュウヤくらいの廃人ゲーマー達辺りだろう。
「ナギサ、お前武器は持ってないのか?」
シュウヤの一言で気づく。
俺は剣どころか、武器になりそうな物は一つも持っていないのだ
「武器は......魔法とシルブだな。」
現在攻撃に使えるアビリティやスキルがあるとすれば、《魔力》、《雷属性》、《火属性》、そして使い魔であるシルブの力。
火属性魔法は鍛冶職をやっているため使い込んでいるが、雷属性の魔法を使ったのはシルブの仕掛けた《地割れトラップ》とやらを発動させた一回っきりだ。
シルブはというと、俺の使い魔として俺のステータスに合わされてLv.1となっているため、隠しボスとしての力は不完全だ。
例えアビリティやスキルがあっても、今はMPが低いため使えないものが多いし、威力に関係する数値も低い。
まあ、低いと言っても俺のステータスの10倍以上はあるが。
流石は隠しボスと言ったところか。
「おい、何かいるぞ。」
しばらく歩いていると、何かに感づいたかの様にシュウヤが正面を指差す。
シュウヤの指差す方向には、確かに何かの影がガサガサと茂みを揺らしながら動いていた。
それも一つではなく、複数だ。
そして、飛び出たのは全て緑色のゲル状の物体。
それらの上にはスライムと表示されている。
数えると4匹いる。
俺はシュウヤを見てみる。
が、「自分でやってみろ。いざという時は俺が助ける」とでも言う様な視線を向けられた。
どうやら一人でやらなきゃいけないようだ。
だが、問題が一つ生じる。
俺の攻撃は魔法しかないのだ。
魔法は三種類ある。
厨二くさい台詞を1~2文ほど口に出す《詠唱魔法》。
魔法陣を描いて設置し、更に魔力を流すことによって発動する《陣魔法》。
そして属性のイメージを思い浮かべて魔力を放出する《想像魔法》だ。
因みに対シルブ戦で使ったのは《詠唱魔法》の【サンダー】だが、苦し紛れに魔法名しか言っていないので威力は殆どない。
そもそも《詠唱魔法》はフル詠唱だと時間が掛かる。
《陣魔法》余分にMPを使うし、設置型だからこの位置からは使えない。
唯一この状況で使える《想像魔法》も、属性をどう利用するか自由だが、消費するMPが威力に比例する。
なのでMP値がたったの80しかない俺は全MPを使って魔法を放つくらいでしか高い威力の魔法は出せない。
『主よ、こんな時のために私がいるのだ』
俺の一瞬の考察を妨害したのは、頭に直接響いたシルブの声だった
主と使い魔の間のテレパシーの様なもので、他の人達には聞こえない。
『私をその腕輪に戻せ。あとの説明は実行してからだ』
「......分かった。【帰還:シルブ】」
すると、一瞬だけシルブが光り、俺の腕輪に吸い込まれた。
『あとは【アビリティゲイン】と唱えるだけだ。3分間だけだが、私の持つアビリティやスキルが使用できるぞ』
「(俺がやる意味は?)」
『勿論、主の戦闘経験を積むためだ。』
やっぱりそうか、と思わず溜め息を吐きそうになる。
が、結局言われた指示を決行することにした。
「【アビリティゲイン】」
すると腕輪が僅かながら青く発光する。
これで俺のMPで足りる範囲のシルブのスキルや魔法が使える。
たったの80MPで使えるスキルなどあまりないが。
もうどれを使うかは決まっている。
「【フォーカスブースト】」
一時的に、集中した身体の部位の筋力値を格段に上げるスキルだ。
意識を右手に集中し、拳が腕輪とは違う赤色に発光するのを確認する。
俺はそのまま地面を蹴って一番前のスライムに近づき――
「ハァァァァ!!」
単純に右手を突き出した。
ぶよん、と柔らかいものに当たるが、それも一瞬で吹き飛び、緑色の液体が飛び散る。
「次!」
俺の後ろを狙おうとしたスライムを、今度は左足に【フォーカスブースト】を使って蹴り飛ばす。
その勢いを利用し、地面に足を叩きつけて前方に飛ぶ。
今度は右足に【フォーカスブースト】を使って、だ。
前方のスライムは前に突き出された右足に貫かれ、また緑色の液体が飛び散った。
そのまま勢いを殺さず、右横にいた最後のスライムを【フォーカスブースト】で強化された右手のチョップで半分に割る。
「ふぅ......終わったー」
そんな常人には有り得ない動きでスライムを全滅させた俺は、何故か準備運動でもしたかのような感覚しかなかった。
「まさかここまでチートとはなぁ......ホント呆れるぜ」
一方シュウヤは、しばらく呆然としてたもすぐにそれは呆れた様子へと変わったのだった。
だが、そんな余裕もすぐに消えた。
バキバキと何かが折られる様な音が響き渡った。
その音のする方向に振り向くと、視界に映ったのは容易く折られ、倒れていく木々。
その後ろには、ゆっくりと歩みを進める巨人が。
――正確には、巨大なゴブリンが――
木を殴り倒しながら、俺達へと迫ってきた。
5/18/13:MP値変更




