Prologue
どうも零零機工斗です
宜しくお願いします
「寝坊したあああああああああ!!」
叫びながら、俺は歩道を駆け抜ける。
今日の目覚ましは、どうやら俺に味方しなかった様だ。
時は西暦2082年。
VR技術が一般家庭に加わってから十数年経つこの時代。
ゲームのプログラム技術を利用してデータ上に一つの世界が作り出されたのだった。
そこでは情報をVRで体験でき、プログラムさえできていれば物理法則を無視した現象を起こせる。
その世界こそが《電脳世界》だ。
電脳世界では会社同士の会議をしたり、イベントを開いたり、電脳世界のバイトでお金を得たり、買い物をしたり、様々なネットゲームに繋ぐことができる。
現実から逃げて電脳世界に引き篭もる人達は決して少なくはないが、食事、通学、就職などは現実でしなければならない。
勿論、それは人を電脳世界に引き篭もらせないために通学・就職を現実世界でしかできない様にしているのだ。
今では、生きるための活動は現実世界で、
娯楽や情報などを求める活動をするのが電脳世界だ、というのが一般の認識ととなっている。
人々が《現実世界》と《電脳世界》の両方の世界で生きる、そんな時代である。
「俺は、頑張った......」
『何を言ってるんだお前は』
遅刻で廊下に立たされ、教室に戻ることが許された俺こと宇原渚は、机に頭を突っ伏した。
意味不明な俺の呟きにツッコんだのは、俺の後ろの席に座っている宮代集弥だ。
俺の数少ない友人であり理解者でもある。
『いや、家の目覚まし時計が壊れていてな。そのせいで寝坊して朝っぱらから全力疾走せざるを得なかったんだ』
中学二年B組と書かれた札が見えた頃には、既に遅かったという事実だ。
『そうかい。そんなことはどうでも良いが、明日正式サービスを開始する新作ゲームのこと知ってるか?』
『どうでも良くないだろう。あと俺が新作ゲームの情報なんざ知る訳無い』
俺達は先生に気づかれない様に、AR式携帯から映し出されるホログラムウィンドウを使ってメッセージで会話をしていた。
『じゃあ今データ送るよ』
『いや、別にいいんだけど...』
次に集弥の送ってくれたデータファイルには、最近アイツが楽しみにしていたらしいオンラインゲームについての大まかな説明が書かれていた。
ゲームのタイトルは『Cyber Fantasy Online』、通称『CFO』。
今ではよくある剣と魔法のファンタジーモノのVRMMO(仮想現実大規模多人数オンライン)だが、集弥が言うにはクオリティやシステムが他とはレベルが違うそうだ。
職業は存在せず、代わりに才能の役割を果たす《アビリティ》がある。
この《アビリティ》システムこそがこのゲームの最も重要な要素らしい。
『アビリティ』という単語は英語で『才能』、『能力』という意味だ。
アビリティにはレベルがあり、そのレベルが上がるとアビリティから《スキル》という技が派生する。
例えば《剣》のアビリティなら、アビリティレベルが2まで上がると《剣》アビリティで最初のスキル【スラッシュ】を覚える。
《剣》のアビリティレベルがある程度まで上がると、そのプレイヤーのプレイスタイルに合わせて別のアビリティに進化することもある。
勿論戦闘だけでなく、生産や趣味アビリティもある。
生産アビリティは《鍛冶》、《裁縫》、《細工》、《料理》、《木工》、《調合》、《錬金術》など。
趣味アビリティは《釣り》、《泳ぎ》、《クライミング》、《虫取り》など。
他にも、ボードゲームやミニゲームなどの様々な要素もある。
製作者が言うには、《全てを楽しめるゲーム》だそうだ。
その言い方は流石に大げさだとは思うが、自由度が高いのは変わり無いのでゲーマー達にはかなり期待されていたとのこと。
ゲームの内容を教えてくれるメッセージだったはずだが文章の終わりにはさりげなく『明日一緒に《CFO》やろうぜ!VRMMOをやったことの無いお前でも、《CFO》ならすぐ慣れるから!』と書いてあった。
集弥の言う通り、俺はコイツの影響でゲーム用語については多少の知識はあるがVRMMO自体はやったことが無いのだ。
何故か、と問われればVRゲーム自体にあまり興味がなかったからだろうと思う。
俺のように、画面でやってなんぼだろという人は少ないらしい。
今でも楽しめるんだけどな、80年くらい前に昔流行ったっていう、草むらや洞窟、水中でモンスターを捕まえて他人のモンスターと戦わせる携帯ゲーム機のゲーム。
VRゲームが再びあの名作を作るって話を聞いたからそっちをやろうと思ってたんだが。
でも集弥はかなりCFOの件で気合入ってるみたいだし言っても無駄か、と思いながら俺は溜め息を吐いた。
『今日《電脳世界》で会おうぜ。ゲームをダウンロードするからさ』
『俺はまだ何も......まあいいか』
その後、俺達は先生に気づかれること無く呑気な会話を続けたのだった。
明日、まさかあんな大事件が起こるとは知らずに。
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